[09話] 妙案
きっと相棒は、医療記録ないし損傷報告を閲覧したのだろう。
〈だから……もう! いつも! ◯✕w△▼dr□tgy◆lp!!!〉
〈あれほど、単独行動では気をつけて下さいって!!〉
支援A.Iから叱責される《請負人》……地味に絵面が酷い。
しかも、CクラスA.Iの処理能力が相棒の物言いを無機質で短くしがちなため、感情めいたモノが表に出やすいのは文章の方だったりする。
延々と責められる俺の心理的負荷はさておき、今は状況が状況。早急に相棒を宥めなくてはならない。
もちろん強制権限を用いて黙らせるのは容易だが、そうすることは可能な限り避けて来ている。相棒と関係性を築く上でのチョットとした拘りだ。
A.Iの個性を形成していくのは様々な場面における対話 ―― 究極的には二択に帰結するソレらの膨大な積み重ね。
だとするなら、ここは主人らしく毅然とした態度で接するべきか?
俺の身を案じての反応なのだから、やはりここは折れるべきなのか?
数秒に渡る熟考の結果……俺はいつも通りサッサと降参することに決める。
「すまん、クラリッサ!」
〈私の方こそ取り乱しました。申し訳ありません〉
たちまち普段と変わらぬテンションに復帰する相棒。
切り替えの早さ ―― これもまたA.Iの特性の一つ。ヒトとは顕著に異なる精神構造に起因するらしい。
ホッと息を吐いた俺はこの雰囲気を維持すべく、話の矛先を変える。
「お前こそ、大丈夫なのか?」
〈はい。被弾により、三脚ユニットは機能の大半を喪失〉
〈警戒監視用カメラも破損、自立移動も不可能になりました〉
〈現在は、聴音機器のみで外部監視を続行中です〉
「ボロボロじゃねぇか……」
淡々とした相棒の応答を目にして、しばし絶句。
無事だった事ばかりに気を取られ、ダメージの可能性を失念していた。
相棒自身に深刻な問題は無いようだが……。
「しかし、そうなると益々キビシイな」
〈どうされましたか?〉
俺は《魔女の眼》に対する狙撃を端的に話す。
〈ビル南面が死圏と化している。そうですね?〉 と相棒。流石に話が早い。
「お前が完調だとしても、ノコノコ索敵させれる状況じゃない」
「下手に動けば今度こそ、死体と残骸の出来上がりだ」
そう口にしながら、自然と眉根が寄るのが分かる。
何しろ廃墟に対する監視は、相棒の耳だけが頼り。狙撃手の居場所は依然分からず、相棒が捉えた不明車両も気にかかる……現状に打つべき手は何――
〈屋外映像を持続取得できれば、よろしいのでしょうか?〉
「アテがあるのか?」 と、モニターの文字列に思わず身を乗り出す俺。
〈はい。妙案があります!〉
慎重なパーソナリティを持つ相棒にしては珍しく、自信満々な台詞。
「お前に危険は無いんだろうな?」
〈Yes!〉
「もちろん、俺にも?」
〈……yes〉
若干不安は残るが、このまま俺達で話し込んでも事態は好転しない。
他に選択の余地があるワケで無く、ここは相棒の言う妙案に乗るしかないか?
「直ちに実施を。何よりも狙撃手の潜伏先を知りたい」
〈了解しました〉
――のメッセージと同時に、モニターには利用経験が無いアプリの起動画面。
UAV-KH-system [锁孔-Keyhole-]
“おい! おい! おい! コイツは確か!?”