「獣人」についての解剖学的考察〜耳と尻尾の可能性〜
本稿を開いていただき、誠にありがとうございます。
顕性/潜性遺伝という言葉が出てきますが、教科書には優性/劣性遺伝と書いてあることがほとんどだと思います。2017.9.21に遺伝学用語集が改訂され、それに準拠しました。
本稿は生物学の教科書でも何でもないので、用語の解説はしません。気になる方は各自で調べて下さい。
①序
サブカルチャー作品の多くに、「獣人」と呼ばれている種族が存在する。一方、「獣人」と呼ばれる種族が登場する物語の系譜については、某電子百科事典に任せたいと考える。
今回は、「獣人」たちの身体の構造がどうなっているのか、地球上の生物の特性を元に、考察していきたい。筆者は別に解剖学や遺伝学の専門家でもなんでも無いので、もし、更に詳しい方がいらっしゃれば、是非意見を賜りたい。
また、生物の学名は斜体字で記すか下線を引くのが通例であるが、「なろう」上では不可能であるので、通常のアルファベットで記すことにする。
②「獣人」の定義、分類について
さて、それでは、この考察の対象となる「獣人」とは、一体どんな存在なのか。以下では、「獣人」の定義を、以下の全てを満たす生物のこととしたい。
・直立二足歩行が充分に可能なこと
・耳や尾などに「獣」の特徴を持っていること
・人間の言語を理解できること(発話の可否は問わない)
したがって、「ジジ(魔女の宅急便)」などの人間と会話が可能な「獣型の生物」はこの定義に含めない。
それでは次に、数多の作品で「獣人」と呼ばれる生物について、大きく三つに分類していく。
・ヒトの身体に「獣耳」が生えた姿の生物(ただし、「尻尾」の有無は問わない。つまり、「獣耳」「尻尾」両方を持つ者もここに含む。)
例:「フレンズ(けものフレンズ)」:以下「フレンズ型」
・基本骨格はヒトのものだが、「獣耳」「尻尾」以外にも「獣」の特徴を持った部位がある生物
例:「ホーン(ナルニア国物語)」以下「中間型」
・基本骨格が「獣」であるが、直立二足歩行をし、人語を解する生物
例:「アイルー(モンスターハンターシリーズ)」以下「アイルー型」
「獣人」についての共通認識を作ったところで、まずは「フレンズ型」のみの「獣人」についての考察を行いたい。「アイルー型」は、考察の対象となる部位が異なるので、話を単純にするために、後回しにした。中間型については、全く考える気も起きなかった。
という訳で、「フレンズ型」についてである。考察の対象になるのは、「耳」と「尻尾」である。「フレンズ型」の前提として、「ファンタジー世界においてのヒトと交配可能である」、と言う条件を加えて考察を行なった。理由は言わずもがな、「創作物的な意味でそちらの方が面白くなりそうだから」である。
ヒトと交配可能であれば、生物種としては少なくとも霊長目ヒト科ヒト属に属するであろう。実は、地球においても、今は滅びたとされるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の遺伝子が、一部の現生人類(Homo sapiens sapiens)にも含まれるとする論文もある。その論に基づくと、ネアンデルタール人は現生人類の亜種である、とも言える。本稿における「獣人」の扱いも、ヒトと交配が可能である以上、ヒトの亜種であると考えた。
非常に重要なので、もう一度繰り返す。「ヒトと交配が可能」と言うことは、「フレンズ型獣人」は、「ヒト科ヒト属」の生物であることになる。従って、四足歩行する「獣」、例えばネコ(食肉目ネコ科)との類縁関係は存在しない、と推測される。
類縁関係がないのに何故「獣人」と呼ぶか、については、後に筆者の見解を述べたい。
③「獣人」を決定づけるもの「獣耳」について
さて、いよいよ筆者が一番書きたかった部分である。筆者自身は、フレンズ型の獣人系キャラクターを見るたびに、同じ疑問が湧く。「人の耳はどうなっているのか?」
というのも、生物として、同じ役割の感覚器が二対あるのはいささか不自然だからである。よって、「聴覚器官」として「獣耳」を持つ場合、ヒトの耳は存在しない、と考えるのが妥当である。
それでは、もし「耳」が二対あるとすればどのようにすれば可能か、という考察を行なった。よって、以下は筆者の妄想を垂れ流すだけの余談である。
先程の前提、すなわち「フレンズ型獣人はヒト科ヒト属の生物である」、のもとに考えると、そもそも「獣耳」が聴覚器官である、と言う保証は全く存在しない。むしろ、全く別の役割の感覚器官であろう。何らかの進化のイタズラにより、頭部にたまたま獣の耳のような感覚器官が生えた、と考えた方が自然である。なんらかの原因で獣の耳の様な感覚器官が生じたことで、その感覚器官を持つ者を、その世界の者たちは「獣人」と呼称したのではないだろうか。
例えば、「獣耳」とは、聴覚ではなく、ヒトには感知しにくい霊的なものを感知する器官である、という設定があったとする。そうすると、ヒトは、獣人が持つその感覚器が不十分な故に、霊的なものの感知が難しくなった……などとする設定が生まれるかもしれない。
残念ながら筆者に文才は皆無なので、そのような設定のもとで物語を作るということはできない。もし使ってくださる作者様がいらっしゃるのなら、是非読ませていただきたいと思っている。感想欄等でお知らせいただけると幸いである。
ここで、ファンタジー世界の生物は、先ほど述べた「霊的なもの」を、何らかの特殊感覚として探知できると仮定する。その「霊的なもの」は、それを伝える神経を介して、地球人には想像すらできない、別の「感覚」として脳に向かうのである。この「霊圧」を感じ取る感覚を、以下では便宜的に「霊覚」と呼称する事にする。
具体例をあげれば、とある少年漫画で言う所の「霊圧」のようなものを想像していただきたい。もし「霊覚」を神経が感知すれば、それを伝える神経を通して、脳ではその情報が処理されるのであろう。
ここで、「獣耳」は、「霊覚」の神経が集中する部位、という仮定を加える事にする。そうすると、先述の設定が生まれるのである。ヒトにも、対応する部位にその神経が存在するが、獣人ほどには多くないと考えれば良いのである。
余談:獣耳の特殊感覚伝導に関する考察
さて、新たな感覚器官があるということは、その情報を脳で処理する部分があるはずである。以下では、その情報が何処を通って脳に行き、脳で処理されるかに至るか、という点を考察したい。ほとんど馴染みのないであろう解剖学の話も含まれているので、考察及びここでの公開は完全な自己満足である。それゆえ、読み飛ばしてもらっても構わない。筆者自身も、ここまで考察する意義があったかは疑問視している。
前置きが少し長くなったが、これに目を向けてくれた寛大なる読者諸兄に共有しておきたいのが、「脳に向かう信号の伝達ルート」という物である。「感覚」と呼ばれるものは、基本的に大脳の中心部にある「視床」を経由し、大脳皮質(表面)の決められた場所へと向かう。
もし「霊覚」が特殊感覚であるとすれば、「獣耳」が生えていると思しき箇所からして、おそらく「獣耳」は第ⅴもしくはⅥ脳神経支配を受けると考えている。もしかしたら、この感覚神経だけが独立して、別の脳神経を形成しているかもしれない。
さて、その信号は、そんな脳神経を通して視床を通ってから、大脳皮質に向かう。聞いたことがある方も多いと思うが、大脳皮質は溝が多数あり、その事で面積を稼いでいる。その為、新たに処理する情報が増えたとしても、その溝の形が変わる程度で済み、「その感覚を処理する場所がない」という事だけにはならないと予想している。その溝の形がどうなっているか、という点までは考察は行わない。と言うより筆者の頭では不可能であった。
※補足:脳神経について
脳幹から直接、(脊髄を介さないで)神経線維が出ている。地球の哺乳動物では12対ある。今回登場した第ⅴ脳神経は「三叉神経」とも呼ばれ、顔の前面〜頭頂部の皮膚感覚などを担っている。第Ⅵ脳神経は「内耳神経」と呼ばれ、聴覚と平衡覚を脳に伝える役目を果たしている。今回で言えば、「霊覚」の神経が三叉神経か内耳神経に含まれるか、脳神経が「13対になっている」かもしれない、という指摘である。
どちらにせよ、解剖学的にはそこそこ大きな差が生まれそうである。外見的な差異は殆ど認められないだろうが。
④進化はどうなっているのか?「尻尾」について
次に、「獣」要素を形作るもう一つの要素「尻尾」についてである。定義上は、尻尾の有無は問わないことにしたが、数多の作品を見る限り、獣人系生物は大抵「尻尾」もセットである。
とある公共放送機関のアフリカのサバンナの番組を見ていると、チーターがガゼルを追っている場面をそこそこ高頻度で目にする。この時、チーターの尾は、曲がっている方向に対して、大きく内側に倒れこんでいる。これは、尻尾がバランス器官として発達している為、とされている。
ところで、直立二足歩行をする我々人類は、バランスとしては非常に不安定な生物である。尻尾が退化した生物から進化したため、ヒトは尻尾を持たないが、何らかの原因で尻尾を持った類人猿から獣人が誕生したとすれば、バランス器官として尻尾は有用だったのではないだろうか。
その場合、近縁種であるヒトも尻尾を持っているであろうことになるが、ヒトは尻尾を持たないと規定した上で、その可能性を考えていきたい。ここで、同一種族でも品種で尻尾の長さが異なる生物、ネコ(Felis silvestris catus)が参考になりそうである。
ネコの尻尾の長さを規定する遺伝子は、長尾の方が顕性(優性)遺伝である。すなわち、長尾のネコ同士が交配すれば、短尾のネコはそれだけ生まれにくいことになる。
さて、ここで言えることは、尾の有無を決定する遺伝子(の多型)が存在するとして、それに対し顕性/潜性(優性/劣性)が存在する場合、同種でも尾の有無の違いが生まれうるという点である。何らかの進化のいたずらが生じれば、人型の生物に尻尾が生えることもありえなくは無いだろう、程度のふわっとした結論に至った。これ以上を考察するのは、妄想の域に深く入り込んでしまうので、ここで打ちとめである。
また、「獣人」が尻尾を持つ場合、気になるのは骨盤の形状である。もしかすると、仙骨の形状が少し異なっているかもしれない。具体的に言うと、末端部が少し広くなり、尾骨がもっと発達しているであろう、と推測する。また、尻尾を動かすための筋肉が発達すると思われるので、臀部の形状もヒトとは少し違うのではないだろうか。現生人類は、尻の「割れ目」部分に尾骨があるので、そこから「尻尾」が生えているであろうことになる。尾の付け根部分に筋肉が発達する分だけ、その部分に盛り上がりがあるのではないか。
余談:尻尾の重さの計算
さて、先程は尻尾をバランス器官であると仮定したが、それではバランサーたる尻尾は実際にどれほどの重量となるのか、という考察を行いたい。前提として、密度は(計算の簡略化のために)水と同等とした。
バランス器官として有用であるためには、およそ身長の2%ほどの重量が必要と仮定した(先述のチーターの尾の重量の推定より)。仮に、体重50kgとすると、重量は1kgほどとなる。長さも身長の半分程度(身長160cmなら80cm)と仮定すると、毛を除いた直径はおよそ3cmほどになると思われる。公園にぶら下がる鉄棒と同じくらい、と言えばわかりやすいだろうか。
そう言えば、腰からそれほどの重量物が常にぶら下がっているとすると、尻尾の付け根部分は、実に疲れそうである。バランスを取るメリットの引き換えに腰の部分の「凝り」で困らされる者が多いかもしれない。まぁ、創作物的な意味で言えば、それはそれで美味しい題材になりそうではある。
最後になるが、この分析に協力してくれた悪友諸氏に敬意を表して、その中の一人の言葉を以って、本稿の締めとしたい。
「ハーフケモロリペロペロしたい」
ー了
本稿をお読みいただき、ありがとうございます。
筆者の別作品「なろうで異世界転移/転生モノが流行った理由について考えてみた」についてもお読みいただくと、筆者が喜びます。
https://ncode.syosetu.com/n9752eg/
本稿との内容の関連は全くありません。
考察に協力していただいた悪友のページです。もしよければ読んでいって下さい。
https://mypage.syosetu.com/294504/