百円玉
明日になったら買いに行こう。何を? そんなことを聞くなんて野暮だなー。決まっているじゃないか。タバコだよ、タバコ。わかります? タ・バ・コ。葉っぱを紙に巻いたものを、火をつけて吸うやつ。
何で今日行かないのかって? そんなの、眠いからに決まってるでしょうに。
明くる日、目が覚めた。
――俺は一体、誰を相手に独語してたんだ。くだらねえ。
仕事着に着替え、家を出る。朝の準備その他もろもろについては、わざわざ話すまでもないだろう。
コンビニで水と惣菜パンを買った。水をカバンにしまい、パンの袋を開けて口にくわえる。少しかじって歩きながら空を見る。何もない。あたり前だ。ただの青空と雲だけだ。つまらない。UFOの一欠片でもあればいいのにな。
前の標識を見て、現実に戻る。ありふれた日常だ。
もう少しかじって、歩み進める。何げなく左をちらと見て、ソレを見る。つま先は正直だ。ソレに向かって歩み始める。かがむ。そして男はソレを拾い上げた。
「100円だ」
この男、タバコを買い忘れている。(笑)