4話 師匠
「それじゃあ、行きますか」
私は玄関を開けて外に出る。後ろにはエリアが続いて出て来る。シロナは今日はお留守番。この屋敷も空けてしまうので、掃除するのだそうだ。
「それではどこから行きますか?」
「そうね。やっぱり1番は師匠に挨拶しなきゃね」
「それもそうですね。行きましょうか」
さて、師匠のところへ行きますか。でも、まだ朝だけど起きているかしら? あの人、朝は物凄く弱いからね。
「師匠、起きているかしら?」
「うーん、どうでしょうか? 朝、訓練してから二度寝をしているのでは?」
うん、あり得る。訓練だけは欠かさない人だったから、眠たげながらも訓練して、終わったらもう一回寝る。うん、想像出来る。
それからエリアと話しながら歩く事30分ほど。師匠がいる家へと辿り着いた。家は家でも貴族が住むぐらい大きな家だけど。
私たちは特に何もせずに門をくぐる。師匠には勝手に入って良いと言われているからだ。家の扉も普通に開ける。
「師匠〜、おはようございま〜す」
……うん、寝てるわね。エリアと顔を見合わせると、苦笑いしていた。そのまま家の中に入り、いつも師匠が眠っている部屋へと向かう。
1階の師匠がいつも眠っている部屋の前まで辿り着いた。この家には師匠1人しか住んでいないけど、何故かいつも部屋が綺麗。師匠は掃除はめんどくさいので嫌い、って言っていたから、師匠では無いと思う。
師匠が眠る部屋の扉を叩くけど、中からの反応は無い。やっぱり眠っているわね。仕方ない。いつも通り入らさせて貰おう。
「師匠、入りますよ〜」
一応断りを入れて扉を開ける。まあ、眠っているから聞こえては無いのだけど。部屋の中は、部屋の中心にかなり豪華なベッドが1つ置かれているだけ。かなり質素な部屋。
そのベッドの更に中心には、幸せそうに眠る師匠の姿が。見た目は、私たちとそう変わらない年齢で、透き通るような青い髪が特徴。
私はのしのしとベッドに乗って、師匠を揺する。これで起きてくれると助かるのだけど。
「師匠起きて下さい。弟子のクリシアとエリアが来ましたよ〜」
「すー、すー」
……駄目ね。起きる気配が無い。先ほど以上に師匠を揺らす。それはもう、ぐわぁん、ぐわぁん! と。これぐらいしてようやく、師匠の瞼が動く。
「師匠! 起きて下さいよ、ヴァーティー師匠!」
私が耳元で名前を呼んで叫ぶと、ようやく目を開けてくれた師匠。この人が私たちの師匠で、名前がヴァーティー。
以前は私たちの住む国、ナノール王国より南にあり、この大陸の最南端にある国、シーリア王国にいたらしいのだけど、もうあそこに住んでおく理由が無くなったらしいので、ナノール王国に来たというのを聞いた事がある。
それから、私たちが通っていたカルディア学園の元学園長で剣聖と謳われている全学園長と一緒に、学園に来た時に、私とエリアが紹介されたのだ。
それから、私とエリアはヴァーティー師匠の弟子をしている。ヴァーティー師匠はとても長い事生きているらしく、暇な時は武器を使った訓練をしていたそうで、どのような武器も扱える。
そこから、私は杖術と水魔法、その上位である氷魔法も。エリアは魔法全般を。ヴァーティー師匠は水魔法が1番高いらしいけど、他の魔法もほんの少しは使えるみたい。
そのおかげでエリアは、苦手だった魔法を得意に出来るようになるほど。私たちは色々な事を教えてもらった。
長い事生きているので、エルフ族か尋ねた事があるけど、師匠は「ん、内緒」と言うだけだった。
「……む、クリとエリ。何でここに?」
「……その略し方やめて欲しいのですが……おはようございます、師匠。今日はご挨拶に伺ったんです」
まだ、目が完璧に開いていない師匠。私の言葉もイマイチ理解してないようだ。まだ頭も回っていないみたい。
それから15分して、ようやく目が覚めて来た師匠。この15分の間は、ずーーーーっと、ぼぉーとしていた。ベッドから微動だにしなかった。
今は、師匠の家の食卓に私とエリアが隣同士で座り、前には師匠が座っている。まだ眠たそうな雰囲気はあるけど、ちゃんと話はできる程までは目が覚めていると思う。
師匠の頭が回り始めたのを確認してから、私たちがここに来た理由を話す。私たちが学園を卒業した事。そして、もう何日かしたら神島を目指して、塔に挑戦する事も。
私たちの話を聞いて黙り込んでしまった師匠。てっきりまた眠っているのかと思ったけど、何やら考え事をしていたようだ。ゆっくりとだけど、下げていた顔を上げる。そして
「この前入学したばかりなのに、もう卒業?」
と、変なことを尋ねてきた。師匠は何を言っているのかしら? この前って、入学したのはもう4年も前。それから少しして師匠と出会ったのだけど……。私たちの4年は結構長いのだけど、長命種の師匠にはあっという間だったらしい。
「もう、そんなに経つのね。少し待っていて」
師匠は少し考え事をすると、部屋を出て行ってしまった。どうかしたのかしら? エリアと顔を見合わせていると、師匠は直ぐに戻ってきた。そして
「卒業祝いにこれをあげる」
師匠の手から、ゴロッと机に何かが置かれた。置かれたのは、30センチほどで、青色の何かのかけらのような物が2つ。なんだろこれ?
「師匠、これは何でしょうか?」
私の疑問を、エリアが尋ねてくれると、師匠は何でもないように
「水竜の爪のかけら」
と、言ってきた……いやいやいや、なんて物を簡単に渡してくれているんですか、この師匠は。竜種といえば、魔物の中でも最強の魔物で、最低でもBランク、平均Aランクなのに。
しかも、属性名が付く竜種となれば、低くてAランクなのに、そんな魔物の素材を、ポンっと簡単に渡してくるなんて。やっぱり師匠はとんでも無いわね。
「別にいつでも取れるから構わない。これで短剣でも作ってもらうと良い。水属性が付くと思うから」
師匠はそれだけ言うと、机に置いた水竜の爪のかけらを、私とエリアの前に置かれる。こんな良いものを貰うのは少し気が引けるけど、師匠の気持ちを無駄には出来ない。私とエリアは水竜の爪のかけらを受け取った。
「師匠、ありがとうございます。大切に使わせて貰います!」
「うん。それで2人の命が守られる事を祈っている」
それから、師匠と色々と話をして家を後にした。その後は、王都で他にお世話になった人たちに挨拶をしていった。全ての人に挨拶が終わったのは4日後だった。
そして、ついに今日。私たちは神島を目指す。