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39話 侵入

「ここに、エリアがいるって言っていたわね」


 お兄様たちに話を聞いた翌日、私はエアリスお姉様にエリアの居場所を聞いてやって来た。私は目の前にある扉をノックすると、中から返事が聞こえてくる。扉を開けて中へと入ると、部屋の中にはエリアの他に鎧を脱いだリリーナがいた。


「あっ、クリシアさん! 体はもう大丈夫なのですか!?」


「ええ、私は大丈夫よ、リリーナ。リリーナも元気そうでよかったわ……エリアはどう?」


「私は大丈夫ですよ、クリシア。レイヴェルト様に治してもらいましたから。今休んでいるのも念のためですから。なんなら今すぐにでも塔に……」


「駄目ですよ、エリアさん。いくら治したからって油断したら。全くもう」


 いつもだったら立場が逆なのに。なんだか可笑しいわね。でも、2人とも元気そうで良かったわ。あれ?


「そういえばデルスは?」


 部屋の中を見渡してもデルスがいなかった。てっきりいるもんだと思っていたけど。


「デルスさんなら、この国の訓練場に行っていますよ。今じゃあみんなを守れないから訓練をしてくるって」


「そう……デルスのせいじゃないのに」


「それでも、我慢出来ないのでしょう。私も同じです。早く訓練がしたいですもの」


 エリアの言葉に頷くリリーナ。それは私も同じよ。中に眠る魔神の力なんかに頼らなくてもみんなを守れるように。


「それでクリシアはどうしたのですか? ただ、私たちの様子を見に来ただけ、というわけではなさそうですが」


 むっ、やっぱりエリアにはわかっちゃうわね。まあ、デルスには後で話すとして、先に2人には話しておきましょう。私の力の事を。


 ◇◇◇


「はっ!」


「入りが甘いぞ、デルス。もっと踏み込め!」


「はいっ!」


 俺は弾かれた剣を手元に戻して、構える。目の前には、俺と同じように剣を構えるロイさん。


 塔の中で冒険者襲われてから数日。俺は毎日ロイさんに鍛えてもらっている。もう二度とあんな事にならないために。


「そうだ。もっと強くだ。いくら力、技術が相手に負けていても、気持ちは負けるな。そうすれば勝てなくとも、負けはしない。自分が負けなければ、後ろにいる者は守れる」


 勝てなくとも、守れる。そうだ。別に自分が絶対に勝たないといけないわけじゃない。クリシアたちが勝てるようにすれば


「気をそらすな!」


「ぐへっ!」


 くっ、少し意識を逸らしたら思いっきり蹴り飛ばされた。直ぐに立ち上がると、目の前には剣を振りかざすロイさんの姿が。盾で逸らして、剣を突き出す。


 ロイさんは腕につけている籠手で俺の剣を弾いた。そして、その腕でそのまま殴りかかってくる。盾で防ぐが、ロイさんの力に押し負けた。そして、首元には剣が。


「今日はここまでにして……なんだ?」


 ロイさんが剣を鞘に戻そうとした瞬間に、どこかを見る。すると、ズドン! と大きな音が。なんだ今のは?


 音を聞いた瞬間、ロイさんが走り出す。俺も後をついて行く。訓練場の外に出ると、そこには肌が紫色の男が立っていた。な、なんだあいつは。魔族とはまた違った雰囲気だ。


「ちっ、邪神教のやつか。魔落ちしているな」


「魔落ち?」


「ああ、兄貴が倒した魔神の力を手に入れた者たちの事を言う。邪神教はそういうやつらの集まりだ」


 ロイさんはそれだけ言うと、魔落ちした男へと迫る。剣に雷を迸らせて男へと切りかかる。男はロイさんの剣を腕を交差させて受け止めようとするが、ロイさんは呆気なく切り裂いてしまった。しかし、ロイさんの顔は優れない。何故だ?


「お前の事は知っているぞぉ? 我らが主を封印する忌々しき塔を管理する男だな。お前なら知っているだろぉ? 器の居場所を」


 男はそう言いながらも腕が戻っていく。まるでスライムのように。


「魔落ちしたものは魔物のような力を手に入れるんだよ。奴はスライム種のようだ」


 ロイさんはそう言いながら剣を構える。今まで見た事がない程殺気を迸らせ。


「デルス、これからお前が大切な仲間を守って行く中で、必ず奴と同じ力を持つ邪神教と戦う事になるだろう。その時の参考にするといい」


 ロイさんはそう言い男へと向かう。俺はその後ろ姿から目を離せなかった。

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