33話 幸せを呼ぶG
「さぁ、今日から気を取り直して進むわよ!」
「……どうしたんだい、クリシア? そんな張り切っちゃって」
私の気合の声に、みんなが戸惑った表情で見て来る。別にいいじゃ無い気合を入れたって。1日経って吹っ切ったのよ! それに今日は特別な日なんだから!
「まあ、やる気があるのはいい事ですよ。この元気がジャイアントローチが出ても持ってくれればですが」
むうっ、エリアは酷い事を言うわね。しかも頭を撫でて来る。奴らが出て来ても大丈夫よ……多分。
「それにしても、今日は人が多いですね。昨日とは比べものにならない程です。何かあったのでしょうか?」
「言われてみればそうだね。俺がギルドでここの事を聞いた時は、あいつらが出るからあまり人は寄り付かないって聞いたけど」
そう言い周りを見渡すデルス。森の中にはリリーナやデルスが言うように冒険者で溢れかえっている。そして、冒険者が相手している魔物は、昨日私の精神をガリガリと削っていったジャイアントローチだ。
あ、会うのが早いわね。もう少し後でも良かったのだけど、今日は我慢するわ。今日私が気合が入っている理由にもなるから。
「う〜ん、何故でしょうね? クリシアは知っていますか?」
「みんな、情報収集が甘いわね。もちろん私は知っているわ。昨日私が1人で行動したの覚えている?」
「ええ、虫除けの魔道具を買って来るって言って出て行った時ですよね? 結局買って来ませんでしたが」
「ええ、虫除けの魔道具なんか買ったら今日の目的を果たす事が出来ないもの」
私の言葉に首を傾げるみんな。ふふっ、なんだか良いわね、この中で私しか知らないこの優越感。興奮するわ! まあ、そんな事をおくびにも表に出さずに話を進めるけど。
「クリシアさんの目的って、そのクリシアさんの元気が良いのも関係しているのですか?」
「よく気づいたわね、リリーナ。ええ、その通りよ。私がこんなに興奮している理由はね」
「「「理由は?」」」
「この階層にゴールドモンスターが現れたのよ!」
「「「……うおおおおおっ!!!」」」
私の言葉に、一瞬固まったみんなだけど、次の瞬間大歓声を上げる。ふふっ、それも当然よね。なんて言ったってあのゴールドモンスターが現れたんだから!
「こうしちゃいられません! クリシア行きますよ!」
「そうだぜ! 早く見つけないと先を越されてしまうよ!」
「あわわわっ! ご、ゴールドモンスターなんて初めてです! 楽しみです!」
「まあまあ、みんな落ち着きなさい。相手が誰なのかもわからないのに、闇雲に探そうとしても駄目よ」
私がそう言うと、興奮していたみんなは落ち着いて私の方を見てくれる。良し、これなら話ができるわね。
「それじゃあ、話すわよ。私たちが探すのはゴールドクイーンローチよ」
「「「……えっ?」」」
「ゴールドクイーンローチよ」
あら、みんな固まってしまったわ。まあ、予想は出来ていたけど。
この神島の塔にしかいないモンスター、ゴールドモンスターズ。各階層に数種類ずついるらしいのだけど、出現率がかなり低い。
見つけたとしても、殆ど倒す事の出来ないモンスターである。まず、私たちがそのゴールドモンスターを探す理由が3つあって、まず1つ目が倒すととんでもない経験値が手に入る事。
2つ目がかなり特殊なドロップアイテムを落とす事。
そして3つ目がスキルを1つ何でも手に入れる事が出来る事。ゴールドモンスターを倒すとこの3大特典が付いて来る。あと噂では見ると幸せになるとか、触れると運が上がるとか言われていたりする。
今トップクラスのクランである『蒼天の盾』のリーダーもこのゴールドモンスターを倒して今ぐらいの強さになったっていうのは有名な話よね。
ただ、そんなすごいモンスターが簡単に見つかるはずもなく、見つかったとしても簡単には倒せない。まず、物凄く小さいのだ。普通の魔物の10番の1ぐらいしかない。
更に敏捷が同じ魔物とは思えないほど早い。一瞬で目の前から消えるほどだと言われている。すばしっこいせいで、フレンドリーファイアなどもらよく起きるんだとか。
「元々早いゴキブリがゴールドになって更に速くなったってことか。これはかなり手強そうだな」
「ええ。その上、ここは森の中。小さい生き物が隠れるにはもってこいの場所ですしね」
「それでも、私は倒すわよ。経験値はチームだと全員に均等に分けられるし、ドロップアイテムはチームのために使えるし、スキルはまあ早い者勝ちにはなっちゃうけど」
「そ、そうですね。私も微力ながらも頑張ります!」
「良し、それじゃあ今度こそ、ゴールドクイーンローチを探しに……」
ドドドドォーン!!!
な、何!? 突然森の中で鳴り響く爆発音。いや、塔の中だから魔法とか放つ事はあるけど、こんな上級魔法を撃つ人なんて、こんな低い階層にいるはずなんて無いのに!
私たちから少し離れたところで砂煙が巻き起こっている。そして煙の中から出て来る小さな生物。太陽の光に当てられてキラキラと輝くそれは、私たちの横を飛んで行った……あれってまさか!?
「ククク、クリシア、あ、あれって!」
「え、ええ! 絶対にそうよ! みんな速く追いかけ……危ないエリア!」
突然私たちの横を通り過ぎた金色に輝く生物に気を取られていたせいで、後ろからの攻撃に反応が遅れてしまった。私は咄嗟に狙われたエリアを突き飛ばし、後ろから飛んで来る魔法を黒賢杖で受ける。
飛んできたのは火の球で、黒賢杖に触れた瞬間爆発。私は吹き飛ばされてしまった。
「クリシア!」
「クリシアさん!」
エリアはすぐに立ち上がり、リリーナと一緒に私の側に来てくれた。私たちを守るようにデルスも武器を構えて立ってくれる。
「悪いがお前らみたいな雑魚にあれはやれねえな。おとなしくやられてくれねえか?」
爆発が起きた煙の中から出て来たのは、ガラの悪そうな5人組の男たちだった。




