32.悪魔の魔物
「……噂には聞いていたけど」
「……これは凄いですねぇ」
私たちは目の前に広がる光景に、唖然としている。晴れ渡る青空、燦々と輝く太陽、ところかしこから香る緑の香り、耳に届く鳥の囀り。
10階層でオークソルジャーを倒した私たちは、そのまま11階層へと登って来た訳だけど、目の前に広がる光景が余りにも予想以上だったため、驚きで言葉を失ってしまった。
目の前に広がるのは、木々が生い茂り森で、そして空には何故か太陽が輝いている。これがこの塔の不思議な一つ。この森林エリアには何故か太陽がある。更には太陽が沈むと月まで出て来るとんでもないエリアなのだ。この事については様々な研究者が色々な意見を出し合って話し合いなどをしているけど、全く解明されていない。
「それにしても、広いですねぇ〜」
リリーナの言葉を聞き、私たちは再び11階層を見渡す。見渡す限り木々しかないのだけど、壁に沿って見ていっても、橋が見えない程の広さになっている。
「う〜ん、マッピングされた地図を見ても……あまり役に立たないね」
「どう言うことよ?」
私の隣で地図を見ていたデルスが突然視界そんな事を言い出す。いやいや、それじゃあ買った地図の意味が無いじゃないの。
「おおよそのこのエリアの大きさなんかはわかるんだけど、若干地形が……と言うより、木々が変わったりしているんだよね。多分なんだけど、この地図を作った人の後に、別の冒険者がここで範囲魔法を放って、地図の目印になっていた木々を吹き飛ばしてしまう。その後に塔の力で新しく木々が生えたらどうなると思う?」
「全く同じようには生えては来ない?」
「そう。だから、このエリアの地図は他の地図に比べて安かったんだ。それも、下手したら一桁階層の地図よりも」
顎に手をやって唸るデルス。道の確認は基本デルスがやってくれている。過去の情報から罠があった場所や宝箱があった場所なんかを全て調べてくれている。
口に出したら絶対調子に乗るから言わないけど、デルスのおかげで塔の攻略も楽になっている。絶対にデルスには言わないけど。
「これは道に迷わないようにしなければなりませんね」
「そうね。何か目印……その前にこっちね」
地図があまり使えない事がわかったので、森の中で迷わないように話し合っていると、私たちに迫る気配を察知する。私だけじゃ無くて他のみんなも気付いたみたい。それぞれ武器を構えて陣形を取る。
「さぁ、森林エリア初めての相手は誰かしら?」
私は少しワクワクしながら見ていた……けど、森の奥から現れた魔物に私……いや、私とエリアは顔色を青くさせる。リリーナは兜をかぶっているからわからないけど、動きが固まった。デルスですら引いている。何故なら現れたのが……人間大のゴキブリだったのだから。
カサカサカサカサカサと大きな音をさせてこちらに向かって走って来る。ひぃぃい! カサカサカサカサカサと音をさせてこっちに来るんじゃないわよ!
「ち、近寄らないで! アイスランス!」
私は軽くテンパりながらも魔法を発動。カサカサと走って来る巨大ゴキブリ、ジャイアントローチに氷の槍を放つ。隣ではクリシアも同じように火の槍を放つ……けど
「うわっ、すばしっこい!」
リリーナの驚く声が聞こえる。そう、ジャイアントローチはかなりの敏捷性で私たちの魔法を避けたのだ。そりゃあ魔物も魔法はくらいたくないから避けるでしょうけど、避けた姿を見て鳥肌が立ったのは初めてだわ。
「うわわっ、こ、こっちに来る! デルス、頼むわよ!」
これ以上近づかれるのは生理的に無理なので前衛のデルスに任せる。リリーナ? 女の子にゴキブリに近づけなんて言えるわけないじゃない! デルスの目から何か光るものが見えたけど気のせいよね。
「くそっ、やってやる!」
デルスは若干やけっぱちになりながらも身体強化を発動して迫るジャイアントローチを迎え撃つ。真っ直ぐ突っ込んできたジャイアントローチを下から盾で殴りひっくり返す……うわっ! 足の節足部分が気持ち悪い!
足をわさわさとさせるジャイアントローチのお腹に、デルスは高く振り上げた剣を突き刺す。突き刺されたお腹から当然血がブシャと吹き出す。もうっ、何から何まで気持ち悪いわね!
「ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス!」
エリアは一心不乱に魔法を放つ。私もエリアを習って魔法を放つ。このこの! リリーナは触れないように上手い事反射を使ってジャイアントローチをひっくり返す。
1時間が経った頃には、辺りはジャイアントローチの死骸だらけだった。しかも、私とエリアが魔法を放ちまくったせいでほとんど原型を留めていなくて、これもまた気持ちの悪い事になっていた。
「……ここから、剥ぎ取りをしないといけないんですよね?」
ボソッと呟くエリア。ちょっと、言わないで! せっかく忘れようとしていたのに! あのジャイアントローチの体の中から魔石を……あの黒光りしている死骸に手を突っ込んで……。
「な、なんでみんな俺を見るんだ!?」
私、エリア、リリーナの心が1つになった瞬間だった。このまま全部デルスに任せたいのが物凄く本音なのだけど、流石に可愛そすぎるので、物凄く嫌だったけど、さっさとこの光景を消したかったから、みんなで剥ぎ取る。
剥ぎ終えた頃には、みんなげっそりとしていた。そして満場一致で塔を出る事になった。今日はもう無理。早く帰ってシロナをもふもふしたい。癒されたい。




