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21話 少し帰宅

「ふぅ、戻って来たわね」


 宝箱を手に入れてから2時間ほど。私たちは1階層まで戻ってきた。昼頃なので、朝に比べたら冒険者の数は減っていた。


「この後どうしますか? まだ時間はありますが」


 体を伸ばしていると、エリアが尋ねてくる。そうねぇ〜。いつもは夕方近くまで塔を登っているものね。どうしようかしら。


「久し振りに戻るっていうのはどうだい?」


 そこに、デルスがそんな事を言ってきた。そうね。ここに来て1週間は経ったわ。一旦報告しに戻っても良いかもしれないわね。


「それなら、シロナを迎えに行かないとね」


「そうですね、そうと決まれば戻りましょうか」


 エリアの言葉に頷く私とデルス。今日手に入れた魔物の素材は、買取屋で買い取ってもらい、そのままロイさんの屋敷を目指す。


 ロイさんの屋敷の門兵さんは、私たちを見ると直ぐに門を開けてくれた。いわゆる顔パスというやつだ。ロイさんが伝えておいてくれていたのでしょう。


 庭ではクロンの背に乗るミイアちゃんと、ミイアちゃんたちを追いかけるシロナ。速いわね〜。クランも手を抜いているのだろうけど、シロナもとんでもない。


 本当にお兄様の子供たちはとんでも無いわ。みんな才能の塊ばかりなのだもの。


「シロナ〜」


 まあ、今更そんな事を羨んでも仕方ないのだけどね。私は自分の力の範囲内でできる事をするだけだもの。


 そんな才能の塊のシロナはというと、私の呼ぶ声に反応して、クロンを追いかけていたスピードで、私たちの方へと方向転換をして来た。これってまさか


「クリシア様ぁ〜〜〜!!!」


 そのスピードに乗ったまま跳んできた。手を大きく広げて、物凄い笑顔で。可愛い。可愛いのだけど、危険過ぎる。


 だけど、女クリシア。キャッチしてくれると信じてくれているシロナを避けるわけにはいかない! 限界まで身体強化を発動。何としても堪えて……ぐふっ! シロナの頭がお腹に。


「ああっ! クリシア! 女の子がしてはいけない表情になっています! デルス! 見てはいけません!」


「ぐわぁっ!? 目、目があぁぁぁぁぁ!!!!」


「ふぁっ!? クリシア様、どうしたのですか! クリシア様ぁ!!!」


 ……何だか、カオスな状況になったけど、もう……無理。


 ◇◇◇


「……ごめんなさいです、クリシア様」


 耳がしゅんと垂れて落ち込んでしまっているシロナ。私はほんの数分気を失っていたみたいで、その事を悪く思っているみたい。


 確かに驚きはしたけど、そこまで落ち込むような事でも無いと思うのだけどね。


「私は大丈夫だから、そんなに落ち込まないで、シロナ。シロナは笑っている顔が可愛いだから」


 私はそう言いながら、シロナの頭をわしゃわしゃ撫でてあげると、ようやくシロナも笑顔になった。うんうん、やっぱりシロナの笑顔は天使ね!


「うぅぅ、酷いよエリア。別に目を突かなくても良かったじゃ無いかい」


「うっ……慌てていたものでつい。ごめんなさいデルス」


 あっちはあっちで謝っているし。目を真っ赤に充血させているデリスと、頭をぺこぺこと下げるエリア。私が気を失いかけている時に、私の見せられない顔をデルスに見せないために、エリアは目を突いたみたい。中々過激ね。


「何があったが知らねえが、ほれ。通行許可が下りたぞ。ただし行けるのはナノール王国のみだ。間違えんなよ」


 私たちが色々としている間に、来た時にも受付をしてくれた男の人が、処理をしてくれた。私たちはカードを受け取り、転移陣へと向かう。みんなが乗ったのを確認して、発動してもらう。


 瞬く間に景色が変わる。たった1週間離れていただけなのに、何だか懐かしく感じるのはどうしてかしらね?


「それじゃあ、明日の朝ここに集合にしよう」


「そうですね。そうしましょうか」


 デルスとエリアは2人とも自分の屋敷へと帰っていった。冒険者ギルドに残された私とシロナ。さて、ここからどうしようかしらね。私たちもギルドを後にしようかとしたその時


「きゃあっ!」


 酒場のところで、悲鳴が聞こえて来た。声のする方を見ると、全身鎧でヘルムまで付けている人が、3人の男たちにこかされていた。


「この役立たずが! お前がちゃんと魔物を引きつけておかねえから、怪我しちまったじゃねえか!」


「で、ですが、あの数全部は無理だと、前もって言って……」


「あぁん!? 口答えするのか、てめえは!」


「ひぃっ!?」


 ……全く、静かに話し合いもできないのかしら? そんな怒鳴り散らして、纏まる話も纏まらないわよ。


「仕方ないわね。シロナ、少し待っていて……って、あれ、シロナ?」


 流石にこのままじゃあ、あの鎧の人が可哀想なので、助けに入ろうと思ったのだけど、さっきまで、私の隣にいたシロナの姿が無い。


 キョロキョロと探した私は、シロナを直ぐに見つけたけど、何もかもが手遅れだった。何故なら


「チェストー!」


「全く、なんでこんな奴、冒険……ん? ギャァッ!?」


 怒鳴り散らしていた男へと、飛び蹴りをかましていたのだ……な、何してんのよ、あんたは!!??


 シュタッと地面に立ったシロナは、直ぐに私の元へと戻って来て、私の後ろへと隠れた。当然、男たちは私を見る。正確には、私の背後に隠れるシロナの事だけど。


「おい、嬢ちゃん。お前がその子に指示を出したのか?」


「返答次第じゃ、ただじゃ済ませねえぞ!」


 面倒臭い事に、私が標的にされてしまった。それなのにシロナは、舌を出してべーっと男たちを挑発する。全く……面倒な事になったわね。取り敢えず、シロナは後でお尻ぺんぺんのお仕置きよ。覚悟していなさい。

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