14話 VS5階層守護者(3)
「「クリシア!」」
2人の叫び声が聞こえてくる。ゴブリンジェネラルに吹き飛ばされた勢いを殺して、顔を上げた時には、既に飛んでくるゴブリンジェネラルの斧が見えた。
このまま見ていても、斧が当たって死ぬだけ。間に合わなくてもそれだけは避けないと! そう感じた私は、直ぐに横へ飛ぶ。
大した距離じゃないけど、致命傷は避けられるはず。横に飛んだ事により、致命傷は避けられたけど、避け切れず、回転しながら飛んでくる斧の刃が、私の右側の脇腹を切った。
「ああっ!」
内臓まではいかないものの、止めどなく血が溢れてくる……うぅっ……痛い……。あまりの痛さに涙が出そうになるけど、怪我するのは覚悟の上。歯を食いしばって我慢しながら、ポーションを取り出す。そこに
「クリシア、大丈夫ですか!?」
顔を青くさせたエリアがそばに寄って来てくれた。向こうでは、デルスがゴブリンジェネラルの気を引いてくれているのが見える。
でも、魔法の援護無しにでは、デルスも押されかけている。直ぐにでも回復しないと。
「……私は大丈夫だから、エリアはデルスの援護を」
「で、でも……」
痛む体を無理矢理起こして、私は胸下まで服をめくる。そして傷口に直接ポーションをかける。それと合わせて水魔法のキュアも発動。
傷は少しずつ塞がっていくけど、完璧ではない。でも、あまり時間もかけていられないので、そのまま服を戻して立つ。今は傷よりも目の前の敵をどうにかしないと。
「ほら、エリア。まだ終わってないわ」
「……わかりました。ゴブリンジェネラルを直ぐに倒しましょう!」
エリアは、杖をゴブリンジェネラルに向けて魔法の準備をして放つ。デルスを追い詰めていたゴブリンジェネラルは、エリアの魔法によって動きを鈍らせた。
そこにデルスと私が向かう。ズキズキと脇腹が痛むけど、気をそらすほどじゃない。このまま突き進む。
腕を振ってエリアの火魔法を防ぐゴブリンジェネラルへと近づき、黒賢杖を横振りする。ゴブリンジェネラルの脇腹を切り裂くと、少し動きを止める。そこに再び放たれたエリアのファイアボールが、ゴブリンジェネラルの顔へと当たる。
流石に顔には痛みが走るのか、左手で顔を押さえるゴブリンジェネラル。その隙に、デルスがゴブリンジェネラルのお腹へと、剣を突き立てる。グサッとデルスの剣は、ゴブリンジェネラルのお腹へと刺さる。
「うおおおっ!」
デルスは、突き立てた剣を、上に振り上げながら抜く。そして、剣を振り下ろしゴブリンジェネラルの縦に切り、その勢いのまま回転切り。
ゴブリンジェネラルのお腹に、十字の傷が深く刻まれる。ゴブリンジェネラルは、斬撃の勢いに押されてたたらを踏むけど、右腕をデルスに向けて振ってくる。
デルスは、慌てる事なく縦に魔力を流し、ゴブリンジェネラルの振られる右腕に合わせて、盾を突き出す。
ゴブリンジェネラルの右腕とデルスの盾がぶつかった瞬間、両方とも弾かれるように、後ろへ下がった。ダメージはデルスの方が多そうだけど、ゴブリンジェネラルに全く通用していないわけじゃない。
私はその内に、氷魔法で黒賢杖の先端を鋭く凍らせる。槍のように鋭く凍らせた黒賢杖を持ち、隙が出来たゴブリンジェネラルの懐へと入る。
ゴブリンジェネラルが体制を立て直すのと同時に、私は下から黒賢杖を突き上げた。ゴブリンジェネラルが気が付いた時には、既に黒賢杖は、ゴブリンジェネラルの顎下へと迫っていた。
そのまま、突き上げていく。顎下を突き刺し、舌を突き刺し、そのまま頭も突き刺していく。そのままゴブリンジェネラルの頭を黒賢杖が貫通すると、ゴブリンジェネラルはビクンッ、と、何度か震えてから、力を無くしたように、後ろへと倒れていく。
「……やったの、ですか?」
エリアの呟きと同時に、ガチャン、と、何かが開く音がして、同時に部屋の中心に茶色な宝箱が出現した。
「やったね、クリシア」
私がその場に座り込んでいると、デルスが側に来ていた。クリシアが近づいてくるのもわかる。
デルスも色々とボロボロだった。切り傷に、破片が刺さり、盾を持っていた左腕はぶらーんとして右腕で支えている。
最後のゴブリンジェネラルとのぶつかった時に折れたみたい。盾も、ボロボロで所々凹んでいる。私たちを守ってくれた証ね。
「そうね。何とか倒せ……きゃあ!」
私は微笑みながら立とうとしたけど、倒せた事に安堵したせいか、血を流し過ぎたせいか、足に力が入らずに、再び座り込んでしまった。脇腹からまた血が流れているのがわかる。
「大丈夫ですか、クリシア」
「少し血を流し過ぎたみたい。大丈夫よ、エリア」
心配そうに顔を覗き込んでくるエリア。私も、デルスも、エリアもボロボロにはなったけど、何とか壁は乗り越えられたわね。声を上げて喜びたいところだけど……少し休ませて。




