なにもしらない
「もう亡くなって…3年経つのよね。」
お茶を出しながら、穏やかな口調で水嶌瀬奈の母親は言う。
3年…?
3年もさまよっているのか…?
「未だにお友達がちょくちょく来てくれてね、母親として嬉しい限りなのよ。
瀬奈も喜んでると思うわ。ありがとう。」
「あっ、いえ……」
なんで亡くなったんだろうか…?
聞きたいところだが…知り合いなのに知らないのはおかしいよな。
うむ…
悩んだ末に、俺は決心して口を開いた。
「むっ…向こうでは、元気でやってますかね?瀬奈さん」
「そうね。こっちで過ごしてたときは体が弱いからどうしても制限ばっかりで、辛かったと思うから。
向こうでは思い切り過ごせてると嬉しいわね。」
体が弱い…?病気だったのか?
瀬奈にアイコンタクトをするも首をかしげている。
「また、来てくださいね。」
「お邪魔しました。」
無関係者があまり長居するのもなと思い、
お茶をいただき、水嶌瀬奈の家をあとにした。
「お前、病気だったのか?」
すかさず彼女に問う。
「何も知らない。死んじゃってたなんて…何も。何も信じなくない。」
水嶌瀬奈は、しばらく俯いたままだった。
俺は彼女にかける言葉が見つからず、
夕日に向かって歩いていく彼女の後ろを、付いて歩いていった。