幽霊なんだけど
蝉の鳴き声が響く、うだるような夏。
東京のアスファルトの照り返しが暑い。
田舎から出てきた俺には、東京はまだちょっぴり慣れない。
だからこの場所、東京の外れにある祖母の家は
人混みに疲れた俺にとってかなり落ち着く。
リビングで横になり、はや2時間くらい経つだろうか。
扇風機で揺れる風鈴の音が心地よい。
「う〜あづい」
うなだれているのは僕の10個年下の弟、悟だ。
「ほれ、それそろ起きな」
そう言いながら、
ばぁちゃんが4等分したスイカを持ってきてくれた。
みずみずしいスイカに塩を振って勢い良くかぶりつく悟。
「やっぱり夏はスイカだね〜」
…まったく無邪気で、悩みの無さそうな奴である。
もういっそ悟になりたい。
「シゲちゃんも食べな〜」
ばぁちゃんの誘いに俺も起き上がり、スイカに塩を振ってかぶりつく。
「あんた達2人は本当に父親似だね〜」
「あんたらのお父さんもスイカが大好きで、いっつも塩振って食べてたんだよ」
そうばぁちゃんが言うと、
「へえ!そうなんだー!私もスイカ大好き!」
ばぁちゃんの横に座っている、
黒髪セミロングを靡かせた彼女がそう言った。
「お前、スイカよりメロン派なんじゃなかったっけ?」
そう俺が尋ねると、
「うーんメロンも好きだけど、夏に食べるならやっぱりスイカ!夏の風物詩!」
「あーそう」
……。
悟とばぁちゃんがポカーンとした目で俺を見ている。
俺はハッとし、そして内心でこう思った
(またやってしまった……)と。
「ばぁちゃん〜また兄ちゃんが知らない人と喋ってるよ〜」
悟がもう、お兄ちゃん怖いやめて近寄らないでという目で見てくる。
お兄ちゃん辛い。
「この前も壁に向かって喋っててさぁ…。ばぁちゃん、お兄ちゃん大丈夫かな」
ちょっと涙目なのはなんなんだ、悟?
お兄ちゃん辛い(2回目)。
「大丈ー夫。いつものこと」
ばぁちゃん…(これ以上言葉にならなかった)
「あっはっは!変人扱い!」
黒髪の女がクスクス笑っている。
誰のせいだと思って…!
…そんなこんなで、
俺、上水流薫(22)には、
他の人には見えない人が見えるらしい。
まぁ、その正体は幽霊なんだけど。