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僕の先生の話  作者: 廣田 廉
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人生

僕は自分が先生と仰いでいる人物に、エッセイは書かないのかと訊いたことがある。するとその人は白いコーヒーを飲みながら答えてくれた。

「俺は随筆なんてものは書かないって決めてるんだ」

「どうしてです。先生には小説には書き表せないくらいの大きな価値観や美学なんかがあるでしょう」

しかし先生の答えは「そんなことは一切ない」だった。

「俺の人生なんてさ、空っぽだよ」

思わず僕は困った顔をする。

「そんな顔しないでさ、考えてみて。君は人生において満足感を覚えたことはある?いや、あったとしてもそれは単なる一時的な快感、即ちパトスだ」

後にパトスという言葉を辞書でひいてみたが、どうやらそれは衝動的な感情のことを指すらしい。この人、人生はパトスであるとでも言うつもりなのか。

「そんな瞬間的なものに何の意味がある?そんなもの、俺は断然ないと思うけどね。こんな人生なんて空箱、一生かかっても中身は埋まりっこないんだから。中身がきちんと無駄なく揃っているものこそ意味がある」

ふう、と息を吐いて、先生は続けた。

「俺たちはこの人生っていう空箱を埋めるために生きてるようなもんだよ。そして俺の箱はまだ全て埋まってない。それどころか片隅に何か挟まってるだとか、多分そんな次元だ。よってまだまだ俺の人生は意味を持たない。だから」

そんなつまらないものを書くための、意味のない文章は書きたくないんだ。

先生はそう言ったきり、何かを懐かしむような目をして、窓の外の遠い景色を眺めていたのだった。


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