器用にウサギリンゴを作るウィンストン
診断メーカー「何てことない日常」(https://shindanmaker.com/895508)
からお題をお借りしました。
雅也支点。
「スギサキくん、いいものをあげるからちょっとこっちおいで」
バイトが終わり、帰ろうとしているところで俺は呼び止められた。一緒に働いているパートさんが手招きをしている。
「はい? なんでしょうか?」
「スギサキくん、リンゴ好き?」
「リンゴ……」
俺はリンゴを食べたことがない。テレビで良くリポーターが食レポしているのを見ていて、赤くて甘い果物なんだというのを認識している程度だ。
「食べたことがなくて……」
「あらそうなの? じゃあこれを機に食べてみて! たくさん親戚から送られてきたからおすそわけ!」
パートさんは俺にリンゴを3つ分けてくれた。
家に持ち帰って先生と俊貴に経緯を話す。
「へー、珍しいな。この辺あんまりリンゴ流通しないんだよ。子供の頃は良く親戚から送られてきたから食べたけどな」
「俺はリンゴの実物見るのはじめてだ。雅也だってそうだろ?」
「うん。で、リンゴってどういう風に食べるんですか? この中だと食べたことあるの先生しかいないので、教えてほしいです」
尋ねると先生は3つあるリンゴのうちのひとつを手に取った。
「そうだな、今できそうなのは生か、アップルパイかってとこだな。ジャムは個数使うから、3つじゃ足りないだろう」
「リンゴって生で食べられるんですね。たしかテレビで見たのは甘く煮てあったと思います」
「早速食ってみるか? 切ってくるからちょっと待ってろ」
先生はそういうとキッチンに向かった。上から包丁を入れ、八等分に切る。
「あっそうだ、普通に切るのもなんだからちょっと切り方で遊んでみるか」
なんだかちょっと良くわからないことを言っている。切り方で遊ぶ?
先生は八等分に切られたリンゴの皮の方にV字型に切れ目を入れている。そして、皮をむくとV字の鋭角部分が身から離れて、ぴょんと立つ。
「はい! ウサギリンゴの完成だ!」
確かにぴょんと立っている皮部分がウサギの耳のように見える。
「ああ、なるほどな。皮を耳に見立ててるのか。良く考えてるな」
「まあ俺が考えた切り方ってわけじゃないけどな」
そういいながら残りの7切れもウサギにしていく。並べてある姿がかわいい。
「皮もきれいに洗ったから食えるはずだぞ」
先生は早速自分で切ったウサギリンゴをかじっている。皮まで食べられるのか。
俺と俊貴もリンゴをかじる。シャリシャリとしていて甘酸っぱい。とても美味しい。
「今度はアップルパイも作ってやるからな」
美味しいリンゴを美味しいパイで包んだものが美味しくないわけがない。俺と俊貴は2人で先生に期待の眼差しを向けながら全力で頷くのであった。