プロローグ
「そこだ!5-2-9!行けっ!……んぎゃぁああぁあ!!」
また外れた…。僕の小遣い1万円が約2分の競馬で散っていった。
4月3日(晴)14時半。まだ半日も経ってないけど疲れた…
やる気も起きず、仕事も見つからず、年齢(19歳)=彼女無し…
人生いつになったら楽しい時間がくるのだろう?と待ち続ける。
明日?明後日?それとも10年後?もしかしたら来ないかも!?
ただ、毎日だらだら過ごしてるだけじゃ駄目な事は分かってるけど…
そんな時、
「京介!お客さんよ。早く降りてらっしゃい!」
っと母ちゃんに呼ばれたんで僕は重い腰を上げ1階に降りる。
「おっす!ウサちゃん元気かい?!」
「京ちゃん、遊びにきました。」
中学生の暦姉妹がウチに来ていた。
これでも我が家は定食屋で、両親が二人だけで経営している。
そんなウチに月水土と週3日、ゴミの日かよ!っとツッコミを
入れたくなる間隔で暦姉妹は食べにやってくる。
なんでも母子家庭で、母親は遅くまで働いているらしい。
ウサちゃんと僕を呼ぶのは姉の睦月15歳。
本名、兎祢京介の「兎」からウサちゃんになったそうだ。
京ちゃんと呼ぶのは妹の皐月13歳。
何事も丁寧で姉よりしっかりしているのでは…と僕は思う。
「なになになにぃ?また競馬で負けた顔だなぁ~!?」
と、睦月は言う。
忘れかけていた僕の記憶を蘇らせやがって…
また僕は憂鬱そうな顔になる。
「大体な、お金なんて人間が価値を決めただけのただの紙だろ?」
「あんな紙よりトイレットペーパーの方が絶対役に立つからな!」
僕は競馬に負けた事でお金なんてどうでもいいと思っていた。
もし当たっていれば金持ち気分になる都合イイヤツなんだけど…
「京ちゃん、そのお金はご両親の汗と涙の結晶ですよ?」
「トイレットペーパーもお金を出して買ってるんですよ!」
「無駄にばかり使っていると、必ずバチが当たりますからね?」
と、妹の皐月は僕にしっかりと説教をしてくれる。
それを聞いてる母親はウンウンと笑ながら相槌を打っている。
僕自身それは分かっているけど、中学生の皐月に言われるのと、
母親の前で言われるのが嫌で、逃げる様に僕は外へ出て行った。
とりあえず外出したものの、お金もないし、行く宛もない。
ただフラフラと流れる雲の様に歩き回る。
歩き疲れた所で、たまたまポケットに入ってた小銭で飲み物を買い、
公園のベンチで休憩する事にした。
プシュッ!と缶の蓋を開け、炭酸飲料を一気に飲み干す。
冷えた炭酸が喉を通ると嫌な事も流してくれるみたいで、
とても美味しく感じられた。
日曜の午後、遊ぶ子供たち、なんて平和なんだろう。
お金の事も気にせず、不安もなく、気楽でいいもんだ…。
あの頃の僕も周りを気にせず、毎日が楽しかったと思う。
今は……(ギュルルルルル!)
突然、腹が痛み出した…もしやさっきの炭酸か?!
下腹がとにかくヤバい。
痛い、ヤバい、ヤバい、痛い、辛い…。
死にそうな顔で周囲を見渡すと50m程先に公衆便所を見つけた。
やる気のない僕でもトイレに行く時だけは全力疾走だった。
先程の競馬の馬よりも早く、僕はトイレに駆け込んでいく。
「いや~危なかったわ~マジセーフ…」
安堵した。人生一番の危機を乗り越えたと思える程、安堵した。
ホッしてトイレットペーパーに手を伸ばした。その時だった…
絶望した。人生一番の危機なんじゃないかと思える程、絶望した。
紙が…ない?マジで?え?冗談やめろよ……
もう僕の頭はプチパニックを起こしていた。
個室の中、辺りを見ても紙がない…。
「すみませーん!誰かいますかー?すみませーーん!」
しかし周りに誰もいない…
ツイてない…どうしてこうなったのだろう…
競馬で負けたのがいけないのか?それとも皐月の説教が悪いのか?
いや違う…。僕の行動がいけなかったんだ…
お金を無駄にした事が今に繋がったのだと僕は気付いた。
数分前に皐月が言った事を思い出す。
「無駄にばかり使っていると、必ずバチが当たりますからね?」
馬は当たらないけど、バチ当たったじゃん…ハハ(笑)
って笑えねーーーー!!!
この後、僕がどうしたのかは…ご想像にお任せします。