俺。覚醒する
完全不定期更新です
「ふざけんなよ」
自分でも驚くくらいの低い声が出た。
すると、笑っていたベジタボゥがピタリと止まり、ゆっくりとこちらを見た。
その目は笑っていない。虫ケラを見るような目だ。
「ほう、ふざけるな、と。……で、今の貴方に何ができますか? ただ這いつくばって、私の神多夢により剣も握れない状態じゃあないですか。それとも、剣が持てたら反撃できるとでも?」
その声はどこまでも冷酷で、どこまでも重いものだ。
死ぬ前の生活では聞くことができないような声は、逆に俺を現実へ引き戻すのに十分だった。
「……試してみなくちゃ、わかんねえだろ」
「ほうっ! では……どうぞ」
そう言ってベジタボゥは俺の剣を目の前に転がした。
手を伸ばさなくても掴める距離だ。
体温が失い続ける中で、俺は必死に手を剣に持っていく。
だが、それでも届かない。
「どうしました? もうこれで終わりですか?」
「目の前で、女の子が泣いてるのに……諦められるわけが、ねぇ……じゃ、ねえか」
「………」
すると、ベジタボゥがしゃがんだ。
そして俺へと視線を合わせる。
嫌な奴の顔が近くにあるってのに、何もできない自分が、かなり悔しい。
俺が険悪な顔つきになっていると俺の顔の方に手を置いてきた。
そのままベジタボゥは眼を閉じている。
「……なんの、つもりだ」
俺の言葉は虚しくも宙を漂い誰にも拾われることはなかった。
だが周りに視線を巡らせてみると、兵士達もベジタボゥの行動に違和感を感じている様子だった。それでも文句一つ言わないのは、相手が上司だからだろう。
ややあってベジタボゥが眼を開けると、ボソボソと何かを発し始めた。
俺はその言葉を拾おうと躍起になった。すると
「……こいつの神多夢は脈動、十字架は『勇者となる』か。なんとも子供らしい事を神に願ったものだ」
なにやら俺の解析が行われているらしい。
しかし声に出して大丈夫なのかよ。つか俺も「勇者になる」とか酷すぎないか?
「……脈動は全神経を心臓に集中させ自身の思い描いた姿になる事を念じる。そうすれば神多夢は十字架に反応して脈動を開始、肉体を大きく変化させ本人の望んだ物に変質する。
そして深層は脳に全神経を集中させ自分が願うイメージを念じる。そうすれば脈動同様に十字架が反応する。だが深層の際は肉体変化ではなく小規模な現実改変を行い、本人のイメージを現実へ干渉させることで発動する。
ゆえに深層の方が強力と見られがちだが、脈動は己の全てを知り、管理できる。だからこそ深層には到達できない己だけの境地へと登ることができる。これが脈動の行き着く完全自己完結掌握者と呼ばれる物か」
「……………」
無意識なのか、馬鹿なのか、何か言い始めたぞコイツ。
だが良いことを聞いた。
俺は一か八かで心臓へ全神経を集中させる。
ーーーードクン。
いつもと違う様子で心臓が脈動する。
心臓へ流れる血が出て行く時には何か得体の知れないものへ変わっていく感覚。
俺はあらん限りの神経を集中させて全身のありとあらゆる血を変革器官へと流し、全てを別のものへと書き換えてゆく。
ーーーもっとだ。
もっと血だ。
足りない、こんなんじゃあ足りない。もっと速く、もっともっともっと
「べ、ベジタボゥ中佐! なにか様子が!」
「ええい! これだけで狼狽えてどうする! お前らはそれでも俺が選び出した兵士か!」
「………」
なにかが遠くで鳴っている気がする。
いや、目障りだ。
今は速く、血を換えなければ
俺という存在そのものを書き換えなければ、こいつらには勝てないッ!
「…………!?」
一際大きく心臓が脈動する。
そして俺の体の状態がすべて手に取るようにわかる。まるで今初めて自分の物になった気がした。
いや、恐らく今この瞬間に、この体は俺のモノへと変わったんだ。
今の俺には体の構造がすべてわかる。分かってしまう。
全体的に体温が下がっている。
もっと血液の循環を良くして、硬直している筋肉を振動させて温めよう。
脳には興奮分泌物でも流しとけばイケるだろう。
酸素がもっと必要だ。
確実に俺の物となった体は、俺の思い通りになる。
一つ一つの神経がどう巡らされて、今どこに信号を送っているのかすら確認できる。
(これが奴が言っていた完全自己完結掌握者という状態なのか?)
とにかくわけが分からんが、やる事はやった。
あとは………
ーーーーー殺ルダケダ