俺。敗北する
完全不定期更新です
「……こ、この男も神多夢だっ!」
「……え?」
誰かがそう叫んだ。
え、なにその機動する戦士っぽいネーミング。
いやそんな事に構ってる暇じゃない。
どうすんだよこれ、残された親族にはなんて言えば良いんだ。
「鎧に弾かれるかと思ったら切断してました」
って正直に言うか?
ふざけてるとしか思われないぞ。
ザシュッ!
「っ、ボーッとしない!」
嫌な音がした方へ首を回すと、俺を背後から斬ろうとしていた男をオスクラが刺し殺したところだった。
「……いや、それ、おかしいだろ」
俺を救ってくれたのは良い、考えてみれば俺も最初っから殺すだのなんだの言われてたんだ。
相手も殺す側として、殺される覚悟もあったことだろうし……
いや、まだ不満はある。それでも今この瞬間を生き延びなければならない。だから戦う。
だけど分からないことが一つ、あった。
「なんで、刀身が伸びてんだ?」
オスクラの持つソレが明らかにおかしい。
短剣だったはずなのに、距離が離れる敵へと剣が届いているんだ。
すると、何事も無かったかのように刀身を元のサイズに戻すと、目の前の敵に向かって再び剣先を伸ばしていた。
「あれが神より与えられし試練、神多夢ですよ」
「………!?」
背後から冷たい声が聞こえ、俺は一気に距離をとった。
見るとさっき後ろで踏ん反り返っていた男だ。
なにも持たないその男へ剣先を構えているのに、男は微動だにしていない。
渇く唇を舐めて、平静さを装う。
俺は今、この男が異様に恐ろしい。
「だからなんなんだよ、その機動的な戦士みたいなクッソ酷いネーミングセンスのそれは! 面白くねえんだよ!」
「おやおや? 貴方も神多無ではないですか……そうですね、十字架は脈動ですかね。脈動の基本的な肉体強化型、といったところでしょうか?」
こいつの言葉一つ一つにはゾッとする何かが含まれている。
俺は訳も分からず、剣を握り直す。
「なに言ってるのか知らんが、お前を殺せばこの戦いも終わるんだろう! なら叩っ斬ってやる!」
これで降伏してくれてほしいと願っての発言だったのだが、男はやれやれと言った様子で首を振っている。
「私は生まれ持っての神多夢。そして深層掌握者でもあるのですよ!」
叫び、男がタクトを振るうかのようにして手を持ち上げる。
それを見た瞬間、俺は地面を爆発させながら男へと斬りかかろうとしてーーー
「凍れ」
ズザァァァアアアア!
「ぐはぁ!」
突然俺の全身が凍ったように動かなくなり、そのまま前から倒れた。
指先一本も動かず、剣は俺の手から離れて行った。
「……お前っ、なにを……したっ!」
「なにってそりゃあ貴方と同じように神多夢を使ったまでですよ」
「な、んじゃあ、そりゃあ……」
目眩がしてきて頭が朦朧とする。
俺の体からどんどん体温が奪われていく。
それを見下ろすように、笑いながら男が楽しそうに話し始めた。
「貴方達『脈動』は馬鹿の一つ覚えのように壊す事しか知らないでしょう。けれどね、我々『深層』は違う!
貴方達とは違い、頭を使うことができる!
ただ破壊するだけなのが貴方達ならば! それを正しく調整するのが我々『深層』なのですよ!」
「すまん……分かりやすく言ってくれ」
正直な感想を言うと、男は溜息を吐いてつまらなさそうに首を振る。
「つまり、破壊するだけの貴方では私に勝つことは不可能なんですよ」
確かに、これはヤバい。
なんかさっきからわけわからん事言ってるけど、結局か能力持ちかどうかの話なんだろ?
なら相手の能力さえわかれば……!
「……な、なあ」
「はい?」
「死ぬ前に、アンタの能力を教えてくれないか? そうじゃないと命を賭けて戦った男として、一生の恥だ」
決死の覚悟で言うと、男はそれが相当面白かったのか大爆笑をかましやがった。
体が自由だったら、今頃殴ってるところだ。
そして数秒置いて、
「良いでしょう」
と言うと、両手を広げて高らかに宣伝した。
「この私ベジタボゥの十字架は深層そして羨望! 神へ届きし願いは『温もりを我が物にする』! この願望の現れにより、貴方の体温は私が掌握している。そしてその体温を上げるも下げるも、私の自由なのですよ!
人は体温を少し下げられただけで代謝が下がり、体は動かなくなる。そして私は触れずとも他人の温度を変える事ができる! ゆえに無敵! 私の視界に入るもの全てが、物言わぬ人形へと変わるのです!」
言われてみて、そうかと思った。
たしかに『相手の温度を奪う』なんて言われても弱いとしか思わないだろう。
だけど、実際に食らってみると……ご覧の通りだ。手も足も出せない。
だが……
「オスクラっ!」
俺はあらん限りに叫んだ。
オスクラならさっきの伸びる剣でどうにかなるだろう。いくら体温が下がったとしても能力自体は使えるはずだし、何よりこいつらはオスクラを捕まえようとしているんだ。無用な手出しはできないはず!
「無駄ですよ」
「……なっ!」
目の前に、無残にも取り押さえられたオスクラが放り出される。
口端から血が出ているが、他は目立った傷はない。
ベジタボゥを見上げると、嘲笑する奴の顔があった。
「この女は確かに強いです。……ですが、それは少数戦の時だぁけェ! 5人以上の帝国兵でかかればいくらこの女でも無理無理無理ィ!
しかもこの女は完全な『悪夢の支配者』じゃないッ! かの魔女ナトゥーロが最後に残した人生の汚点にして、最初にして最後の失ッ敗ッ作ッ品ッ! 生きる事すら拒否される悪の権化! 生きる価値なしィ!」
「………黙りなさい。私は失敗作じゃない」
苦悶に満ちた声が笑い声の中でこだまする。
「はいィ? 失敗作じゃあないぃ? じゃあ貴方に何ができますか?
ヴィブラシオンの様に大気を震わせ物質崩壊を起こせますかァ?
サブジャリアの様に全てを圧縮して滅する事はできますかァ?
アンサイズの様に過ぎ去った時を戻す事ができますかァ?
イモルテルの様に全てを焼き払う事ができますかァン?
シュティレの様に無限再生する事ができますかアン?」
「………………」
なにも言い返せないオスクラに、
ベジタボゥは両手を広げて大きな声で笑う。
「どう取り繕うと貴方は失敗作ッ!
この世で貴方を必要とする人間はいない! 貴方の『母親』ナトゥーロですら必要としなかった! そんな貴方を私が殺してあげましょう! そうすればこの苦痛とはお別れですっ!
さあ喜べ! 歌え! 泣き叫べ!
オンデュレイション様がお前を必要としないなら我等バグズトロイヤ帝国のゴミ! 糞以下! 残飯に入れて処理する事すら烏滸がましい!」
「「「「バグズトロイヤのために!」」」
オスクラが完全に伏せた。
その頬に、一筋の光が見えた気がして、俺は
「ふざけんなよ」