俺。初めての戦闘
完全不定期更新です
今更ながら俺の身体能力スペックとやらを教えよう。
まず学生の頃は剣道とスケボーにバスケとバトミントン、それと卓球とサッカーに空手を少々。
あと授業で柔道だろうか。
まず剣道は段持ちまでやった。バスケはパス回しだったがある程度はやれてたと思う。バトミントンは……忘れてほしい。
卓球とサッカーは遊び半分の部活でやってた程度だが準々決勝くらいには毎回入り込んでた。
まあ、どれも一般人止まりだ。
スケボーなんか大会で片足骨折して止めたしな。
で、社会人になってからはそこまで運動らしいことはしていなかった。
家に帰れたら取り敢えず素振りと筋トレに、健康のためプロテインを飲んでいたくらいで酷いもんだった。
つまり何が言いたいかというとだな。
(剣ってどうふりゃあ良いんだよ!?)
よく「剣道してたから異世界でも剣クッソ強いです」設定はよく見かける。
だがあれは学生にも関わらず剣の道を極めし覇者達だ。
年齢のせいで取れないはずの資格を持ち道場の師範すら打ち倒す者達だからこそ出来る技であり、ちょっと噛んでた程度の俺には普通の型しかできない。
ましてや二刀流なんて無理だ。
誰でも良いからアビリティとかジョブとかそんな設定持ってきてくれ!
「ウオオォォォオオオオオ!」
「ちっ!」
それだと言うのに目の前のオッサン達は止まることを知らないようだ。
もう目前まで来ている。
対して俺は中段構えの産まれたて子鹿だ。
それより今気付いたけど、2対10って卑怯じゃない?
RPGなら3人ずつとかでしか来ないよ?
スローモーションで流れる映像にも限界は来る。
とにかく俺は斬る斬らない以前に生き延びるため防御なり受け流すなりしなければならない。
「……ゃあああああああああああ!」
叫んで、一歩、前へ!
幸い目の前にいる最初のオッサンは上段からの垂直に斬り下ろす動作に入っている。
ならば小学生からやっていた剣道の延長戦だ。
………いや、そうであってほしい。
迫り来る剣に対して息を整える。
なぜか呼吸はしやすい。動悸もない。
ーーーーきたっ!
「はぁ!」
刀身の腹を斜めにし、来た剣をズラす。
だがやはり稽古と実戦は違う。ズラそうとしたが相手の剣が重すぎて難しい。
だが俺は負けじと踏ん張り、横へ払い退ける。
「ーーーー!?」
オッサンの顔が驚愕に変わる一瞬を狙い、跳ね除けた時の勢いをそのまま胴斜め切りへと乗せる。
ガィイン!
酷い金属音が鳴り響く。
やはり漫画の通りに『斬った』なんて感触はない。
だが背後を振り向いていたら、もう目前まで迫ってきているお兄さんに斬られかねない。
次の目標を視線の中に収めて2歩、踏み込む。
「っやああああああああああ!」
敵は右斜め切り斬り。さっきの俺と同じような型だ。
俺は右下で野放しになっている大剣を思いっきり、敵の一線とかち合う様にして振り上げる。
だがこれは相手の剣と打ち合うための刃ではない!
「っ! はぁっ!」
狙うは鍔辺り!
手首が良いかとも思ったが、俺は人斬りをしたいわけじゃない。
剣を握り直し、さっきからスローモーションで流れる相手の剣へとタイミングを合わせ!
ッガアアアアン!!
見事相手の剣を跳ね除けた。
そのまま面に行きそうになるのを抑え、斬り上げた勢いに乗せ体を反転させる。
すると、俺を背後から斬ろうとかかって来ていたオッサンBが見えた!
そりゃそうだ、RPGでも試合でもないんだ。相手に隙があれば誰だって斬りに行く。俺ならそうする。
体の回転に使用した勢いを蹴りも入れてさらに勢いつける。
流儀には反するが、そのまま相手を牽制する様に右斜め切りをし、わざと空振りさせる。
それでも相手は止まらないが、
「どりゃあ!」
地面を叩く!
舗装されてるとは言っても草が刈られ整えられて人が通れる様になっただけの道だ。そんな物の地面には対して強く剣を振れば!
「グフォ!?」
舞い上げられた土を直接食らったオッサンBは変な声を漏らした。
それでも剣先が止まらないのは流石だろう。
俺はそれを屈んでかわす。
そして勢いに任せてそのまま背後にも土を打つける。
すると背後から来ようとしていたお兄さんBに当たりかけた。
それを気にせず左足に力を溜め、水平に持ち直した剣を背後にいる先ほどのオッサンB目掛けて力一杯振う!
この時、俺は「これで退いてくれたら良いなあ」程度に考えていた。
だからこの先のことを全く考えていなかった。
ーーガアアアアッン!
「………え?」
斬った感覚はない。さっきと同様に酷い金属音が聞こえただけだ。
だから跳ね除けられただけだと考えていた。
そりゃそうだろう、鎧ごと人を斬るなんてどれだけの筋力が必要だと思ってるんだ。全盛期である20代の姿をしていようが同じことだ。
そして俺は人を斬れるような筋力は持ち合わせていない。
なのに……
「なんで……斬れてるんだ?」
剣先に見えるのは真っ赤な鮮血。
鎧ごと斬られ、腹を通り抜け切断された体は真っ赤な臓物と脂肪と皮と、白い骨が露出していた。
それすらスローモーションで見える。
すべてがゆっくりと、流れるような速度は俺を中心にして緩やかな速度へと変化していく。
さっき胴を斬った男へと、視線を向ける。
すると、そいつも斜めに切断されている。
剣を払った男へと視線を向ける。
両指が切断されて痛みに悶え、俺が舞い上がらせた土が傷口に入ったのか地面を転げ回っている。
なんだ、これは。
現実から乖離するような感覚が全身を覆い、すべてが遠く彼方へと跳ぶような錯覚。
それを強制的に戻すかのように、誰かが叫んだ。
「こ、この男もっ、神多夢だッ!!」