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俺。生きるために、前へ

完全不定期更新です

 手に持つ大剣はまるで24年間触り続けた木刀のようにしっくり来る。

 そしてそれは軽く手首を返すだけで、目の前の邪魔者をいとも簡単に斬り捨てられた。

 逃げようとする敵へ対して軽く一歩踏み出すだけで、目的の位置にまで行ける。

 さっきと同じように手首を返す。


「…………」



 音はない。

 俺と俺の肉体しかこの世界にはいない。


 勇敢にも俺へ一太刀入れようと迫ってくる敵がいる。

 だがそれはあまりにも遅い。

 何もしてない状態でも十分遅く感じたのだ。今の俺にこいつらは弱過ぎる。




 蚊でも払う勢いで剣を振り上げた。


「……………」


 無駄なものは一切もなく、すべてのエネルギーが効率よく流れる。

 ただ不必要な物が目の前で物言わぬ肉塊に変わった。



「……………」


 邪魔な肉を跨ぎ、必要なオスクラへと手を差し伸べる。

 呆気にとられながらも俺の手を取ってくれたのでそのまま持ち上げて立たせる。

 その表情は驚愕に支配され目が見開いていた。



パチパチパチ……


 生温い空気の中を切り裂くように渇いた音が鳴った。

 そちらの方に顔を向けると、手を叩くベジタボゥがいる。何が面白いのか相変わらず不敵な笑みを浮かべたままだ。



「よくぞ覚醒したな!」

「……………」


 言葉の意味がわからず首を傾げた。

 気付くと、隣にはオスクラが立っている。


「もう終わりよ。アンタの神多夢ではフウトを敗れない」

「くっくっくっそれは至極承知していますよ。失敗作」



 そういえば、初めて俺の名前を呼んでくれた気がする。

 まあ、良い。


 俺が認めないコイツを殺せば、すべて終わる。

 自然と剣を持つ手に力が入る。



「さあ来なさい。そして私を倒してみろ、出来損ないの脈動掌握者と魔女ナトゥーロの失敗作っ!」


 ベジタボゥが叫んだのを聞いて、俺は地面を蹴る。

 その後ろでオスクラが短剣を振り上げ、降ろす。


 それだけで上空から伸びた刃がベジタボゥ目掛けて飛んでいく。

 しかしベジタボゥはそれを避けず、目の前に手を伸ばす。

 ただそれだけの動作で、刃が横にズレた。



「……………」


 その頃には俺の間合いに入り、軽く、だが最も速く横払いをする。

 だがベジタボゥが手をかざすだけでいとも容易く避けられる。


 いつの間にか抜刀していたベジタボゥが、がら空きになった俺へ突きを放ち、


ガィィイイイイン!


 脇から伸びてきた刀身によって阻まれる。

 体勢が崩れた隙を狙い、今度は斜めに腕を振るう。


ザンッ!



 それもベジタボゥにより曲げられる。

 単純な事ではあるが、なかなかに厄介な能力だ。


 奴はただひたすらに自分の能力を使用しているだけだが、その使い方が姑息だ。

 全身のあらゆる箇所の温度を同時に変化させてくる。そのせいで小さな歪みが生まれ、あと少しという所で当たらない。


 特に俺なんかは致命的だ。

 なまじ体のことを理解しているため正確さを無意識のうちに求めてしまう。そのせいで不安定な奴の深層が入り込んだ時の歪みは、オスクラ以上のものだ。



 再び斬りかかるため右足を前に出し、右下から払い上げる。

 ベジタボゥが手首を振るう。

 右足の体温が急激に奪われ、代わりに肩辺りの体温が上昇する。

 俺が体の重心を計算し始めた途端に次は右足の体温が上昇し、踏ん張るために入れていた力が余分なものとなり前のめりになるような形で剣を振るう。


 もちろんそんなものは当たるはずがなく、体が剣に振り回される。

 そこへオスクラの刃がすかさずフォローに入る。



「………ちっ!」

 思わず距離をとる。

 脈動であるこちらは距離を詰めなければ勝てないが、深層である奴はいつでも攻撃ができる。かなりやり辛い戦いだ。

 それでも何か方法があるはずだ。例えば刀身を太陽の光に反射させて……いやそこまで磨かれてる剣自体が稀だろうし、今俺が持っている剣は漆黒で、逆に吸収してしまう。




「アイツが個別毎に熱移動を使えるのは一人に対してだけ、全身の熱を変えるだけならいくらでもいけるかもしれない」


 唐突の声に驚いた。


「分かるのか?」

「私の深層は好奇心。相手の中身を見透かすなんてお手の物」

「えっ、じゃあ剣を伸ばしてるのは?」

「あれは脈動、願いは教えないけど」


 ということは今まで脈動と深層のどちらかしか持てないと勘違いしていたが、もしかしたら俺にも深層が備わっているのかもしれないのか!?

 そうすれば逆転は間違いなしだろう。



「普通はどっちかしか持ってないからやんなくていいよ」

「あ、さいですか……」


 あぁ、くそ、このまま消耗戦になれば負けるのは俺たちだ。

 というか体温調整ってあんな所々でもオッケーなのかよ、酷いな。

 だけど何かあるはずだ、弱点的なサムシングのなにが……会話の中に無かったか、思い出せ………




「あ、そうか」


 なんで今まで気付かなかった。奴は最初の方で自分の弱点を暴露してたじゃないか。

 よし、分かれば実行に移すだけだ。


「オスクラ、話を聞いてくれ」


 そうして俺の考えた作戦とも呼べないお粗末なものを伝える。

 聞き終わったオスクラは目を見開いた。



「……良いの?」

「良いも何も、この状況を打開することから始めようぜ」

「それもそうね」


「作戦会議は終わりましたか?」



 なんか死にそうなボスキャラみたいな発言してんぞアイツ。

 いや、今から死ぬから間違いでもないか。


「お前の能力なら俺たちの会話を中断させることなんてわけないはずなんだが? もしかして自分は死なないと勘違いして舐めプしてんの?」

「そんなわけなかろう。君達のことを私は大いに期待している。だから次に何をするのかと、今か今かと、私は待ち望んでいるのだよ!」



 相変わらず両腕を広げてのポーズだ。

 まるで的はここですよと言わんばかりだ。

 なら狙ってやるよ。



「行くぞっ!」


 叫んで駈け出す。

 これで決めなければ後はない……だから


「次で決めるぞ! ベジタボゥ!」

 全力で叫ぶ!


 そして、すべての体内エネルギーを足へと向ける。

 できるだけ前へ! 前へ!




「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」

「遅いッ!」


 手を向けられ、足が凍る。

 だが!


「っん、なの知るかああああああ!」

「なにっ!?」



 倒れかけた時に支える手にエネルギーを集中させ、筋肉を一瞬で凝縮させる。

 そして、一気に爆破。



 周りの音が、景色が、すべてスローモーションで俺の背後に流れて行く。

 その風を全身に受けながらベジタボゥへと進み続ける。


 体が上空にあれば、いくら能力を使おうがなんの意味もない!


「届けェ!」


 手を伸ばす。

 前へと重くなる全身を無理矢理後ろに直して落下し続ける。

 そのまま奴の前で着地。




「……待たせたな」


 奴も驚いているのか能力を使おうとしていない。

 俺はすぐ大剣を精製し、それを奴の左顔面に向かって斬りつける。


「クソっ!」



 だがそれもすぐ上へと方向転換される。







 ーーーそれでいい。


 奴がそのまま斜めに斬ろうと駆けてくる。

 俺は諦めたように両手を放り、それを迎え入れる。


 さあ来い。

 ここだ、俺の胴は今、がら空きだ。どこからでも狙えばいい。




 だが覚悟しろ。

 人を斬るってことは、だ。


 ………相手に斬られるって覚悟が必要なんだ。








「見えた」

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