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語り継がれた話

破談からの婚礼

作者: 木。

「縁談がダメんなった。」


 暗い顔でやって来た大叔父の第一声がソレだった。

三日後、かの家の養女の婚礼が執り行われる予定だが……ダメになったとは何だそれ。

ポカンとした次の瞬間、部屋の空気が爆発した。


「マジで!?」


 祖父が言った。

私は内心で頭を抱えた。

同年代が若者言葉を使う分には平気なのに年寄りが使うと兵器だ。半端なくイラっとするし、破壊力は抜群だ。間違った使い方でない分、余計に神経を逆撫(さかな)でされる。

 お茶を出した祖母は一瞬だけ固まった後、さっと席に座り聞きの態勢に入った。


「一体、何があったというの? 詳しくお話になって。」


 言葉は上品だが内容はエグイ。

私は今度こそ頭を抱えた。

親戚の娘の破談話に、何この勢い。もう少しデリケートに扱って欲しい。

 呆気に取られた大叔父は、慣れているのか溜め息を吐いて唇を開いた。


「花婿が別の女と婚約していたんだ。」


 はあ!?


と、声に出さなかったのは我ながら褒めたい。

祖父母はふむふむ(うなず)くと、


「それで?」


「どうしましたの?」


先を(うなが)した。


 容赦ないな!?

目を()いた私を其方(そっち)退()け、どうしてだか気が楽になったらしい大叔父も話しを続けた。


「本人同士の口約束だったらしいが、慶事が相手の女に知れたらしい。向こうの家に怒鳴り込んで来たそうだ。最初は家の為、と言って説得しようとしたらしいが……」


「……下手ァ打ったな。口約束でも婚約しとったんだ。男にその気がないとそんなハナシにはならん。むしろ、さっさと結婚しておけば良かったのにバカな男だ。」


「ホントに。その男は口約束を家族にも話さなかったんでしょう? だから縁談が来たのに、唯々諾々と流されて。挙句に、こんな土壇場になって破談? 失敗しましたわね。」


 元花婿を祖父母は口々に非難した。

あまりの内容に、私は大叔父を真っ直ぐ見て唇を開いた。


「あの子は今、どうしていますか? 大丈夫でしょうか?」


 あの子、とは花嫁のことだ。

本家から大叔父の家に引き取られたが、親戚中があの子の後見をしていたようなものだ。特に我が家は祖父母や私だけで無く、使用人までもが気にかけていた。

彼女が小さな頃から知っている。


「……泣いている。何せ、昨日の夜の出来事だから。」


 よし。元花婿を殺そう。

さっくり決意した私を、祖父母はチラと見てから姿勢を正した。


「それで? 本家はこの話を知っているのか?」


「まだだ。これから行くんだ。この家は特に気にかけてくれていただろう? だから取りやめの連絡が本家から出るよりも直接の方が良いと思って。」


 大叔父がチラリと私を見た。

私と使用人の行動を先んじて釘を刺しに来たのか。内心で舌打ちした。

そんな私を祖父が指差した。


「そんなら、ウチの(これ)はどうだ?」


 は?


と、いうような顔をした大叔父に、祖母が言う。


「この子は、子供の頃からあの子に片思いしていたのよ。他家に(とつ)ぐ事が決められていたから、縁が無かったと(あきら)めて妹のように可愛がっていたの。でもこう(・ ・)なったら、わたくし達だって遠慮なんてしないわ。」


「え、いや、あの、」


 呆気に取られた大叔父が、私を見た。

暴露されて真っ赤になっている場合じゃない。今が正念場だ。頑張れ私。畳み掛けろ。


「私との結婚のお許しが頂けるなら、直ぐに求婚(プロポーズ)(うかが)います。」


 言った! 

言ったぞ! 良かった! 噛まなかった!

 すぐさま祖父が口を開いた。


「本家には明々後日(し あ さ っ て)の式は取りやめじゃなくて、花婿がかわったって言え。」


「そうそう。破談の話しばかりじゃ角が立つけれど、花婿がかわっただけで式は執り行われるなら、我が家よりも血の気が多い家も表立っては動かないでしょう。」


「う、うん? 確かにあのボンクラより兄貴んトコの()が良いが……」


 祖母が口を滑らせたことに気付いていない大叔父は、しどろもどろで承諾した。多分、展開の早さについていけてない。

ひっそり冷や汗をかいた祖父は、大叔父の腕を取って立ち上がらせた。


「さ、忙しいぞ。ああもうこの際だ。一緒に本家に行って報告して、今日明日中に親戚連中に連絡するぞ。明後日(あさって)には嫁入り道具を運び込む段取りを付けるから。」


「では、わたくしも参ります。花嫁の支度は調(ととの)っていても肝心の婚家(ウ チ)が準備不足ではいけませんもの。本家の奥方達と相談しなければ。大丈夫。持てる伝手(ツ テ)を総動員して、完璧な式にしてみせます。」


「私も準備に入ります。大叔父上、御帰宅の時間を見計らって求婚に伺いますが、あの子の好きな花は橙色のガーベラから変わっていませんね?」


「変わっとらん。あ、今バラがダメだ。ボンクラを思い出すらしい。昨晩のうちに家中の花瓶からバラが消えて、今朝は温室や庭の(つぼみ)も家内に(むし)られた」


 バラの育種家として有名な大叔父が、それは。

思わず絶句した祖母と私に目配せをした祖父は、沈痛な表情で背中をポンポンと叩いた。ちなみに祖父は、ユリの育種家だ。


 大叔父と祖父母を送り出した後、婚礼の準備に使用人達と駆け回った。

ふ、と庭に咲くユリに目がいって思った。


 ウチにバラが植わってなくて良かった。

 読んで下さってありがとうございます。


先日「勢いで結婚した」という話を聞いて、それならこういうスピード婚もアリかなぁと思いました。





2015.10.30 ジャンル別日間その他ランキングで、2位に表題がありました。


 同じ題名の作品があるんだなぁ、


最初、そう思っていたら勘違いでした。

驚きました。

望外の事で、とても嬉しかったです。ありがとうございます。


 元は大正生まれの祖母が語る実話を、なろう小説にアレンジしました。

ホッコリして頂けたのなら、嬉しいです。

最後まで、お付き合い頂きありがとうございました。



2015.11.3

祖母の話

 何週間後に祝言を控えた花婿に別の女と駆け落ちされた花嫁の家が、婚礼取り消しの連絡をしに本家に行ったら「ならウチの息子の嫁に」と申し込みされ、次の家から「婿が別の人になった」という連絡に変更になった。


「マジで!?」の話

 新聞の投稿欄で遭遇。該当年齢層よりも巧に若者言葉を使いこなす高齢者の着眼点と構成力と、オチに腹筋崩壊。

数年後、間違った若者言葉を耳にして心が折れそうになるくらいのダメージを負う。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 テンポ良い会話文、好みです! バラのところで笑ってしまいましたw 恋の続き?が気になりますね
[一言]  棄てられたお嬢さんには悪いですが、主人公の恋心が実って良かったですね。  それでも身内贔屓があるからかも知れませんが、主人公も良い相手な上にお嬢さんを想う心があるので相手に嫁ぐよりも幸せか…
[良い点] 爺ちゃんマジでってwww
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