第八話 魔術限定使用
2015/3/24 一部修正。
◇
「うっ」
目が覚めた。
一体・・・ここは、俺の部屋か。
目を開いて左右を見回すと約200cmの大太刀《天羽々斬》が立てかけられていたため自分の部屋だと気づいた。
どうして俺は部屋で休んで・・・そうか、俺はあのあと気絶したのか。
完璧すぎる《記憶》を思い出したら、なぜここにいるのかが理解できた。
あの痛みの地獄から解放されたと思い意識を落としたのだ。
その後は、父上達がこの部屋に運んでくれたのだろう。
毒見をされたはずなのに毒を身体に受けたということは、毒見をした奴が予防薬みたいなのを服用していたか、毒見した後に誰にも気づかれずに入れたか、といったところか。
あの後どうなったかは、父上に聞けばわかるはずだ。そう思いながら身体を起こすと、ベッドの近くで椅子に座って眠っているシャルがいた。
俺のことを看病してくれたのだろうか?
ハハと、気の抜けた声を上げる。
するとその声を聞いたのかシャルが目を覚まし、俺のことを見ると放心したように目を見開いている。
俺は何時も通り軽薄な笑みを浮かべながら飄々とベッドで上半身だけを起こしていると、目に涙を溜めてシャルが、顔をクシャクシャにしながら身を乗り出して飛びついた。
「お・・・おにいちゃんっ!」
「おいおい、大丈夫かよ?」
上半身だけでは支えきれず倒されてしまった。
「うぇ~ん!」と俺の胸に顔を押し当てながら泣いているので、どけようにもどけられない。流石に「邪魔」といった無情なことはできない。
なので困ったように、両手を万歳していると扉が開かれて父上が入ってきた。
「おーい、シャルそろ―――って、イブリス!?起きたのか!!大丈夫か?どこか痛くないか!?」
最初は何時も通りの感じだったが、俺が起きている姿を見てか調子を崩して俺の元に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですよ。特に痛いところはありません」
元気な様子をみせるため顔に笑みを浮かべると信じてくれたのかホッとしたような顔をした。
その後、俺が頼む前に倒れた後何があったか教えてくれた。
「―――――ということだ」
「そうですか・・・」
他国の間者のせいということ、《魔薬》のこと、現在は魔力が使えないはずということ、治す方法はないということを教えてくれた。
そして俺は一週間も眠っていたらしい。
異常な空腹感が今も俺を苛んでいるがまずは魔力のことだ。
魔力を体内で移動できるか試すと簡単に何時も通りに出来た。
(ん?出来なくなるんじゃなかったか・・・)
そう思いながらも簡単に出来る。
次は魔力を体外にだすため《身体強化》の魔術を発動した。今はシャルが俺の身体に抱きついているから危険度の低い安全な魔術を使用したのだ。
だが――
(ん?魔力が体外にでない・・・?)
魔術が発動しない。
《身体強化》だけかと疑問に思ったため、発動場所を遠ざけてファイアーボールを生む魔術を発動したが結果は変わらなかった。
(魔術が発動しない。というか、体外に出せないだと?)
そう体外にだせないのだ。
魔術を発動させずに魔力を体外にだそうとしても蓋をされたみたいにだせないのだ。
「あの、父上」
「なんだ?」
「魔力を体内では移動したり使えるのですが、体外にだせないのです・・・」
「は?あ、いや、では、《魔薬》の効果は違ったということか・・・」
父上もすぐに《魔薬》の効果が違うことに感づいたようだ。
その後は、少し話をしてから王城内に無事だったと報告しにいった。
シャルが離れてくれなくて困ったけど、どうにか慰めて安心してくれたのか30分ほどかかって離してくれた。
◇
身体に異常は感じられず、身体が鈍っていそうだったので《天羽々斬》を肩に担いで騎士団訓練場に来た。
俺が無事だったことにホッとしている者がほとんどで、その後に背負っている刀をみて全員が驚いている。
今では声をかける必要もなく、使用しても問題ないため訓練所の隅の方に歩いていき《天羽々斬》を壁に立てかけた。居合いをしたいところだが、今の身長ではできないので鞘から抜いた状態で素振りを開始する。
まずは、上から下に斬り下げ、次に下から上へ斬り上げ、右上から左下、左下から右上へ、左上から右下、右下から左上、左横から右横、右横から左横へと流れるように振る。
刀に振り回されることなく、振るった。身体全体に《魔力強化》を施しているため重く感じることはない。
《魔力強化》を施せば普通に扱えることがわかったが、やはり魔術は使えないようだ。
試しに《天羽々斬》を魔力で覆えるか試したら簡単にできた。体外に放出するのと、どこが違うのかよくわからないが身に着けている衣服や持っている物などには流せるということかと、どうにか納得した。
◇
魔力が使えなくなって2年が経過した。
現在俺は7歳、シャルも7歳。
魔術が使えなくなっても特に支障はなく、普通にすごせた。
シャルはとても心配してくれていたが、魔術が使えなくなったからといって普段の生活に関係しないのだ。
それに、俺にとっては魔術は「あったら楽だな」程度の物でしかなく絶望するようなことではない。
この2年間で、俺は背が125cmほどになった。刀を居合いで扱うにはまだまだだが10歳ほどになったら扱えるようになるのではないかと思っている。
自身の体質である異常な《適応性》で、魔術の制限をどうにかできないかと思っていたが自分の意思で発動するわけではないのでどうしようもなく、2年たった今でも制限が解除されていないことから《魔薬》による効果は無効あるいは、緩和できないのでは?と推測している。
それと困ったことに、俺は新たな体質になってしまった。
《魔術無効化》体質。
それを初めて感じたのは、騎士団の訓練所で何時も通り素振りをしていたときだ。その日は宮廷魔術士も訓練に参加していて、騎士達と合同で何かの訓練をしていたようなのだが、流れ弾が俺の方に飛んできたのだ。その魔術は回避しようと思えば、回避できたはずだし対処のしようは幾らでも存在していたのだが、そのときの俺は真剣に深く考え事をしていたため無防備な状態で魔術が直撃した。遠くからその姿を見ていた者らは大慌てで煙が晴れるのを待っていたらしいが、俺は急に現れた煙がうっとおしかったので刀の一閃で煙を消し飛ばす無傷でいる姿を、見て誰もが唖然としていたらしい。
その後何故か俺は医務室に連れてこられて、医者というのに似た役職についている女性に《解析魔術》というものをかけられたのだが、「効かない」と女性が呟きその後も10回ほど繰り返したが結果は同じで、「魔術は発動しているのに効果を発揮しない」ということが起きたのだ。
このことから、俺は《魔薬》に《適応》して《魔薬》を無効化するはずが、変に《適応》したのか魔術を一切受け付けない体質に変わったことがわかった。たぶん体外だけ無効にして、体内は魔力を循環させることができるから経口摂取でも無効化されないはずだ。
これが任意ではなく自動なため、俺の意思で操作することはできず、回復魔術から攻撃魔術まで全てを無効化してくれる。
これを王城内では魔術の《絶対無効》と呼ばれている。魔術が使えなくなった代わりに魔術を完全無効できるようになった。
矛盾両方扱える力を失った代わりに完全な盾を手に入れた、ということか?
◇
今日は3月20日、初社交界デビュー。
これまでは、社交界にでても大丈夫なように話し方、マナー、ダンスなどを学んできた。俺は簡単にできたが、シャルが完璧になるのに時間がかかったのだ。まあ、それが普通なのだが・・・。
今回行われるのは晩餐会という夕食と歓談を楽しむ割とオーソドックスな代物ではなく、舞踏会。
本会場には300人以上が同時に踊れるほどの広さがある。そして、本会場より少し小さい200人以上が踊れる部屋が他に2つも繋がっている。下級貴族などは人数が多いためこれくらいの広さが必要なのだと父上がいっていた。
こういった晩餐会に出席する場合、招待客は婚約者や結婚相手がいるなら同伴させるのが普通だ。晩餐会や舞踏会は貴族が見合い相手を探す場としても活用しているから、見定めた相手に婚約者がいるのかいないのかを含めて声をかけるかどうか判断するらしい。
普通こういう場には、成人になってからつまり15歳になってからしか参加しないさせないことになっているのだが、王族と公爵家だけは無関係らしい。国を支えるような人達の子供だからだろうか?
有力貴族の子弟なら10歳までに婚約する者が多いらしく、中堅貴族の家の者は成人まで婚約者がいない者が多いらしい。
『婚約者』というものは、よくわからないのだがやはり意思を無視して「好きでもないのに結婚するなんて・・・」と思ってしまうのは前世の恋愛観に影響されているからか・・・。
勿論俺や、シャルにも「婚約者を・・・」という話は王城内ででているらしいが、父上と母上が決めるのを否定しているらしい。なんでも「好きな人とさせてあげたい」とのことで、王族には珍しい人達だと臣下がいっているのを聞いた。臣下たちが、父上に忠誠を尽くしているからといって、俺にも尽くしてくれているわけでもない。寧ろ疎まれているだろう。
2年前に起きた事件のすぐ後に、王城で働く全員が父上と母上により他国の者でないかを調べ上げた。すると誰一人もでてこなかったので、王城にいる誰もがホッとしていた。俺としても敵が自分の家の中に居ると思うとゆっくりと眠れもしないから嬉しかった。
夜になっていたが開始まで、まだまだ時間が余っていたので王城の、《庭園》にシャルと一緒に来ていた。
ここは、王族のみが入れる場所で、プライベートエリアというやつだ。
「ここは、静かだな・・・」
「そうですね」
緑も多く、世にも美しい花々も植えられてある幻想的な場所だ。
風が吹き、草木が舞い、美しい花々も舞い散る中、静かに兄妹は歩んでいた。
この場所を俺は好きだ。
静寂に満ちており月明かりのみが照らすこの場所は、まさに幻想的といえるだろう。
頭上で光、草花を照らす月。
光を受け、吸い込み、また、反射しているように見える草花たち。
どれをとっても綺麗で、幻想的で美しいといえる。
ここでは、心を静めることが出来る―――。