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異界の刀剣使い  作者: 雪月 奏
第一章 
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第六話 刀誕生

2015/3/23《無刀術》の名前を消しました。

 ◇


 魔術が普通に使えることがわかったので次は接近戦闘術を使えるようになろうと思う。

 魔術で遠距離から戦うのも悪くないけどやっぱり接近戦の方がたのし・・・いや、接近戦でも戦えるようになったほうがいいから、な。


 独学で武術を使えるようになろうと思う。俺が頼めば、誰でも専属講師を用意してくれそうだが歳がまだ幼いため父も許してくれないだろうと考えたのだ。

 武術については一応考えている。

 それは前世の記憶。

 前世で俺は様々なジャンルを問わない本を読み漁っていたのだ。例えば、歴史書、医学書、武術指南書、ミステリー・・・と色々な本を読んでいた。前世では忘れかけていた記憶も何故か転生してから、しっかりと思い出せる。

 自分でいうのもなんだがこれは異常で最高だ。普通に考えてこれはおかしいことだ。しかし、これは最高に良いことになったといえる。記憶が残っているということは前世の奴らとの思い出も残っているというわけだがそれ以外、例えば知識なども覚えているということ。本などに書かれていた事を実践したり、実用したりできるというわけだ。

「こりゃいいぜ」と思った。



 イブリスは転生してから特殊な体質になった。

 一つは異常な《適応性》。

『適応』とは、生物が環境や経験に応じて形態や生理的な性質、習性などを長年月の間に適するように変化させる現象のことをいう。しかしこの『適応』をイブリスは、超短期間で可能にするのだ。

 例えば、前世で一度も感じたことがない魔力を集中するだけで感じてしまうこと。これは普通ありえないことで、この世界で生まれた者も他者に魔力を流してもらうことで感じるか、長期間数ヶ月ほどかけてできる。つまり一人で感じる。ましてや、感じることを意識し始めてすぐに感じれるものではない。

 このことからイブリスの異常な《適応性》が理解できるだろう。


 一つは異常な《記憶力》。

『記憶』とは、 過去に体験したことや覚えたことを、忘れずに心にとどめておくこと。また、過去の経験を保持し、これを再生・再認する機能の総称のことだ。しかしこの『記憶』をイブリスは完全に覚えている。

 例えば、ある本のある一ページの一字一句すらを。普通はこの『記憶』を成長するにつれ所々忘れ去ってしまうもので、いわれて思い出したりすることもあるが大抵は思い出せないでいることの方が多い。

 このことからイブリスの異常な《記憶力》が理解できるだろう。


 イブリスは転生したことによって時間をかけてようやくできるはずの事を数秒単位で可能にしたり、絶対に忘れることのない記憶力をしているのだ。



 イブリス本人は「便利だな」程度にしか考えていないがこれは明らかに人の身を越えている。

 《記憶力》については、別に記憶を忘れない程度の能力だから問題はない。

 しかし、《適応性》については問題がある。これは経験さえすれば一瞬で会得するということだ。

 例えば、ある武術の仙人が一生涯を使って漸く会得できるような技もイブリスにとってはその技を実際に一度や二度試すだけで会得できてしまう。

 正に異常。

 これは人の身に余る能力だろう。

 しかしこの能力が何故、イブリスにあるのかは神すらわからないことなのだ―――。



 体術は記憶の中にある中国武術を参考にした。日本の武術なんかよりも強そうに思えるからだ。

 中国武術には種類が沢山あるのだが、イブリスは筋骨、体力を鍛え、体を外面から強くして剛力を用いる武術ではなく呼吸や内面を鍛えて柔軟な力を用いる武術を先にすることにした。今の幼いイブリスでは筋骨、体力などの身体の外面を強くすることは逆に身体を痛め壊すことになりかねないと理解していたのだ。

 最初はさまになっていない初心者だとわかるような動きだったが、《適応》のおかげですぐに達人のようなその道を極めた人がだす、キレというものが動きに出てきた。

 その後も記憶にある動きを実践してすぐに我がものとしていった。



 ◇


 5歳になるまでは武術のことを記憶を使いながら実践していた。

 例えば、脚の筋肉を一瞬で収縮から爆発をさせ凄まじい速度を得る技。シンプルだが強力な掌底技。人体を貫けるほどの貫通力を生み出す貫手技。筋肉や防具など、間に挟んだ物には損傷を与えず、好きな位置だけに衝撃を伝えることができる技。大地を踏みしめることで得る反動をエネルギーに変える技。魔術で空中に踏み台を作り、一瞬だけ足場にする技――――。まだまだあるが様々な技を体得したり、編み出したりした。

 中国拳法とも違う技になってきたので、イブリスは自身が体得したり編み出した武術を《無刀戦闘術》、略して《無刀術》と呼ぶことにした。


 5歳になってからは騎士団の訓練場に顔をだした。

 剣術を学びたかったからだ。いや、剣よりは刀を使いたかった。前世で剣より刀の方がいいと常にイブリスは思っていた。しかしこの世界で刀が存在しているのかわからないため過度の期待はしないようにしていた。



「あの、サクヤさん刀ってありますか?」

「ありますよ」


 あるらしい。

 そしてこのサクヤは前世の日本のような地域で生まれて育った。『和』というものがあり、刀もある。《ローゼリンデ王国》のかなり辺境にあるらしく、ここ《王都》からは遠いらしい。

 サクヤに騎士団の倉庫にあった刀を貰い、イブリスは訓練所の隅でいつも通り記憶から知識を呼び起こしていた。刀術について書いてある指南書を読んでいたので知識はある、後は実戦あるのみ。

 背がまだ低いので腰に差すことができないので、左手で鞘を持ったままで膝を少し曲げて腰を少し落とした。知識だけの見よう見真似の居合いの構え。そして鞘から刀を行きよい良く抜き居合いをする。その後に、袈裟斬り、逆袈裟、横薙ぎの斬撃――――一通り刀を振り回し二週目に入ると今度は動きにキレがあり、達人、剣豪などが振るうような一振りとなった。


 イブリスが素振りをしているのをみていた者達の多くは、「初めて振るならそんなものだな」などと思っていたのだが、いきなり練達した者にしか出来ない動き、一振りをみせ初めて驚愕した。初めて剣を持ったのが今日のはずなのにそんな動きをみせたら誰だって驚くだろう。

 この出来事によりイブリスは王城で「魔術は全属性扱え、刀術は予測不可能、正に千変万化」などと呼ばれるようになるのだが本人はそういわれてもどうでもよさそうにしていた。


 ◇


 刀を自分の限界まで《適応》できたので次はなにをしようかと考えていたとき、ふと「自分用の刀が欲しい」と思ったので父上にお願いしてみることにした。


「父上、刀が欲しいです」

「ふむ、お前に欲しいものがあるとはな」


 父ディセイラムは本気で驚いていた。

 この何をしても全てを簡単にこなしてしまう息子は今まで欲しいものをいったことがないのだ。

 だから今回欲しいといってくれ自分を頼ってくれたことは嬉しく叶えてやりたいのだが―――


「すまぬな、刀は宝物庫の中に確かないはずだ。鍛冶師に作らせようにも方法が失われておるしな」


 刀はないらしい、武器としての種類は確立されているらしいが鍛造できる人が今はいないらしい。

 なら――


「腕の立つ鍛冶職人を紹介してくれませんか?」

「む、何故だ?」

「刀の製造方法をお教えしてつくっていただこうかと・・・。後"ある金属"が欲しいのです」

「・・・わかった。その者は王都の冒険者達のいる北大通りの近くに店を構えておる。名は――」


 父上は俺の言葉に疑問を覚えながらも聞いてくることはなく許可をくれた。



「ワシの名は、バルタザル。おぬしの父の武器を作ってやったこともあるぞ」


 父上に紹介された武具屋に行こうとしたら、「馬車でしか王城を出ることを許さんぞ」といわれ馬車で連れてこられた。といっても馬車中は俺だけで広々としたものだ。

 着いたらしいので馬車から降りて扉を開けて店に入り説明するとこうなったわけだ。


「僕はイブリスロード・ローゼリンデです」

「それで、今日はなんのようできたのじゃ?」

「僕の刀を打って欲しいんです」

「ほぅ?」


 俺が刀を打って欲しいと告げると、片方の眉をあげて興味深そうにこちらを見つめる。


「あなたはこの国一番の鍛冶師だと父上に聞きました。なので僕がいう通りに刀を打って欲しいのです」

「それは?」

「この国では刀は造れる人がいないと聞きました。なので僕は知識を使ってあなたは鍛冶の技術を使って刀を鍛造して欲しいのです」

「どうやって?今や刀を打つ技術はある村でしか伝わっていないはずじゃ。それを如何にして刀を打つというのじゃ?」

「それは――日緋色金(ヒヒイロカネ)を使って、です」


 イブリスは自身の刀をつくるため記憶を本気で呼び起こしていた。過去に読破した本の中に刀鍛冶について書かれた物があってよかった、と思い出した時は本気で思っていたほどだ。『玉鋼』で作ろうと思っていたが、この世界は異世界、ファンタジーなのだ。原理不明構造物質不明なファンタジー鉱石や金属が存在している。



 日本刀の特徴を表す言葉として「折れず、曲がらず、よく切れる」と言う表現がある。しかしこれには矛盾がある。折れずということはゴムのように。曲がらずとは鉄のように。柔らかくも硬いそんな矛盾を解決するのが『造り込み』だ。これは比較的柔らかい芯鉄を、硬い皮鉄でくるむというもの。芯には柔らかい鉄が入っているので衝撃を吸収して折れず、外側は硬い鉄でくるまれているので曲がらないという訳だ。また直接物に当たる刃の部分は、硬くて粘りがある材料を別途作っておき、これら各パーツごとに最適化された材料を組み合わせ、一振の刀に仕上げるというのが日本刀、といわれている。


 しかし、今回使用する日緋色金にはそんな技術必要ない。そのことを知っているのはたぶん俺だけだ。他の人間は宝石等にしか使い道がないと思っている。

 《日緋色金》は、火炎のゆらめきにも似て朱くかがやき、比重は金よりも軽く、けっして錆びることのない《魔金属》。しかし、武器に使われたことはなく、国の倉庫に眠るか宝石類として扱われるかのどちらかなのだ。

 その金属を使用した武器は歴史上この刀が初めてのはず。

 日緋色金などの《魔鉱石》、《魔金属》は何らかの原因により魔力により変質した特異鉱石・金属なのだ。希少なのだが、父上がなんだかいっぱいくれた。何故だ?

 正直《魔金属》で刀ができるのか心配だったのだが杞憂に終わった。

 俺が適時声をかけて、バルタザルにいうとおりにしてもらったおかげか理想通りの刀身が出来上がった。


 今は刀身だけなので研いだり、茎仕立てと銘切りをしなければならない。刀身はバルタザルが研いでくれた。茎仕立てとは、(なかご)という部分に(やすり)をかけること。銘を切るというのは、その刀、剣などの作品に鍛冶師が名前を刻むということだ。普通鍛冶師がするのだが「これはおぬしの名を入れよ」といわれたので俺が「天羽」という銘を切った。

 日本刀の茎という握る所には柄木つかぎというものをかぶせるが、柄木は茎の形に合わせてくり抜いた木を2枚はり合わせて作り、その上下に縁頭を取り付けて固定するのだ。この柄木をバルタザルは、《霊木》という人間界で取れる最高の木で作ってくれた。

 《霊木》というのは、樹齢何百年という木で精霊が宿っていた神聖な木であるらしい。魔力伝達力も良くて希少だそうだ。手に馴染む握り具合だった。

 柄と、鞘は漆黒に染めた。

 たぶんこの刀は国宝級といわれるレベルの出来で、価値だろう。


 ◇


「おぬし、その刀は名をなんとするのじゃ?」


 完成した感慨に耽っていると、バルタザルが聞いてきた。


「この刀の名は―――《天羽々斬(アメノハバキリ)》です」


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