第九話 社交界デビュー(1)
2015/3/23 修正
◇
中庭から戻ってきたイブリスとシャルが王族用の控え室で待っていると、扉がノックされる。
「失礼します」
開いた扉からメイドが姿を見せた。
「舞踏会のご準備が整いました。既に皆様もお集まりしております。イブリスロード殿下、シャルロット殿下、ご準備のほどはよろしいでしょうか?」
「ああ、できている」
「はい、大丈夫です」
イブリスとシャルがうなずくとメイドが横を向いた。
「では、ご案内致します」
イブリスたちがメイドの横を通り過ぎ廊下で立ち止まる。メイドは扉を静かに閉めると「こちらです」と言って先へ歩き始めた。
今回使われるのは王城にある迎賓館という場所で、この館は舞踏会を行う時にだけ使われる場所だ。
本館は1階2階があり、1階は従者や護衛たちの待合場所。2階は本会場となる。
ここでイブリスたちの衣装を紹介しよう。
イブリスの衣装は、全体的に白い印象を受けるだろう。外側を金糸で腰の所から足首まで横幅2cm程の一本線を入れた白いスラックスのようなズボンと黒いシャツ。その上から、膝辺りまでのゆったりとした金糸で所々彩られた白い上着のようなものを羽織っている。上着のボタンを合わせず、トレンチコートのように黒いベルトが腰に巻かれている。
イブリスの容姿は、白銀に輝く銀髪を適当に切りそろえ、目は恒星のように煌めく金色をしていて左は魔法陣が浮かんであり魔眼だ。
シャルは、2年前に着た白一色のウェディングドレスのようなドレスと似ている。フリルやリボンが所々特殊な糸で刺繍されてあるので、シャンデリアなどの光の下だと、キラキラと模様がうかぶらしい。明るさ、綺麗さと可憐さを滲み出していると言えよう。
シャルは、イブリスと同じさらさらした流れるような白銀に輝く髪をうなじに届く辺りまで伸ばして、髪の一部を左右でそれぞれ縛ったツーサイドアップという髪形をして、サファイアのような青い澄んだ碧瞳をしている。髪の上には薄青く輝く《魔金属》製のティアラがのせてあり、儚げな感じを醸しだしている。
「お兄様、かっこいいです!」
隣を歩いているのに顔をずずっと、こちらに近づけながら言う。イブリスとシャルは頭一つ分程の身長差があるので、意識してか無意識かはわからないが潤んだ瞳の上目遣いでこちらを見つめてくる。
「ありがとうよ、シャル。シャルも可愛いぞ」
イブリスはお世辞ではなく本当にそう思っていたから告げた。彼はお世辞を言うことがない。
「はぅ!?お兄様、ありがとうございましゅぅ...」
「?」
「う~」と、真っ赤な顔を下に俯けた。
◇
「まずは、私が入ります。後ほど扉が中から開かれますので、それまで、イブリスロード殿下、シャルロット殿下はここでお待ちください」
「わかった」
「わかりました」
メイドが扉の向こう側に消えて、壮大な音楽が流れ始めた。しばらくすると父上と母上がやって来た。
「今日は2人とも頑張れ」
「ええ、初めてのことだろうけど頑張ってね」
父上と母上が横に並んで、その後ろに俺とシャルが並んで入っていく。
シャルは緊張しているようだが、俺は正直「早く終わらないか?」と
『皆様ご静粛に願います。これよりご来訪いたしますお方は、このローゼリンデ王国のディセイラム・ローゼリンデ国王陛下と、王妃のアルティナ・ローゼリンデ様。そのご子息で在られる、イブリスロード・ローゼリンデ第一王子殿下と、シャルロット・ローゼリンデ第一王女殿下でございます』
扉が開かれる。眩しい光と共に、豪快でありながら優美でもある音の旋律が溢れてくる。
扉が開かれたことにより、眩しいばかりの光が射してくる。
目を細めた俺とシャルは、父上と母上に合わせて一歩を踏み出すと軽快な足取りで会場に入っていく。
シャルは緊張のためか少しオドオドしているが、俺はそんなことなく上着の裾を揺らしながらゆっくりと進んでいく。
俺とシャルが父上と母上の次に扉を抜けると、盛大な拍手と無数に突き刺さる人々の視線に迎えられた。そしてこちらに視線を投げかけている者達はヒソヒソと噂しだした。
「あの子達が、この国の王子と王女か...」
「王女はまだ人々の視線に晒されることに慣れていないご様子...」
「王子の方は、緊張した様子もなければ気負った様子もないぞ」
「なんでも、王子は2年前に《魔薬》を飲ませれて魔術が使えなくなったそうだ」
「なんとっ!?全ての属性を扱え、齢4歳にして上級まで扱えていたというのに」
「嘆かわしい限りだ」
「ああ」
扉を開いた宴会の部屋には、数百人を超える立派な衣装の紳士淑女が所狭しと歓談していたり、20歳に満たないような少年少女達も誰かに声をかけようとしていたりしていたようだが、いまは扉から真っ直ぐの道を空けて左右に固まっている。
王城の中の、舞踏会などを開いたりする建物だからだろうまだ部屋にはスペースがあり、狭いということはない。
天井に設置された、人間の拳ほどもある無数のダイヤモンドで造られた巨大なシャンデリアはこの部屋の中から薄闇を払拭する光源となっている。
この部屋の四隅の天井付近に換気用の魔法道具があったり、防犯用の魔道具が設置されていたりするらしい。
部屋の端のほうには長机がありその上には豪華な料理がたくさんのっている。踊らない者や歓談している者のために用意されたのだろう。
王族が座っているために用意されたのか扉から伸びる中央の奥には壇上のようなものがあり、椅子が4つならんでいる。
その場所に父上達が進んでいったので俺達も遅れず早すぎずの速度でついて行った。
進むたびに俺やシャルを見てヒソヒソと噂をしているが、「初めて見るのだから仕方ないか」と思いながら気にしないようにして歩いた。シャルも気になるようだが、マナーを守っているのか頑張って気にしないようにしている。
壇上の椅子に俺たち王族が座り、全ての人の視線がこちらに向いてから父上が立ち上がり会場全員に聞こえるように魔道具を使って挨拶をした。
「皆の者、毎年恒例の行事であるこの舞踏会よくぞ集まってくれた。今日は私の息子と娘も初の社交界に参加している。しかし、だからといって何時もと違うことをする必要はない。社交界というものがどういうものか見せてやれば良いだけだ!では、楽しんでいってくれい!」
と締めくくった。
初めてみるが、これが国王をしているときの父上なのだろう。
今回俺やシャルが挨拶することはない。今日は「場を知り、慣れろ」ということで、参加者として楽しめと、父上にいわれたのだ。
父上が挨拶をしてから、貴族達も歓談を始めたり、止まっていた音楽が流れだしたので中央で踊り始めたりもした。
今日は無礼講ということだろう。普通なら国王に挨拶を個人個人でしなければならないだろうし・・・。
俺たちが入場してから30分ほどが経った。これほど多くの人がいるところを転生してから近くでみたことがなかったので、ついきょろきょろとしていた。
しかし、みているだけというのも飽きてきたので
「父上、僕も踊りに行って良いでしょうか?」
踊ることにした。この場で「戻りたい」と馬鹿正直に告げても意味はないだろうと思ったので、この場でできることをするのだ。
「む、今日ぐらいはかまわんか。わかった、シャルを連れていくんだぞ」
「はい」
眉を寄せ少し考えたようだが、許可をくれた。「シャルを連れていけ」というのは、シャルも踊りたそうにみているからだろう。
「シャル、行くか?」
「はい、お兄様!」
顔を喜色満面に染めて俺が伸ばした手を取った。
会場の中央でダンスパーティーをやっているので、壇上からおりてそちらに向かった。
なんだか視線が俺たちに集まってる気がするが気のせいだろう。
中央辺りの踊る場所に着いたので、シャルの手を取って何時も通り踊った。踊りの練習の時もシャルと踊っていたからそれほど新鮮味がないな。そんなことを考えながら踊っていると一曲終わったようだ。
「おつかれシャル。十分踊れるようになったじゃないか」
「はい、練習につきあってくれたお兄様のおかげです」
こちらが褒めるとシャルがお世辞を返してくる。頑張ったのは自分なのだから、俺のおかげ、などということはないだろうに、まったくシャルは気をつかうやつだな。
そうして話しながら中央から離れて料理の置いてある場所に行き、美味しい料理に舌鼓を打っていると
「あの・・・」
後方から不意に、声変わりのしていない幼い声がかけられた。
俺は話しかけられたことに驚きながら、振り返った。
「ん?」
おっとりとした感じながら真面目そうな女の子だ。
髪は、灰色の金髪という色をしている。
瞳は、髪の色と同じだ。
しかし一人でいたわけではないようで、その女の子の後ろには2人の女の子と1人の男の子がいた。
「私、セレナ・アニエスです」
彼女は四大公爵家の一つアニエス家の子らしい。
この舞踏会には今13歳以下の者は俺とシャルを除けば、四大公爵家の者しかありえない。考えてみれば予想できることだろう。勿論俺はわかっていたから、自己紹介されたとしても驚くことはない。
「あたしは、メアリー・ドラクール!」
深い緑色の瞳。
腰まで流れる長い髪の色は、桜のように綺麗な桃色をしている。
背はシャルと同じぐらいで、勝ち気で元気な印象を見る者に与える。
「・・・私は、アリシア・ブレヴァル」
肩に触れるくらいの青色の髪に黄金色の瞳。
背はシャルと同じぐらい。どこか人形のように整った顔立ちで、陶器のようになめらかな白い肌の女の子だ。
「俺はアルマ・マクレガーだ!王子様だろうけど、同じ歳だしタメ口でもいいよな?」
身長は俺とたいして変わらず、色の淡い金髪を短く切りそろえ髪と同じ眼をしているやる気に満ち溢れて活発そうな男の子。
全員同じ歳だそうだ。偶然って凄いな。
「俺は、イブリスロード・ローゼリンデ。第一王子」
「わたしは、シャルロット・ローゼリンデです。第一王女になります」
彼らの自己紹介が終わったようなのでこちらもした。
向こうもこちらのことを知っていたらしく、たいして驚きもしなかった。お互い様だってことかな。
「なあ、王子様よ。タメ口でもいいか?あとよ名前で呼んでも」
アルマが笑顔を浮かべながら聞いてくる。
「別に俺は構わない」
「わたしもです」
公爵家だし、王子王女本人が認めたってことになれば問題はないだろう。
「よかった!俺は一度お前と話してみたかったんだよイブリス!」
「ん?」
「いやな、お前らって貴族達の間じゃ『天才兄妹』って噂なんだぜ?それでよ、兄の方は弱冠4歳にして魔術の属性全てに適正があって、上級まで使えるほどの実力だから《千の魔術》って呼ばれてんだぜ?」
本人の知らない間にそんな二つ名みたいなのがつけられていたのか・・・。
「妹のほうは、なんでも見目麗しく傷とかを治癒してくれる存在だから《聖女》、だったかな?」
シャル、お前もか・・・。シャルは水と、光の属性に適正があり中でも治癒系魔術に類稀な才能を持っていた。その代わりか、攻撃系魔術はほとんど使えないということになっていたが・・・。
「でも、今の俺は魔術が使えないぞ?」
「その噂は本当だったのですね」
「ということは、『元』天才なのね!」
「いんや、イブリスは剣術の方も凄いらしいぜ!親父が言ってやがったからな。なんでも、変幻自在な剣術?いや刀術だったか?をしてて『千変万化』とも呼ばれてるらしいぜ」
アルマの父は騎士団副団長を勤めている。
俺はサクヤさんとは話すが、他の人とは話さないから副団長のことをあまり知らないがサクヤさん曰く「私よりは劣るが中々強い奴」とのことだ。
副団長なだけはあるってことだな。
(俺、二つ名もらいすぎだろ・・・。そんな目立つようなことしたか?というか、『千変万化』あんまりかっこよくねえ・・・)
イブリスは本当に自分が凄いことをしていたとは思っていないのだ。
―――ただできることをしただけ。それだけなのだ。
こうしてイブリスは、初めての『友達』といえるような存在と出会った―――。
会話口調と容姿説明?難しい・・・




