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浩の完璧なるデート計画

「いいか?何しに鈴鹿に来てるか、それを忘れるなよ、浩」

 真夏の太陽はすでに真上近くまで上がって、ピットロードを照りつけている。その太陽より暑苦しい先輩ライダーの説教にうんざりしてくる。だけどここは高校生ライダーの俺としては忍耐あるのみ。バイク共々トランポに載せてきてもらったのだから。

「まあ、レースが出来るのもスポンサー様のお陰だし、スポンサーはファンあってのものだ。ファンサービスも大切だからな」


 俺クラスのスポンサーなんてバイク関係の会社ばっかりだから、一般人は関係ないだろ!って突っ込みたかったが、やぶ蛇なので大人しく聞いてるフリをする。ついでに言っとくが、スポンサーと言っても現物支給のみで、契約金なんかあろうはずがない。まあ現物支給だけでも非常にありがたいことで、感謝に堪えないのだが。


 俺は高校生ながら国際A級ライダー。全日本を走るチーム期待の星。

 本日は、平日ながら夏休み中なので、有給とった社会人の先輩と鈴鹿で練習走行に来ている。


 午前9時からの走行を終えたところで、只今午前10時ちょうど。午後の走行は4時からで、バイクの整備や準備の時間を差し引いても、約4時間の待ち時間がある。そして鈴鹿には、遊園地まである。この機会を有効に利用すべき、彼女の愛美とのデートを計画したのだ。


 彼女と言っても、実は今回が初デート。だが俺の計画は完璧だ。レース一色の青春に爽風をもたらすはず、だった。


 愛美はモータースポーツの写真を中心に撮ってるカメラ女子高生で、俺と同じ高校三年生。鈴鹿のレースでは必ず見かける熱心な俺のファンだ。まあファンまでは言い過ぎかも知れんが、同い年の高校生同士、自然と親しくなった。

 レースの時は俺も忙しくて、なかなかゆっくり話す時間もないが、今日の走行枠を知ってすぐこの計画持ち掛けた。

 彼女にとっても、レースとは違う練習風景が撮れるし、レース開催中は一般人の入れないポジションからも撮れたりする訳で、断る理由がない。ついでに、遊園地で俺とデートまで出来るとあっては、断れるはずもない。すでにデートをコントロールしてるも同然だ。


「まあ、お前もヤリたい盛りの高校生。デートのひとつもしたいだろ。おやっさんには、黙っていてやるから、楽しんでこい。但し午後の走行には遅れるなよ」

 おやっさんとは、バイク店の社長で、チーム監督の川口さんのことだ。この先輩より口うるさい。俺は先輩に感謝して、大急ぎで自分の工具をまとめた。


「それからな、浩」

 まだなんかあるんかい?

「オレからのアドバイスだ。警察沙汰だけは、起こすなよ。おまえはうちのチームを代表するライダーなんだからな」

「起こすか!そんな事」


 さすがにキレた。アンタじゃないんだ。純粋な少年に向かって、なんてアドバイスだ、オッサン!


 そんなこんなで、俺はパドック内のレストラン前の待ち合わせ場所に向かった。彼女も俺が走行している時には、すでにどこかで撮影してたはずだ。


 だが、約束の場所に近づいて、最初の計画の誤算に気づいた。


 愛美は、彼女の後輩二人と一緒に来ていた。迂闊だった。そういえばレースの時もよく一緒に来ていた。確か、亜理沙ちゃんと絵理ちゃんだっけ?三人とも、それユニフォーム?って訊きたくなるほど、お揃いの白いTシャツに、ジーンズのショートパンツ姿。広い鍔つきの帽子まで揃っている。完全三対一。圧倒的不利だ。なにが不利かって?俺にもわからん。

 落ち着け、ひろし。ここは動揺を見せてはならない。スタート前の心理戦は常套手段だ。


「来てくれて、ありがとう。レースと違って、係員ものんびりしてるから、割りと自由に撮れたんじゃない?」

 鈴鹿は俺の庭みたいなものだ。観客としては熱心に通っている愛美でも、やってる側には敵わないと尊敬するだろう。

「来てよかった。S字のゲート開いてて、フェンスの内側からも撮れたよ。レースの時も、入れるといいのに」

 よし!俺のペースにのってきた。

「それはたぶん、閉め忘れただけだと思うから、見つかると叱られるかも?午後は入らない方がいいかも知れないよ」

「どうして?閉め忘れたんなら、向こうが悪いんじゃない?お願いされるならわかるけど、叱られるのは納得いかないわ」

 なんだ?けっこう張り合ってくるぞ。彼女もかなりリキ入っているな。だが甘いぜ。女子校育ちで、あまり男とデートなんかしたことがないとみた!ここは余裕を見せて、格の違いを見せつけよう。

「そうだね。僕の言い方が悪かった。でもサーキットの規則はみんなの安全の為にあるんだ。観てる方も守ってくれないと、走ってる僕たちも安心して走れない」

 我ながら、爽やかだ。

「わかった。気をつける」

 意外と素直じゃん。やっぱり緊張してたな?かわいいやつめ。


「それじゃあ、遊園地の方へ行こうか。案内してあげるよ」

「先輩、ジェットコースター乗りましょ!」

 亜理沙ちゃんは、絶叫系が好きか?よし、俺様の度胸を見せてやろう。

「ジェットコースターなら」

「やっぱり、暑いからアイス食べましょ!ありさ、くたびれちゃった」

 おい、無視かよ?いきなりくたびれたって、なんだよ、それ。


「先輩、早く、早くー」

 亜理沙ちゃんは、愛美の手を引っ張って、さっさと先に行ってしまった。完全に俺のこと嫌っているぞ、あの子。


 おとなしめの絵理ちゃんも俺をちらりと見て、後ろからついていく。あれ?今、俺の顔、写真撮った?


 ペースは、完全に亜理沙ちゃんにコントロールされた。アイスはやっぱりあとで、てなって遊園地のフリーパスを買う。そしてジェットコースターには、愛美と亜理沙ちゃんが二人並んで乗り込む。俺は完全無視。予想はしていたが……。


 一応、絵理ちゃんに、

「一緒に乗ろうか?」

 と誘ってみたが、

「別にいい」

 と冷たいお言葉。仕方なく、二人架けシートにひとりで座る嵌めに……。


 ほかのとこでも同じ調子で、さすがに観覧車は辞退した。野郎ひとりで観覧車は、あまりに悲しすぎる。俺の作戦は脆くも崩れ去り、レースに例えるなら最下位独走状態。周回遅れも時間の問題か。


 観覧車の前の売店で、ソフトクリームを二つ買って、絵理ちゃんに一つ渡した。


「別に睡眠薬など入れてないから、食べてくれ」


「……」


 もう慣れました。この子、目鼻立ちもバランスよく整っていて、割と美人なのにどうしてこんなに暗いんだろう。あの二人の半分でも元気があれば、ポイント高いのに。あっ、二人の半分って事は一人分って事か?ちょっと多すぎるな。


 二人で店の前に置かれたテーブルに陣取って、観覧車が一周してくるのを待っていた。

 おお、絵理ちゃんがソフトクリームを美味しそうに食べてくれている。奢った甲斐があった。


「私、免許取って初めての長距離ツーリングだから、心配だったの。でもアキラくんがいてくれて安心。ありがとう」

 隣のテーブルからカップルの会話が聞こえてくる。ツーリングデートか?若いもんはいいのう。青春していて。

「それに尾崎浩が走っているのも生で見れたし」

 俺の話題してるぞ。絵理ちゃんも気づいたみたいだ。

「カッコよかったなぁ、尾崎浩」

 言ってくれ、言ってくれ!もっと大きな声で言ってくれ!観覧車の上の二人にも聞こえるほどに。

「あいつは、昔、茶臼山走っていたんだ。その頃はオレの方が速かったけどね」

 はい?あなた誰?もしかして黄色いGSX-R乗ってた人?

「えー、うそ~、ほんとに?凄いんだアキラくん。ミカますます惚れちゃう」

「まあ、オレのハリス・ドカじゃあ、鈴鹿は厳しいけど、峠じゃ負けないよ」

 なんだ?ハリス・ドカって?知らないぞ。誰か教えてくれ。俺が峠で勝てなかったのは、黄色いGSX-Rだけのはずなんだが。


 アキラってやつの顔を拝もうと振り返ると、女の子と目があった。

「あっ、浩くん?」

 如何にも。私が尾崎浩です。えっへん!

「え~ぇ、うっそーぅ!尾崎浩って、浩くんだったの?」

 はへぇ?お知り合いで?

「私よ、ワ・タ・シ!ほら同じ中学の二つ上の、斉藤美香。お兄さんと同級生だった斉藤美香よ。忘れちゃったの?」


 そういえば昔、お医者さんごっこしたような……。あれ?絵理ちゃんが急に体くっつけてきたぞ。さては、愛美の奴に躾られていやがるな。こんなだったら、最初から愛想よくしてくれたらいいのに。


「浩くん、昔から可愛かったからね。あれ?その子は?もしかして彼女?」

 いや、彼女ではなくて……、妹というか、妹みたいなものでして、

「浩くんに妹いたっけ?あっ!ごめんなさい。立ち入った事訊いちゃたみたいね。大丈夫、忘れるから」

 美香さんが都合よく勘違いしてくれて、あらぬ疑いは免れた。なんか俺の親父がどうの、愛人とか腹違いとかブツブツ言ってるが。


「なぁ、ミカ。もう行こうぜ。あまり時間ないし」

 アキラくんが呼んでますよ。

「気にしないで、浩くん。ちょっと、うるさいなぁ、行きたけゃ勝手に行けばいいでしょ!」


 なんか雰囲気ヤバくないですか?

「心配しないで、別に彼氏ってわけじゃないから」

 美香さんは俺に満身の笑顔で。

 くるりと向きを返して、アキラくんには鬼の形相で、

「さっさとどっか行ってよ。浩くん、勘違いしてるじゃない」

 再びこっちを向いて、

「もう走らないの?私、感動しちゃった。また観たいな、浩くんの華麗な走り」

 ええと、午後は4時からまた走りますけど……なんかアキラくん困ってるみたいなんですけど?


「ミカ、4時から走るの観てたら帰り道暗くなるぞ。おまえ大丈夫かよ、運転?」

「怖いなら、一人で勝手に帰れば?別に一緒に来た訳じゃないし」

「一緒に来ただろ?オレたち」

「たまたま、一緒になっただけでしょ?帰りは別々。じゃあ、また何処かでお会いできたら」

「勝手にしろよ。オレは知らねーからな」


 アキラくん、なんか怒って一人立ち去って行きました。


 絵理ちゃんは俺の腕を掴んで睨んでます。俺は悪くないぞ。見てたろ?


 美香さんは、勝手に絵理ちゃんの反対側にイスを持ってきて、俺に体をすり寄せてきます。あっ、絵理ちゃん、また写真撮ったでしょ?


 というか、この状況、愛美たちの乗った観覧車が戻ってくるまでになんとかしないとヤバい事態になるぞ。リタイア間違いなしだ。


 必死で作戦をたて直そうと脳をフル回転させるが、何も浮かばない。愛美たちの乗った観覧車は、もうすぐそこだ。

 絶対絶命のピンチ……!


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