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愛美、初めての……

 どうして私は気づいてあげなかったんだろう。

 そうじゃない、ずっと知っていた。亜理沙が私に憧れ以上の思いを持っているのは、最初から知っていた。気づかないふりをしていただけ。



 私は昔から男の人より女の子から人気があった。それは自覚してる。女子校に入ってからも、何人もの女の子から告白された。でも、それは女の子なら誰でも一度はかかる麻疹みたいなもの。私にも身に覚えがある。


 四月には、私の所属する写真部と空手部には新入部員が20人以上入った。でもどちらの部も、結局残ったのは亜理沙と絵理だけ。私に憧れて写真部や空手部に入部しても、大抵は少し厳しくするとすぐ辞めていった。だけど亜理沙は違った。どんなに厳しくしても、私についてきた。


 絵理はわかる。あの子は写真が好きだ。才能もある。でも亜理沙は違う。他の子と同じように、むしろそれ以上に厳しくしたのに、私のことが好きだから、私といたいだけで、子犬のようについて来た。二人とも勝手に空手部の部員にもした。他の子が一週間で逃げ出した稽古に、嫌々でも参加し続けてくれた。すべて私のわがままなのに。


 あの子の気持ちを知っていたのに、浩とつき合い始めた。知らないふりするしかなかった。私だって亜理沙が好き。ちょっとどんくさいけど、いつも一生懸命で、私を慕う後輩として、とても大切に思う。

 でも私には、あの子の気持ちに応えてあげることは出来ない。だから気づかないふりするしかなかった。


 すごく馬鹿なことしでかして、たくさんの人に迷惑かけたけど、あの子は本当に私を慕ってくれてた。喩え一時的な勘違いだとしても、一途に愛してくれたのは真実以外なにものでもない。

 亜理沙をこれ以上傷つけたくない。せめて、私が卒業するまでは、とことんつき合ってあげるのが私の責任なんだろう。


 きっといつか、あの子も大人になる……。



 私は今日、浩と一緒に亜理沙のお見舞いに来た。亜理沙は、浩にお詫びとお礼を言わなくちゃいけないから。でも、浩と一緒に行動するのもこれが最後。

 サーキットには、これからも足を運ぶつもりでいる。浩の写真も撮る。話す機会もあるかもしれない。でも個人的なつきあいは、少なくても高校を卒業するまではしない。

 浩は全日本トップのライダー。きっとまだまだ上へと上って行く。私が卒業する頃には手の届かないところに行っているかも知れない。ああ見えて、女の子には優しい。アホだけど退屈しない。きっと新しい彼女もすぐにできる。私のことなんかわすれちゃうかな……。それも仕方ない。私のせいで、いっぱい迷惑かけたもんね。

 でも私はこれからも浩を応援する。ずっと浩を撮り続けていたい。



 浩には待合室で待ってもらい、私だけ亜理沙の病室に入った。事故以来、何度も来ているけど、毎回、謝まってくれる。


「私にはもういいから。今日ね、浩も来てるんだけど、彼にもちゃんと謝れる?」


「ヒロゴ、ヒロシさんが…」


 亜理沙はヒロゴンと言いかけて、名前を言い直した。この子なりに何か感じているんだろう。

「お礼も言わなくてちゃダメよ。浩はあなたの命の恩人なんだから」

 なぜだか涙が溢れてくる。亜理沙に見られたくない。

「先輩……怒ってる?」

 寂しそうに尋ねてくる。明るくて可愛い後輩にこんな思いをさせるのも、全部私が曖昧だったせいだ。


「大丈夫、怒ってないよ。浩呼んで来るね。私はずっとそばにいてあげるから、ちゃんとお詫びとお礼を言んだよ」

 私は、涙を見られなくて、部屋を出ようとした。


「待ってください、先輩」

 入口の前で振り返ると、亜理沙は泣きそうな顔をしていた。私の心を見透かしているのかも知れない。この子は意外と人の心を読める。私なんかよりずっと。


「ちゃんと浩さんには謝ります。お礼も言います。だから一つだけ、お願いを訊いてください」


 私はその時、どうして亜理沙の願いをきいたのかわからない。よかったのか、間違いだったのかもわからない。正直、頭が真っ白になっていた。

 でも、なにをしたのかは、はっきりと憶えてる。私も亜理沙も、絶対に他の人に言うことはないけど、きっと永遠に忘れない。






 浩を連れて病室に戻った。彼は私たちの様子を不審そうに眺めながらも、亜理沙に明るく話しかけてくれた。


「先輩がいると恥ずかしいから、ちょっと外にいてください」

 亜理沙から言い出した。心配だったけど、私も居づらかったから、亜理沙と浩を二人にした。




 浩が病室から出てきた。

 涙が溢れないように、私は顔を上に向けて尋ねた。


「どうだった?」

「一応感謝してるみたいだったけど、愛美先輩は渡さないって言われた」


 やっぱり間違いだったかな?余計に思い込ませちゃったかも知れない。


「でもさぁ……」

「でもなに?」

「亜理沙ちゃんが退院するまでは、俺に貸しといてくれるって」

「貸すって?」

「先輩を」

「先輩って……私?」

「そう、愛美先輩を。なに、おまえ?泣いてんのか?」


 泣いてないわよっバカ!なに二人で勝手に貸し借りしてんのよ!私はあんたたちのものじゃないんだから……ね……


 溢れる涙は、もう隠せなくなった。


「泣くなって。いいだろ?それくらい。俺も夏休み終わったら、いきなり停学決まってるし、血ぃ抜かれたしで、それくらい権利あるはずだぞ。でもエッチはしないって約束は、はやまったな。もう少し交渉しても良かったはずだ。うん、それくらいの権利はある」


 亜理沙のやつ、退院したらボコボコにして病院送りにしてやる。私の一生に一度のファーストキッスを捧げたのに、勝手にこんな奴に貸すなんて!


亜理沙ちゃんは、のちに母校で生徒を教える立場になります。先生になっても危なっかしいけど、生徒からは他の大人に相談できない悩みとかを話せる先輩として、結構慕われているそうです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 淡くて切なくて、でも一生心にしまっておくような思い出。誰にもありますよ。 一途な想いも、ボタンの掛け違いで墓なく消えてしまします。
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