亜理沙の過ち
「なんだか、いい雰囲気になっちゃてるじゃないですかぁっ!」
ありさと絵理さんは、途中ヒロゴンのオートバイを見失いましたが、ありさが愛美先輩の匂いを辿ってようやく見つけました。ウソです。
本当は、高原道路がこの辺りの有名なデートスポットなので、山の方に向かったのならたぶん間違いないという絵理さんの予想が的中したのです。
ヒロゴンがいくらオートバイの運転が上手くても、ありさのパパのスクーターと絵理さんの運転からは逃れられません。
しかし、もう不純異性交際直前のショッキング場面でした。
「ああぁっ!!絵理さん!見ました?今のアウトです!間接キッスをしましたぁ!!愛美先輩のソフトクリームにヒロゴンが口をつけましたぁ!すぐ助けに行きましょう!」
「先輩が先に口つけた。だったらべつにいい」
「なに言ってるんですか!!不純異性交際の現行犯です!!退学になっちゃいます!」
「私も鈴鹿で、本当は……」
「えっ?絵理さん、鈴鹿でヒロゴンとソフトクリーム食べただけじゃなかったんですか?間接キッスまでしたんですか!不潔です!見損ないました!」
「……したかった」
「絵理さん!紛らわしい言い方やめてください!しゃべる時は、相手にちゃんと伝わるようにしゃべらないから、いつも誤解されるんです!って絵理さん、今のワザと誤解させようとしたでしょ?」
「……べつに」
まったくなに考えてるのか、相変わらずわからない人です。なんでも『べつに』で済ませるんだから。
それより、このままでは本当に先輩の唇が奪われてしまいそうです。それだけは、絶対に阻止しなければいけません。先輩のファーストキスはありさのものです。
ヒロゴンが動きだしました。先輩をバイクの後ろに乗せて、出発するようです。人気のないところへ、先輩を連れこむ気です。危険です!退学になっちゃいます。絵理さん、追跡再開です。
敵ながら、ヒロゴンの運転は大したものでした。パパのすぺしゃるスクーターと絵理さんの運転でも、なかなか追いつけません。ありさは焦りました。二人きりにしたら、ヒロゴンは愛美先輩になにするかわかりません。
「絵理さん!もっと速く!また見失ってしまいます」
ありさは、絵理さんの背中を後ろからぽかぽか叩きました。
「このスクーター、すごく速い。危ない」
「そんなこと、わかってます!先輩が行ってしまいます!はやくっ!」
ありさは絵理さんの肩を強く押していました。
「ダメ!亜理沙さんっ、危ないっ!」
「きゃっ」
「亜理沙!しっかりして!」
あれ?せんぱい……どうしているんですかぁ?
「早く救急車呼んで!」
「電話なんかここらにないぞ!」
なんだか騒がしいですね。どうしたんですか?
「亜理沙、頑張って!」
「とにかく血を止めないと!なにか縛るものないか」
声が遠くに聞こえます。暗くなってきました。
ねむいなぁ、せんぱ~い、ねむくなっちゃいましたぁ……
「亜理沙!だめよ!頑張って!しっかりして!」
夢、みていました。へんな夢。大きな背中におんぶされて、ジェットコースターに乗っていました。パパかなぁ?でも、なんかちがう。
蛍光灯がぼんやり見えました。気がついたのは、病院のベッドの上でした。手と足を包帯でぐるぐるにされて動けません。
ありさは、絵理さんとスクーターで転んで、大怪我したそうです。ヒロゴンがありさを背中に縛りつけて、病院まで運んでくれたそうです。血がいっぱい出てもう少し遅かったら、危なかったらしいです。
ヒロゴンがありさと同じ血液型だったので、ありさに分けてくれたそうです。
絵理さんは幸い、すり傷だけだったそうです。
パパに凄く怒られました。あんなに怒ったパパは初めてです。先輩もパパに怒られたそうです。ヒロゴンも助けてくれたのに怒られました。ヒロゴンの学校にもバレてしまいました。
愛美先輩は、ありさが先輩のことが好きで、勝手についてきたことは内緒にしてくれました。はじめから一緒にいたことにしてくれました。
ありさはパパに白状しました。でも先輩が好きなことは秘密です。パパは最初から知っていたのかも知れません。パパは先輩のことをよく知っています。レースをしているヒロゴンのことも知っていたみたいでした。
絵理さんはありさに謝ってくれました。ありさも絵理さんに、もっとたくさん謝りました。ありさが悪いのは、ありさが一番よくわかっています。絵理さんには本当に申し訳なかったです。
先生にも怒られました。三人とも罰を受けるそうです。退院しても夏休みはもう遊びに行けません。すごく反省してます。
もっと重い処罰を覚悟してたのに、みんな思ったより軽い罰だったのが少し不思議でした。
どんな処罰を受けても仕方ないし、どんなに感謝してもしきれません。いつかありさは、愛美先輩とヒロゴンに恩返しをしなくてはいけません。