追跡者、亜理沙と絵理
「もう、なにやってるんですか、絵理さん!」
カメラ屋さんでの愛美先輩足留め工作が限界になったようなので、喫茶店に先回りしてみれば、絶好の修羅場!あんなに上手くいってるとは思いませんでした。あそこに愛美先輩が戻れば、ヒロゴンは完璧アウト!即死だったはずでした。
「絵理さんの裏切り者ぉ」
「ごめんなさい。でもやっぱり間違ってる」
絵理さん!愛美先輩がヒロゴンとくっついちゃっても、いいんですかぁ?
「二人が、幸せなら」
はあ?しあわせなわけないじゃないですか!愛美先輩は騙されているんですよ。
絵理さん、なんでそんなにヒロゴンの味方するんですかぁ?
やっぱり本当はヒロゴンが好きなんでしょう?ありさは知ってますよ。
「……べつに」
やっぱりヒロゴンが好きなんだぁ。でも大丈夫ですよ。愛美先輩には言ったりなんかしませんから。ありさのお口は堅いんです。二人だけの秘密です。
でもヒロゴンが先輩と仲良くなったら悲しいですよね。
「……べつに」
うふふ、じゃあ、こうしましょう。愛美先輩が好きだったら、ありさと一緒にヒロゴンと戦ってください。
もし、ヒロゴンが好きだったら、愛美先輩に近づけさせないように、ありさと協力しましょう。
「両方好き」
それなら、ありさと協力してヒロゴンと戦って、先輩に近づけないようにしましょう!
「……なんかおかしい」
もぉぉ、わからない人ですねぇ。ヒロゴンが先輩にえっちなことしてもいいんですかぁ?
「しない」
本当にしないと思いますぅ?
「……」
どうなんですかぁ?大好きなヒロゴンが大好きな愛美先輩に、えっちぃことしちゃうんですよぉ?
「少し悲しい。でも二人が幸せなら」
だからぁ、しあわせになんかなりません。
「どうして?」
どうしてもですぅ。ありさが妨害しますぅ!
「なら亜理沙ちゃんが敵」
ちがう、ちがう!敵じゃないです。困った人ですねぇ。
だったら絵理さんとヒロゴンが上手くいくように頑張りましょう。ありさも応援しますから。白百合の騎士は恋する乙女の味方です。それなら絵理さんもヒロゴンも幸せでしょ?
「愛美先輩が悲しむ」
先輩にはありさがついているから大丈夫。安心してください。
「私も一緒にいる」
もぉぉ!どうしてわがままなんですか、絵理さん!
そうだ!ほら、生徒手帳に書いてあるでしょっ、『不純異性交際は禁止』って。もしデートしてるとこ見つかったら、愛美先輩は退学になっちゃうかも?絵理さんはそれでもいいんですか?
「よくない」
でしょう?ヒロゴンの学校でも校則違反は……、きっと男子校なら恐ろしい罰を受けるはずです。恐怖の拷問もされます。それでもいいんですか?
「ダメ」
だったら、余計なこと考えないで、とにかく、デートを妨害しないと!わかりましたね。
「校則違反はよくない。でも退学も拷問もない」
絵理さんは本当にわからず屋です。なかなかありさの言うことをわかってくれません。
でも、粘り強く説明して、間違ってえっちなことされれば、間違って大変なことになって、退学もあるかも知れないということは、わかってくれました。
結局、デートのお邪魔は協力しないけど、もし間違いをしそうになったら、協力して先輩を救う約束をしてくれました。
愛美先輩とヒロゴンが喫茶店を出て来ました。こちらも行動開始です。
やはりオートバイに乗せるようです。ありさの予想通りです。想定内です、心配いりません。対策は講じてあります。
ありさは見抜いていました。ヒロゴンの取り柄はオートバイだけです。ありさはこのときのために、パパの『すぺしゃるスクーター』を用意してあるのです。パパは留守だったので、こっそり借りてきました。
相手は暴走族の全日本代表。でもこちらも負けないです。パパの『すぺしゃるスクーター』のエンジンは、難しいからよくわかりませんけど超すごいんです。パパが作ったオートバイは、レースでもいっぱい優勝してます。だからこのスクーターも、世界一速いスクーターなんです。
ヒロゴンがA級ライダーかなんだか知りませんけど、逃がしません。
運転手は絵理さんです。バスも来ないような田舎に住んでる絵理さんは、家から駅まで毎日スクーターで通ってるオートバイのベテランです。ヒロゴンでも逃げることはできません。
さあ、絵理さん!追跡開始です!
「でも50ccの二人乗りはダメ」
愛美先輩を守るべき、果敢にありさはヘルメットを被り、後ろに乗ろうとしたら、絵理さんがまた水をさします。
もおぅ、こんなときになに言ってるんですか!
早くしないと見失ってしまいます。
「でも、交通ルールは守らないと」
今は非常事態なんです!!それにこれは、おっきいエンジンに改造してあるから50ccじゃありません。早く!
「わたしの免許は50ccまで」
大丈夫ですっ!登録は50ccだから問題ありません!早く!
「やっぱり交通違反?」
もおっ、緊急事態なので仕方ないんです!愛美先輩が退学になって、ヒロゴンが拷問されるのを防がなければならないんです!
さあ早く、発進してください!
わからず屋の絵理さんをなんとか誤魔化して、じゃなくて説得して発進しました。愛美先輩とヒロゴンは、二つ先の信号で止まってました。
大丈夫です、見失わないように追跡開始です!