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そして夜明け  作者: K+
第8章 そして夜明け
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後譚

 夕闇に暗く沈む晩冬の森の中を、二十代後半だろう男は勝手知った風情で歩いていた。

 ほどなく、木々の合間に一軒家が見えた。窓から明かりが漏れているのを見留めると、男は足を速める。

 木造りの扉にごんと拳を当てると、すぐに小さく屋内から足音が近づく。閂を外す音がする。

 扉が開いて、開けた若い女が顔をほころばせた。

 おかえり、と嬉しそうな笑みに男は菫色の目を細める。

「遅くなって悪かった。具合は――今は大丈夫そうだな」

 うん、と女は鳶色の瞳に幸せそうな光を宿して、ほんの微かに膨らみ始めた腹に手を添えた。

「一人の時に困ったら、医術師(ハイ・エスト)の所に行くから。大丈夫」

 変に我慢するなよ、と男は手を洗いながら忠告する。うん、と女はまた柔らかく応じ、角灯に照らされた食卓に夕餉の皿を並べ始めた。

「わたしのことよりも――薬を届けに行っただけなのに、ちょっと遅いから心配したよ。(みやこ)で何かあったの?」

「あー、悪ぃ。広場で久しぶりに、ルウきっての恐妻家を見かけて」

 湯気の上る(スプ)の器を代わりに運びながら、男は可笑しそうに話した。「あいつ、そろそろメイフェスで暮らせばいいのに。サージ公のくせに、広場で式典準備の監督なんかしてたぞ」

「何の式典?」

「何だっけな……今年はこの国で選挙が始まって四百年目とか言ってたな」

 へぇー、と感心したように女は相槌を打ってから、そういえば、と椅子に腰を下ろしつつ言った。

「この前の嵐で、広場のスーの木が酷く折れたって聞いたけど……」

 それそれ、と男も向かいに座る。

「あいつ、木の命帯(めいたい)って診れないかな、とか簡単に言いやがった。人間相手もまだ見習いだってのに、俺に訊くな。医術師に訊けってんだ」

 女は笑声をこぼす。

 男は取り箸で漬物を自分の椀に入れてから、続けた。

「つーか、まぁ、命帯は無理だったんだが、若芽が出て来てんのを見つけてさ。ちゃんと生きてたみたいだな」

「わぁ、良かったねぇ」

「駄目そうなら皇領から株分けするかって話も出てたらしいが……」

「あぁ、皇領って大概、スーの木が広場に植えてあるみたいね」

「リィリの広場のが一番古いんだと。樹齢が四百年くらいいってるそうだ。選挙開始の記念で植えたのかもな」

 木匙を手にして、女が思い出すように言った。

「わたし、スーの花、好きよ。白くて可憐な感じ」

「春頃に咲くな。今度、見に行くか」

 約束約束、と女がはしゃぐ。ちゃんと連れてくから落ち着け、と男は呆れ顔になった。



 こんな日々が、繰り返されていく。


 そして又、夜は明け、命は巡る。

 これにて本編終了です。

 最後まで読んで下さった貴方の明日が、いい日でありますように。


 以降の外伝は一話完結型です。

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