細海先輩と御森くんのお昼休憩
「あれ、今日は食堂なんですか」
時刻が昼の12時を指し、居室からゾロゾロと皆が出ていく中「今日は人が作ったご飯が食べたくて」と
珍しく細海先輩が財布を手に席を立つ。
「ん?? すみません、電話大丈夫なんですか?」
俺がこんな事を聞いたのは、細海先輩から
「ランチ中に業務の電話が鳴るかもって思うと、落ち着いてご飯が食べられない性格なんです」
と、自席でお弁当を食べる理由を聞いていたからだ。
「あーーー……ところで御森くん、ここに来てそろそろ1か月くらいでしたよね?」
含みのある言い方で確認され、「はい」と答える。
「この1か月の間に、ランチタイムの受電数って何件だと思いますか?」
「0件です!」
そう、0件だ。
そりゃそうだ。他の会社だってランチタイムだろうし。
「実は、1年通してもこの時間に電話が鳴るなんて、数件あるかないかなんです。私が居室でご飯を食べる理由は、別にありましてね?」
細海先輩は間を置いて、ゆっくりとこちらを見上げながら。
「食堂で空気を読むのが面倒くさいんです」
と言って歩き出した。
「へ?? まってまって、食堂で読む空気ってなんですか!?」
慌てて後をついて行く俺に、
「あるでしょ〜。食堂全体をまず見渡して『あ、あの辺に同じ居室の人がいるな。じゃあ少し離れたところに席探そ』とか、『お隣空いてますか?』って顔見知りに聞かれた時に、咄嗟に頭の中で“食事中の話題検索”するとか」
そう言いながら、食堂の入り口でトレーを手に取り、うどんの列に並ぶ。
「この会社の人達、みんな良い人だし大好きだし、なんなら友達って呼んでもいいのかな?って思える人もいるけど、でも、常に一緒にいるのが当たり前になるのは、ちょっと私に向いてない。それに、そんな私を友達だと思ってくれる人に気を使わせるのもイヤで……あ、きつねうどんください」
流れるようにきつねうどんを注文し、空いている席に移動すると、
「まぁ、そんな訳で。基本的に自席でお弁当食べてる方が楽なんですよ」
と手を合わせ、「いただきます」と箸を持つ。
「へぇ……俺は懐に入るのも、仲良くなるのも早い方がいいってタイプなんで分からないですけど、程よい距離感を大切にするのも、なんか分かります」
細海先輩につられて頼んだきつねうどんをすする。
ふわりと温かい出汁の味がして、ほっとした。
「……なんで御森くんは、私の向かいにいるんですか?」
「あ、『俺は懐に入るのも仲良くなるのも早い方がいいってタイプなんで』」
その言葉に細海先輩は「そっかぁ……」とうどんをもう一口すすると、
「でも、せっかく君は人好きするタイプなんだから、ランチタイムくらいは他のみんなとも交流してね」
いつもより柔らかく、人間みのある声に、わざと空気を読まず向かいの席を陣取って良かったと思いながら、「はい!」と大きな油揚げに齧り付く。
もう既に、持ち前のコミュ力で仲の良い先輩はたくさんいるけど、
自分の教育係の細海先輩とだって、少しでも仲良くなれたら嬉しいじゃん。
じゅわっと口の中に溶け出す旨みに、思わずほっぺがゆるんだ。




