細海先輩と御森くんの研修期間
「行ってきます」
誰もいない部屋にそう言いながら鍵を閉めるのも慣れてきた
最寄りの駅まで約10分
最寄りの駅から電車で15〜20分
トータル45分前後で出勤できる好立地にまだ内定も出てなかったけど飛びついたのは正解だった
就職活動を始めて見つけた第一希望の会社は入れ替わりがほぼないのか
求人が出ていたのが奇跡だったと思うけど、これが〝縁〟とか〝運〟というやつなのだろう
「(そして俺はきっと運が良い方なんだと思う)」
ありがたいことに健康優良児
元気にスクスク大きく育ったこの体は人によっては威圧感があるだろうけど、持ち前の愛嬌を認識してからは人から嫌われたという経験が殆どない
「(だからこそ、謙虚に、嫌味にならない笑顔で今日も一日頑張ろう)」
そんな笑顔第一主義の俺の教育係は、表情筋は普通に仕事をしてるのにどこか〝淡々〟という雰囲気の女の人だった
「細海先輩おはようございます、今日もよろしくお願いします」
そう言う俺に「おはようございます御森くん、今日もよろしくお願いします」と、オウム返の様な挨拶で今日も1日が始まる
「今更なんですけど、俺来るの遅いですか?」
研修期間が始まってしばらく経っているけど、細海先輩の方がいつも先に来て白湯を飲んでいる
「いや丁度良い時間の電車がなくて私が早く来すぎなんですよ、御森くんの出社時間は全然間違ってないからそのままで問題無いです」
淡々としてても、この先輩からは冷たさを感じないのは真面目に俺と向き合ってくれてるのが分かるからだろう、まぁ最近その真面目な部分が一周回ってるタイプだと分かった訳だけど…
「細海先輩……エグい寝癖ついてますよ」
と、コソッと伝えると
「この会社は髪型、服装、メイクが自由だからねぇ〜よって寝癖も合法と言う訳です」
と、静かにドヤ顔で言われた
確かにこの会社の規定では露出や高いヒール、度を超えたダメージジーンズなど有事に危険を伴う服装でなければ基本的にOKである、俺がこの会社が良いと思ったのもそんな社風からなんだけど
「髪型が自由だからと寝癖のまま出社する人が存在する事をはじめて知りました先輩」
半ば呆れ声でそう言う俺に「そう?」っとイタズラが成功した子供の様な顔で笑う
最初に紹介された時は正直〝男の先輩が良かった〟と内心思っていたけど、ここ数日でなんとなくこの人が俺の教育係に任命された理由が分かった気がした。
「ところで御森くん、早くパソコン起動させないと打刻間に合わなくなりますよ」
細海先輩の一言で「だ、ぁ、パスワードパスワード」と慌ててパソコンを起動させる
今日もなんやかんや良い一日になりそうだ




