過去の拝謁
更新遅くなりました!
お待たせしてしまってすみません…。
レリア達一行は、謁見室と呼ばれる部屋へと向かっていった。モリアスが一度戻ってきて大丈夫だと言い残し去って行った後、恐る恐るではあったが廊下を進んでいく。
シルドには会わなかったが、彼の力である黒い炎を宿した蝋燭がレリアのちらちら視界に入ってきていた。多分向こうからは見えているが、何もしてこないのをみると、モリアスの言った通り、とりあえずシルドも落ち着いたのだろう。
道中、レリアはあの怖い部屋に行くのかと、若干気分が重くなりかけていたが、ふと掃除した時にシルドに言われた事を思い出す。
「そういえば…前にここを掃除した時、あそこの部屋は、何人かの霊があの場所にいたいと、なかなか動いてくれないってシルドさんが言っていたような…。」
「その通りです。その霊こそ、反乱軍の者達です。」
ベイルが教えてくれたが、なぜフィリア王国に反乱軍が立ち上がったのか些かエルスは疑問に思っていた。確かにあの時は、ウォーレムス帝国との同盟が消え、他国からも攻め入られて情勢も安定しておらず、しかも圧政によって民も苦しんでいる状況だった。立ち上がる力も殆どなかっただろうと、彼らの勇気に申し訳なさが勝る。
(ほとんどの民は国から出た筈なのに…。)
滅びゆく国に残った彼らは、火の海に沈む故郷を間近で見た筈だと思い至り、どんな気持ちだったのだろうと胸が苦しくなった。
(私がもっと…しっかりしていれば…。)
でも過去は変える事は出来ない。だからこそ、やるせない後悔ばかりがつき纏う。
そんなレリアの気分を表すかのように、重たい扉が錆びついた音を立てながら開かれる。
前と同じように埃と黴臭さが残る部屋には、沢山の霊が列をなして出迎えてきた。どうやら彼らが謁見室に好んで住んでいる霊なのだろう。服装はバラバラだったが、騎士の服装ではなく、どちらかというと動きやすさを重視した、何処か馴染みのある装いに既視感を感じていた。
すると、リーダー格の人物なのか、背の高い髭を生やした男性の幽霊が前に音もなく出てくる。
「レムリア様、お久しぶりです。」
「おひ…お久しぶりです??」
疑問で返してしまったが「久しぶり」と伝えてきた彼らの顔を、1人もレリアは知らなかった。
知り合いなのかと、レリアは顔をよく見る。その様子を見て、彼らも彼女の異変に気付いたのか尋ねると、丁度反乱軍を結成した時ぐらいから、レリアの記憶がどうやら曖昧になっているというのが分かった。
「…フィリア王国反乱軍ではありますが、貴方に敵対していたわけではございません。むしろ、王制を打破するために貴方ご自身が秘密裏に作った軍です。」
「へ…??」
変な声が出てしまったが、自分の記憶にまったくない。うんうん唸っていると、ジゼルが色々と彼らの傍らで説明をしはじめた。
「…あの日の事を、思い出したいとの事ですが、それは本当ですか?」
「でしたら、我々が覚えている限りの事をお伝えします。」
貴方に是非協力したいと頭を下げられた。
「あ、頭を上げて下さい!」
レリアは慌ててそう言った。
本来なら、苦しむ彼らにもっと手を差し伸べたかったのにと、顔を歪ませる。
「私に…もっと力があれば…。」
全てを守れたのかなとレリアは呟く。
だがそれは傲慢な考え方なのだろう。そんな哀しげな表情で立ち並ぶ彼らを見ていると、反乱軍の数人が前に出てきた。
「レムリア様…いえ、今はレリア様とお呼びすべきでしょうか。」
「あの日まで、自分に力があればと誰もがそう思っていました。確かにあの王や貴族の所為で苦しむ者は多かったです。ですが、それはレリア様も同じ。」
「貴方だけの責任ではない。こうなったのは…あの国に住んでいた皆の責任なのです。」
立ち上がった事に後悔はないのだと、皆が頷きあっていた。彼らの言葉を受けて、レリアは彼らの顔をよく見る。苦楽を共にした皆を思い出せない辛さはあったが、今度こそは彼らを忘れない様にとしっかり記憶に留めた。レリアの固い表情が少し和らいだのを見て、リーダーが話をし始める。
「初代の国王と共に作った国を…貴方は新たにやり直そうと決めてこの軍を立ち上げました。革命の当日、フィリアの民として、我々は攻めてきたウォーレムス帝国に我々は一度捕まりました。」
「記憶を読まれて事情が分かると、冥炎の神が内部を知る私たちが城へと共に同行したのです。」
そして、あそこをと反乱軍の1人が指を指した方向を見ると、例の剣が突き刺さる椅子が目に入る。
「この玉座で、我々フィリアの民が、王国最後の王とその愛人を刺し殺しました。」
「彼らに相応しい最後をと、ここで処する予定でもなく、新体制の元で公開裁判を行う予定でしたが…。」
一度言葉を区切ると、つっかえるかのように幽霊の1人が苦し気に声を出す。
「貴方様が…あの…剣で殺されているのを、間近で見て…。」
「思わず…。」
「うぅうう…。」
(そう…そうだったの…。)
目頭を押さえて泣いている様子の、悲し気に訴える皆を落ち着かせながら、あの場面のあと、その様な事があったのかと驚く。
「私たちにとって、貴方は神というより、戦友であり、大切な仲間でもありました。」
目を疑う様な光景だったと、絶望してしてしまったと彼らは口々に言う。
「人間を殺した罪を贖った我々は、貴方が死んでおらず眠っている状況だというのを聞いて、ここに皆戻ってきました。」
「冥炎の神と共に貴方が心地よく過ごせる事を願って、この場所をずっと守ってきたのです。」
「あと、この剣を…。」
貴方の象徴だと言って、片方の椅子に突き刺さっていた剣が音もなくするりと浮き上がる。
やがて、錆の合間から独特な黄金の輝きを帯びて、自分の前までふわりと近づいてきた。
「ぁ…。」
モリアスに貰い、その子孫に刺し貫かれた白亜の剣。
現時点で自分に記憶を読む力は失われており、触れても記憶は戻らないだろうと、そっと手を差し出す。
恐る恐るレリアは触れると、表面はガサガサで錆びついていており綻びがあるものの、薄っすらと鳩の模様が見える。まだ残っていたのかと、思わず愛おし気に掌で剣を撫でた。
(懐かしい…。)
手に馴染む覚えのある感覚。
モリアスに、無益な不殺を誓った剣。
また再び自分の元に返ってきたという喜びを、少しばかり噛み締める。
その時の記憶が鮮明に蘇っていた時、そういえば…と反乱軍の1人が話しかけてきた。
「反乱軍で秘密裏に密会を重ねてた時なんですが…レリア様、ずっとその頃から…冥炎の主からのをずっと懐に大切に持っていましたよね。」
「冥炎…?あ、シルドの…?」
「えぇ。貰い主については言ってはおりませんでしたが、恐らくそうかと。」
そんな大変な時期に、贈り物を互いに…しかもギスギスした状態でするとは思えないが、何かあったっけと首を傾げていたが、ちょっと待てと考えていた思考が停止する。
(貰い主を私が言っていないのに…シルドが好きだって、みんな知ってた?)
(え、恥ずかし…!)
急に居た堪れない気持ちになったレリアは、1人で赤面していたが、急に黙ってどうしたのかと周りに心配の視線を浴びる事になる。レリアは仕方なく「話を続けて…」と熱の上がる頬を冷まそうと、手でぱたぱたと仰ぎながら促す他なかった。
「貴方は革命の前夜まで、肌身離さず持っていました。…なんでも、これは恋文だといって。」
「?こいぶみ??」
シグルードから、そんなものを貰った記憶はない。当時、彼に気持ちを寄せていた自分が、別の人からの恋文を、そんな大事に持っていたとは考えにくい。不思議そうにレリアは首を傾げていると、周りにいた霊が知っていると口々に言い始めた。
「ちらっと見えた時があったのですが、不思議な手紙でしたよ。」
「手紙の周りが金色に輝いていましたし、黒い靄のようなもので手紙が覆われたりと、明らかに異質でした。」
うんうんと、皆が頷き合いながら同じような事を言っていた。
という事は、あの日の直前まで、持ち歩いていたのは確かなのだろう。
(でも、一体…あ。)
突然、レリアの頭の中にひらめいた様に思い出す。
「もしかしたら…。」
「心当たりがおありですか?」
ジゼルが、何やら思い当たる節のあるレリアに尋ねる。
「うん、正確に言うと…手紙じゃない。」
ーーー「…戦争の宣言書よ。」
眉を潜めて難しそうな顔をしながら言ったレリアの言葉に、その場にいた一同が目を見開く。それはそうだ。シルドから受けた戦争の宣言書を「恋文」と称した過去の自分は、一体何を考えていたのだと頭を抱える。
金色に輝いていたのは、恐らく自分の力。そして黒い靄のようなものというのは、冥炎の黒炎…シグルードの力。本来ならそうそう力の片鱗は見えないのだが、人間にも祝福なく見える程、色濃く残っていた「手紙」となるとそれしかない。だが、貫かれた時には持ち合わせていなかったのか、そこにはなかったと霊が教えてくれた。
「自分が持つ宣言書を革命の時に持っていなかったのなら、何処かにしまってるはず。」
「じゃあ、そこに行くか。」
突然大扉の近くから知った声がし、レリアはくるりと後ろを振り向いた。
「!!モリアス!」
「おう。取りあえずシルドも落ち着いたから、俺も手伝うぞ。…心当たりはあるか?」
「うーーん…。思い出せないけど…仕舞っておくなら…自室かな?」
自分のものなら、とりあえずそこかなとレリアがそう呟くと、モリアスは静かに首を横に振る。
「いや、お前が大事にしたいものは、「当時」は部屋には置いておかなかった。」
「?」
「革命の時には、愛人の手下がお前が留守の間漁っている時があったからな。大方金目のもんでも物色していたんだろうが…だから警戒して持っていたか、あいつらが絶対探さない所に隠していた筈だ。」
モリアスの言葉に成程と頷く。
(絶対に探さない…。)
レリアは条件を模索しはじめた。
(私なら…)
大事なものは、本当なら手元になるべくおいて置きたかった筈…となると、恐らくこの城の何処か。
貴族があまり出入りしない場所、使わない場所。
だけど「宝物」を仕舞っておくのにいい場所。
自室以外で自分が行き来する所を記憶で辿っていく。
ふと、月光の光を浴びて青い花々が咲き誇る、自分のお気に入りの場所を思い出した。
( もしかして、 あの場所かな )
心の中で次にいく場所が決まった。
「その顔…隠し場所に、検討がついたんじゃないか?」
モリアスの予想通り、間違いないと仕舞ってある場所に検討がついたレリアは、暫くぶりに口元に笑みを綻ばせて頷いたのだった。
これからアリスの番外編も含め、更新していきます。




