再び
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外へとふわふわ出て行ったモリアスは、周りで狼狽えている使用人や、慌てて火消しに追われているレリアの元騎士団が眼下に見える中、直ぐに目当ての人物を見付ける事が出来た。
「おぉ…派手にやってるな。」
「…なんですか。」
モリアスは北棟の辺りを彷徨いながら、鋭い目つきでレリアがいると分かっている方へ視線を向けるシルドへ声を掛ける。彼女の自室に掛かる守護領域を無理矢理突破しようとしたのか、跳ね返った炎が城にぶつかって、何カ所か崩れていたり炎を噴き上げていた。普段は力を抑えて無機物への威力をなくしていた力は、今や最大限に黒い炎となって吹き荒んでいる。
「…どいて下さい。」
「いやだね。」
巨大な黒炎を手にしているシルドが、北棟めがけて投げようとしていたのを見て、その間にモリアスが割り込む。
「こんな事しても、レリアの心が離れていくだけだぞ。」
「…。」
恐らくバリアが壊されても、また張り直されれば破壊に時間が掛かる。今、自分がしている事はほとんど無意味だとシルドも分かり切ってはいたが、なんとしても早く彼女と話したい、会いたいと気持ちが焦って先走ってしまっていた。
「それとも、恐怖で彼女の心を縛り付けたいのか。…あいつと同じように。」
黒炎を放とうとした瞬間、モリアスの言ったその言葉に、シルドの身体が強張る。
苛立ちで我を忘れかけていたシルドは、彼の言葉で冷静さを取り戻し、全身から漏れていた黒い炎が、次第に勢いをなくして彼の内側へと戻っていった。
やがて小さな燻る炎がちらつくぐらいで、シルドも気持ちをなんとか持ち直す。
「…。」
無言でいつも通りの姿になったシルドだが、その姿に覇気はなく項垂れている様子だった。
余程レリアに逃げられたというのが堪えたらしいと、モリアスも察する。
シルドに近づくと、肩をぽんと叩きながら慰める。
「レリアにも色々時間が必要だ。あいつだって子どもじゃない。」
「焦らしてやるなよ。待つのは得意じゃなかったのか。」
(待つ…。)
戦争が終結して500年、彼女が「目覚める」という希望に縋りながらずっと待ち続けていた。
待つ事は慣れていたはずなのに、あの日々は苦痛でしかなく、彼女のか細い生の糸が切れないか心配な毎日を過ごす事になった。神樹を移植したものの、神格が治らず息が止まっていたら、彼女と共に隣で眠りにつこうとまで考えている始末。
本当は…レリアが目覚めた時に寂しくない様、「美の女神」から奪ったの権能を使って城下町も全て残しておくつもりだった…だが、楽しかった思い出の詰まる場所を見ているのが段々と苦しくなり、彼女の力が色濃く残るあの城だけを残して、他は全て海に沈めてしまい視界に入れない様にして島に閉じこもった。
その結果、シルドの力が島に宿り、今では「冥炎の島」として様変わりし、昔の面影は殆どなくなってしまったのだ。
「…。」
今「生きている」彼女を前にして再び待つ事を強いられるのは、シルドにとって辛い事だった。
だが、守るためとはいえ神名を使ってレリアを己に縛ろうとし、約束をと迫った己を思い出して、このままでは「彼ら」と同じになると気付かされて口を噤んだ。
「あいつの…レリアのために何百年と後悔しながらまってたんだろう。」
「…。」
暫く無言だったが、自分の行いを反省してモリアスにも「すみません。」と小さく謝る。
「…もう少しだけ、待ちましょう。」
モリアスの説得が効いたのか、シルドは目を伏せながら告げた。
説得に失敗して、これ以上力が暴発したらどうしたもんかと思っていた手前、冷静に戻った彼を見て、良かったとモリアスも胸を撫で下ろす。考えるより行動するのは、図らずもレリアと一緒であった。
「大丈夫。レリアは途中で投げ出したりしない。今もジゼル達と一緒に色々考えているだろうからな。」
自信有り気にモリアスは答えつつ、一緒に待ってやると言いながらシルドの隣で浮いていた。
亡くなってからもずっと、シルドとレリア、2人が幸せなのを見届けたいと思っていたモリアスは、彼らの友として何百年と同じように待っていた。少しだけ楽しみが伸びただけだと、シルドを励まして吉報を待ちわびる事にし、もうすぐ訪れるであろう別れの予感に思いを馳せているのだった。
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ーーー一方、元フィリア王国のレリアの自室では…
外の音が止んで警戒を解いた彼女は、ジゼルとこれからどうするかを話していた。
「レリア様、あの日の事を思い出したいとの事ですが、本当によろしいのですか?」
幽体でレリアの傍に寄り添いながら、ジゼルが確認する。
やはり彼女の最後を人伝に聞いたとはいえ、哀しい出来事であったのは鮮明にジゼルも覚えていた。
「正直に言えば怖いけど。」
(だって自分が死んだ時だし。)
誰でもかは分からないが、己が死んだ時の事なんて本当はあまり思い出したくはない。
だが、レリアはそれ以上に、分からない、知らないままは嫌なのだと答える。
気持ちの整理をつけるためにも、「自分の死」の理由を知りたいのだという決意に揺らぎはなかった。
「…分かりました。協力いたします。」
レリアの真剣な表情を見て、ジゼルも
「彼らも協力したいと言っているようですよ。」
「あっ…!!みんな!」
部屋に張っていたバリアの外側から、此方を覗き込むように張り付くムキムキマッチョ幽霊…もとい元フィリア王国の騎士達が「おーい!」と言わんばかりに手を振ったり、何やら口で伝えようとしていた。
レリアは一部を解除し、彼らを中へと招き入れた。
「久しぶり!」
「レリア様!ご帰還お喜び申し上げます!」
全員が敬礼の姿勢を取る。共に訓練を重ねて戦ってきた懐かしい彼らの姿に、レリアも敬礼をした。
「記憶が戻られたのですか!」
「お元気そうで!」
「いつ戻ってきたんですか?!」
エリックやカイン…記憶がない時も護衛をしてくれていた彼らから、色々矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「全部ではないけれど…その、皆は…。」
当時最後まで国に仕え、国民の護衛の為にこの地を泣く泣く去っていった彼らの若かりし姿を見て、あの戦争で命を落としたのかと尋ねた。
「ご心配なく、レリア様。」
「皆、あの国から脱出して大往生ですから。」
にかりと歯を見せながら、フィリア王国最後の隊長が笑ってみせた。
騎士らは亡くなった後、シルドから辛うじて自分が生きていると聞き、心配でこの島にやってきていたのだそう。神樹の近くにいれば悪霊は来ないものの、万が一に備えてレリアの近くを巡回していたと教えられる。ジゼルも、モリアスも、仲間たちも、自分のために長い年月待っていたのかと胸が一杯になった。
さっそく皆で意見を出しながら、記憶に繋がりそうな手掛かりを語り合う。
「この部屋も城も、生前貴方が使われていましたから、何か残っているかもしれません。」
ジゼルのアドバイスに耳を傾け、ふむふむとレリアや騎士らは頷く。
「そういえば、なんで何百年と経っているのに、綺麗なままなの?」
所々ボロボロになっているとはいえ、500年以上形を保ち、しかも自分が着慣れていた服まで残っていたため気になって尋ねた。
「シルド様は、城全体に美の女神の「美しさを保つ権能」をかけました。」
「あぁ、成程…それで。」
通りで綺麗な筈だと納得した。
それなら、500年前のモノの数々が綺麗に残っている可能性が高い。
「…ねぇ、そもそもこの中で、最後まで城に残っていた人はいる?」
「我々の中にはおりません。」
「だよね…うーん。」
レリアは、「その日」を見た者が、もしかしたら自分の事情を知っているかもしれないし、記憶として何か残っているかもと期待したが当てが外れて再び考えこむ。
ーーー「いや、いますよ。この城に。」
前に宝物殿を案内してくれた騎士のベイルが、待ったと発言した。
「謁見の間にいる彼らなら、貴方が剣で貫かれた時の瞬間を目撃している筈です。」
「謁見…?…あ、あの部屋?」
そう言えばと、国王と王妃の椅子に剣が芸術的なまでに刺さっていた…恐ろしい部屋の存在を思い出す。
「はい。フィリア王国の反乱軍です。」
「ん?…反乱軍…???」
ベイルの教えてくれた彼らの事に、レリアは首を傾げるのだった。
記憶探しがもう一度スタートします!




