友よ
カーテンも閉めて外界と完全に遮断された守護域の内部で、レリアは暫くウロウロしていた。
領域の内部にあったシルドの炎は、エルスの力によって飛ばされ、今は自分の守護の力で部屋の明かりがぼんやりと付いている。
(いや、こわくな...やっぱり怖かったです。)
シルドに追いかけられた時の事を思い出し、今考えれば、あれ、めっちゃ恐怖を感じていい瞬間だったと、1周回って冷静になった頭で結論付けた。
未だに彼が部屋の周りを周回しているのが、気配で分かる。
己の炎が部屋の中になくなって、中に移動出来ないと分かったシルドは、脆い所を見付けようとしているのか、時折手で触れられたりバチバチと炎をぶつけていた。
暫くは平気だろうが、いつまでも籠城していては現状の打開は厳しいだろう。
(でも、どうすればいい?)
結局シルドから強制的に見せられた記憶を見ても、自分の全ての記憶が戻る事はなかった。
でも、あの日の…何故己が死を選ぶ様な真似をしたのか、過去の自分と向き合う為にも記憶は全て取り戻したい。だが、シルドの助けなしで今から探すのは難しいだろうしと頭を悩ませる。何かいい方法はないかと考え始めた時だった。
ーーー「やはり、こうなったか。」
ーーー「まあ、いずれこうなるかもと、申し上げれば良かったですね。」
「えっ。」
知っている、懐かしい声に思わず声がする方へと顔を向けた。
「モリアス…それにジゼル…。」
この部屋にいた霊の正体は、私の古い…大切な人たちだった。
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「レリア、久しぶりだな。」
「レリア様、長旅お疲れ様でした。」
声を掛けてきたのは金髪に黄金の目の若い男性と、落ち着いた様な雰囲気が漂う年配の女性だった。
「…モリアス!ジゼル!」
懐かしい彼らの姿に、レリアは堪らなくなって2人に駆け寄った。
「?!」
しかし、抱きつきたくてもすり抜ける彼らを見て、もう魂だけの存在なのだと言うのを自覚してしまう。尚の事、時間の波が残酷にも同じ時を歩めないのだと知らしめてくる。
「…ぅっ…。」
「おい、おい!泣くなよ!」
「れ、レリア様…。」
どうしてここに居るのか、いつからここにいたのだと聞きたい事は山ほどあったが、レリアは何よりも記憶だけに生きていた彼らの生前の姿が宿る幽霊に、嬉しさから涙が止まらなかった。
「っ…うわああぁぁぁぁ!」
年甲斐もなく泣く彼女を見て、モリアスは頭を掻きながら照れくさそうに、ジゼルは微笑みながらレリアを抱きしめる。触れ合えない代わりに、心から大好きだと、今までもこれからも貴方の傍にいると、距離を埋めるかのように3人は寄り添い合っていた。
暫く泣いた後、ジゼルに促されてレリアは椅子に腰かけた。
レリアは感情を爆発させて若干すっきりしたのか、涙を拭いてふと、2人に疑問に思っていた事を聞いてみる事にする。
「…そういえば、ジゼルって私と一緒に文字の読み書き練習してたよね?」
「えぇ…あの時は過去のレリア様ではなく、今のレリア様…新しい主人としてお仕えする気持ちで接しておりました。シルド様もそれを望まれておりました。」
ですが、レリア様は記憶がなくてもレリア様でしたね。安心しましたとジゼルに言われる。
(そっか…。)
多分ジゼルは目覚めるかも分からない自分を心配して、もう一度自分に仕える為に、ここに残り続けていたのかと申し訳なさで胸が一杯になる。そんなレリアの表情から、気負わないで欲しいとジゼルに伝えられる。
「貴方に受けた恩を、どうしても返したくてこちらに参りました。」
「恩…?」
「はい。…まだ思い出されていない様子ですが、私を含めた家族は、皆貴方に恩があるのです。」
ジゼルの事に心当たりはないが、彼女の言葉に間違いはないのだろうと話を聞き終える。
「モリアスは?」
「そりゃ目が覚めてから遊びに行ったけど、シルドに止められてな。」
「なんで…?」
「なんでって…本当に分からないのか?」
「え?じゃぁ…妙齢の女性だから?」
一応大人の身体だし、勝手に女性の部屋には入ってはいけないのはマナーだとは知っていたからだ。
「…そういう事にしておくか。」
シルドの嫉妬深さから近寄れなかったとは言えず、モリアスは察しの悪いレリアに呆れながらそう答えた。
「あぁでも…レリアが船に乗る前に会いにいったぞ。」
(船…?)
「出発前、絵を見てただろう?俺が昔描いたやつ。」
「!!」
確かに、部屋に戻って最後に眺めていたと、レリアも思い出す。
「見てたなら、一声…というか一筆くれてもよかったのに。」
「はぁ………相変わらず鈍いなぁ。そんな事すれば、シルドに燃やされるだろ。」
「なんで…?」
自分とモリアスはよくじゃれあって喧嘩をしていたが、シルドとモリアスがというのは想像がつかなかったレリアは、彼がそんな事するかなと首を傾げた。
そうやって2人から話しを聞いていた時だった。
ーーーガァアン!!
「「?!」」
突如、大きな音と外からガリガリと削れるような音がして振動が部屋中に響き渡る。
「あいつだな…。」
やれやれといったふうに、モリアスは肩をすくめた。
「…ジゼル、俺があの分からず屋を、少しばかり説得して見せるから。」
「そんな事ばかり言って…えぇ、任せましたよ。」
「えっ、でも…!」
流石にあの状態のシルドに近寄ったら、魂ごと消し炭にされそうで心配になる。
「大丈夫、大丈夫!」
「ええ、レリア様ご心配なく。モリアス様のシルド様への不敬はいつもの事ですから。」
「おい!」
一応初代国王なんだけど!という言葉に、ジゼルが死ねば皆平等ですと素気無くあしらわれていた。
「まぁ、いいや…。取りあえず行ってくる。」
そう言うとモリアスは霞の様に消えていった。
レリアは心配な気持ちが消えずに、彼の消えた場所を眺めていた。
「レリア様。モリアス様が時間を稼いでくださいますから、その間どうするか一緒に考えましょう。」
彼女の不安な気持ちに寄り添う様に、ジゼルが傍にふわりと降り立つ。
「ジゼル…。」
「…貴方には、幸せになってほしいのです。」
今度こそという願いを込めて、ジゼルは彼女の手に重ねる様に自分の手を置いた。
「レリア様が、私たちに幸せをもたらしてくれたように。」
それが今までここで待ち続けてきた意味だと、決意を宿した瞳で応援を呼ぶべく、自分のポケットからベルを取り出して鳴らし始めるのだった。
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