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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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あの日の続き

読みにきてくれた方、ありがとうございます!




「…はっ!」

生まれて初めて呼吸をしたように、レリアは大きく息を吸い込んだ。

そして、目の前にシルドの胸があるのが分かって驚く。いつの間にか、レリアは彼の腕の中にいるのに気付いて腕を突っぱねようとした。


「暴れないで下さい。…落ちますよ。」

その言葉と共に、薄暗い路地ではなく、2人は城の大きなホールのシャンデリア下に黒炎と共に現れた。

しかも、シルドに手を掴まれている状態で宙に浮いており、エルスは目を見張る。

「?!?」

ぶらぶらとする足に、ひんやりとした空気がより一層浮遊感を煽られた。

やがて地面に…いや床に2人はゆっくりと足をついた。


「ここ…、王城?」

見覚えのありすぎる場所に、レリアは思わず呟いた。


「如何にも。ここはフィリア王国の城です。今となっては「元」がつきますが。」

レリアはシルドが黒い炎を使って、瞬間的に移動したのだと悟る。


この場所を覚えている…いや、懐かしいと言うべきなのか。

己の顔と身体を形どったステンドグラスが、昔のまま残っている。

…今なら分かる。周りに掘られた文字は…後から掘られたものだと。


「 時の果てで 契約を 」


間違いなくシルドがやったのだろう。

しつこいと言いたくなるが、そんな雰囲気ではないのはレリアも流石に分かる。



(本来なら、あの時私は死んでいた。)

だが生きている。


それが出来たのは…粉々になった自分の神格にシルドの神格の力が入れ込まれ、なんとか500年の歳月を経て起きられるまでに回復したからだろう。

先程の記憶からも、それが読み取れた。


(でも、どうして…。)

シルドが言った通り、何故フィリア王国最後の王に、胸を貫かれる事態になったのかは分からない。

過去の私が、何を思っていたなんて分からない。



「…思い出していなくとも、話さないというのも…どちらであっても、それはそれで結構です。」

なんとか500年分の怒りを抑え込んだのか、シルドはレリアに向き合いながら伝える。


「もう2度と…レリア、貴方を失いたくない。」

それは本心なのだと、両手を握られる。

ひんやりと冷えた冷たい彼の手が、自分の温もりと混ざり合う。

昔も今も変わらない互いの体温の差が、泣きそうなぐらい心地よかった。


「…ですから、契約してください。お願いです。」


そして抱きしめられながら、シルドに懇願される。

彼の掠れた泣いている様な声に、思わずレリアも抱きしめ返したくなった。



ーーーまるで甘い誘惑。


契約(約束)を受け入れれば、この手をとれば…全てシルドが今まで通り国を管理し、民の安全も保障される。そして私は、きっと彼にずっと守られるのだろう。


今も昔も好きな人(神)と一緒にいられる…甘美な響きだった。




気付かない

知らない

それでもいいじゃない


( でも 本当にこのままでいいの? )

踏みとどまる心の声が、シルドへ今のまま全てを委ねてはいけないと言う。


紛れもなく、これもレリアの本心でもあった。



(やっぱり…いいわけない…!)


レリアは自分の心に嘘をつく事が出来ず、シルドの抱擁から腕を伸ばして抜け出す。


「レリア…?」

様子のおかしい彼女にシルドが手を伸ばそうとしたが、その手をレリアが止めた。


「…条項、さっきそれなりに読んだから…まだ忘れてないよ。」

しっかりと両方の足で踏みしめながら、レリアは真剣な眼差しでシルドを見上げた。

これからが勝負だと言わんばかりに、震えそうになる口を心の中で叱責する。


「だからこそ、まだ契約できないわ。」

その言葉に、シルドの顔色が変わった。

何故だと表情が物語り、目に見えて狼狽え始める…シルドは完全に、いつもの微笑を湛えた冷静さを失っていた。


「戦争の敗北条件…それはどちらかの神が敗北を認める事。それがあって初めて契約出来る…そうでしょう、シルド。」

まさかそこを突かれるとは思っていなかったのか、シルドは哀しみから驚愕に満ちた顔になる。



「 私、まだ負けてない! 」


敗北宣言してないから!と、シルドの元から走って逃げ出したレリアは、茫然とするシルドを置き去りにして自室にとりあえず走り出す。




(どうしよう、どうしよう!)

シルド相手に大きく出てしまったと、もう頭がいっぱいいっぱいだった。


レリアは北棟に続く廊下へ素早く躍り出て、持てる限りの筋力で駆け抜ける。

働いている幽霊たちが「あれ?」「何事??」「帰ってきたの???」という目を向けてくるが、今はそれどころではないため「ごめんね!!」と言いながら横切る。


後先考えずにまず行動するのが自分なのだが、自分の前世と言っていいのか、知った事実が今も重くのし掛かってくるも、落ち着いて考えたいと思ってまずは「自室」だと突っ走る。瞬間移動の力が使えないレリアは、走り抜けながらも彼の事をずっと考えていた。


シルドが過去にしていた事も

シルドの気持ちも


ーーーシルドがこんなに苦しんでいたのも


(..,私は知らなかった。何も。)

悲しみが胸を締め付けたが、それでもレリアは、俯きそうになる顔も気持ちも無理矢理上げた。



(でも…これからも知らないままは嫌だ!)

だからこそ、レリアは「自分の死」の理由を知りたいのだと決意する。

彼から離れようとした、過去の自分の気持ちを確かめたいと。


今の気持ちも大事だが、過去の自分も「自分」なのだ。



ーーー「待って下さい!」

背中の後ろの方から声が追いかけてくる。



「こ、こないで!」

後ろを振り返りながらレリアは叫んだ。

強い拒絶の言葉を聞き一瞬時が止まる。だがすぐに表情が削げ落ちたかのようになったシルドは、自身を黒炎へと一気に変貌させた。

廊下の空間が捻じ曲がったかの様に歪になり、ぎぎぎと軋むような嫌な音を立てながら全てが歪んでいった。


「ひっ!」


城に灯っていた、柔らかいランプの明るい光りがシルドのいる場所からどんどん黒炎に変わっていく。

それだけではない。

周りの廊下の扉という扉が、ガチャガチャと音を立て始めて追い立てられてるかのように感じて動揺し、

腰を抜かしてつまづく。




バツン!


結界を咄嗟に自身周辺に張った。

彼との境目に黄金の薄い膜が出てくる。…だが分厚いものではない。

シルドとの力の差がある以上、範囲をもっと狭くすれば割られないだろうとレリアは咄嗟に立ち上がって、後ろを見ずにもう一度走り出す。


彼の事が怖いわけで逃げ出したのではないのに、溢れてくる涙が止まらなかった。

何故なのかまで、頭の中がぐちゃぐちゃになって考えてはいられなくなった。


部屋の周辺だけに先に分厚い結界を張り、その中になんとかレリアは滑り込んだ。




バリアが完全に閉ざされる前に見た彼の表情は、此方に手を伸ばしながら、何故と言いたげな、悲しげな姿だった。





どこかでネタバレになるアリスとの過去編を入れたいですね…。

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