零れていた忘却 ★R15
読みにきてくれた方ありがとうございます!
死に近い描写があるので、R15にしました。
ーーー夕日の色ではない、禍々しい赤色をした空。
家屋のあちらこちがら焼け落ち、煙や炎の魔の手がそこかしこに伸びている。
目を疑う様な凄まじい光景にレリアは息を飲んだ。
「ここは...あの城...!」
シルドの記憶の波に攫われてきた場所は、己がかつていた場所だ。
フィリア王国の城…様々な国の中で、最も美しいと称された白い城。
だが今はもうその影もないほど、ぼろぼろに崩れて煤にまみれていた。
四方八方から怒号と悲鳴が響き渡り、戦いの最中であると言うのが伺える。
城の閉じられた門の前で、複数の兵士らが何やら話していた。
「少し触れただけで、守護神殿のバリアが砕け散るとは…。」
「いくら力が弱まったとはいえ女神だ。こうも突然強度がなくなるとは考えにくい。…黒主様。」
視線を向けている兵士が指示をと此方を向く。
「…嫌な予感がします。王のいるところへ急ぎましょう。」
まるで自分がシルドになった様に、景色が展開していく。
(この景色…もしかして、500年ぐらい前の3日間戦争?)
フィリス王国が滅亡する日の事かと立ち尽くす。
レリアが愛し、守りたいと誓った国が崩壊する様を見せつけられて、心の中が引き裂かれる様な思いだった。
薄くなったバリアを割られて、急いでメインホールに続く扉が開かれる。
やがて赤い階段の上に、盃を煽るレムリアと愛人と共にいる王がいるのが見えた。
「やはり王が自分の身を守るよう、側に置いていると予想していましたがその通りですね。」
「はい…お前たち、王と女を捕縛しろ。」
だが、記憶の主であるシルドが近づこうとしたその瞬間。
カランと、「レムリア」の持っていた盃が手から転がり落ちる。
黄金の盃と共に、白銀色の髪が崩れ落ちる姿が見えた。
(えっ!)
思わずレリアは驚きの声を上げる。
協力していた反乱軍も、シルドが率いてた兵士も時が止まったかの様に足が止まった。
真っ赤な絨毯の敷かれた階段の上から、たらりと銀の雫が次々に流れ落ちていく。
(あ…。)
( これは、ほんとうに 私の事…? )
生気を失った、己とうり二つの顔。
振り乱れた灰色と白の髪。
力を行使している時の水を張った様な瞳は白く濁りを帯びている。
血だまりだけが広がっていき、彼女の命が失われようとしているというのは目に見えて分かった。
「き、聞いた所によると、そなたらは最近、その…喧嘩をしていたそうではないか!国を滅するほどに仲が悪かったのであろう?!」
帝国の兵士達や反乱軍を見て怯える王が何やら話しているが、耳に入って来ない。
ただただ衝撃が強すぎて、目の前の過去に起こった事実を受け止めきれずにレリアは茫然とする。
メインホールの赤い絨毯のひかれた階段上から、只管液体が流れて時間と共に量も増える。
銀色の艶やかな何か…過去の私の血だった。
「だから…だから、だから、殺しておいた!」
悲鳴の様に吐かれたその言葉に、目の前が真っ暗になるようだった。
( ころした )
( わたし あの日に モリアスの子孫に ころされたの? )
記憶にいる自分のないはずの胸に、思わず手を当てそうになる。
嘘だと言いたいが、シルドの見せているこの記憶に嘘はないのだろう。
「聞けば、気に食わぬ国の神を随分と滅ぼしていたそうじゃないか!」
「彼奴も、そうであったのだろう?」
男の持つ白亜の剣からは、ぽたりと血の筋が流れ落ちていた。
まさか、モリアスから貰った剣で、彼の子孫に切られたのかと…よりにもよって!と哀しみが渦巻く。
「其方に献上する故、ゆっ、許してくれ!」
そう言うと、王の足元にあった何かが、蹴られ、ごろりと階段の最下層まで堕ちてきた。
愚か者の言葉なんぞ、耳に入ってはこない。
遠くから聞こえるようだとシルドの心の叫びが聞こえてくる。
信じがたい光景が視界に広がり、ようやく彼が動き始めた。
「 レリア...。ああ、あ、ぁ、…うそだ、うそですよね? 」
シルドは駆け寄り、慌てて彼女を抱き寄せる。
彼のよく知る死の気配がもうすぐそこまでレリアに迫り、己より冷たい彼女の体温に絶望する。
「ぁ……!!あ゛ああああああああああああ!!」
慟哭が城中に響いている様だった。
シルドが胸に掻き抱いた彼女の胸から神格がひび割れて、液体が漏れ出ながら彼の服を濡らしていた。
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「 何故貴方は、あの日、あの瞬間 」
「 抵抗せず自ら刃を受けたのですか。 」
己を責める様な言葉が、突如胸に突き刺さる。
見ていた視界が突然真っ暗になり、目の前に黒い炎を全身に纏ったシルドが現れた。
「宣戦布告をしたのは…確かに私からです。」
「それはあの愚かな王に頭を垂れさせて、貴方との契約を破棄してもらうためでした。レリアもそれで悩んでいるのを知っていましたし、貴方が動かしていた王家へ反旗を翻す反乱軍も、その為に行動していました。」
金縛りにあったかのように視界を逸らす事も出来ず、レリアはただシルドの強烈な怒りの視線を真正面から浴びた。やはり先ほど見た「記憶」は、自分の…本当に過去の出来事だったのかと…急に恐ろしく感じる。
「ですが…。貴方の塵芥になった神格をかき集めても尚、その理由だけは…記憶を読み取る事は出来ませんでした。」
まだ記憶の中にいるはずなのに、目の前に薄い桃色の光を纏った一枚の擦り切れそうな紙が現れる。
「布告宣言には…貴方の署名が残っています。」
目の前に突き出されたのは戦争の宣言書と条約だ。
確かに、自分のサインが下に書かれている…本物だった。
「敗北した場合、この条項全てに従うと。」
最初から読み進めていると、とんとんと、シルドが指で指してきたため、その場所に視線を向けた。
そこには、戦争において勝敗が決した時に神々が誓約する文言が書かれていた。
古より神同士が戦いを挑む際、先に互いに勝った時と負けた時にどうするかを天神に誓うのだ。
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フィリア王国の民は、抵抗しない限り命の保証と最低限の生活保障を約束する。
尚、ウォーレムス帝国が勝利を収めた場合、以下の事を天神の名の元に誓約する。
1.フィリア王国全土を、ウォーレムス帝国の属国として支配する。
2.王家の持つ全てを、ウォーレムス帝国に献上する。
3.守護神の命を冥炎の神のものとし、王家との契約を破棄する。
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(な、なにこれ…。)
敗けた時、根こそぎ全てを攫っていくような誓約という名の蹂躙だった。
しかも読み進めると、フィリア王国から帝国に要求するのは勝った場合…「帝国の撤退・民のための補償金と支援」である。つり合いが完全に取れていない。あんまりな条項に不平等にも程があると思いつつ、過去の私も何故同意してしまったのかと自分自身を殴りたくなった。
「レリア、ですから契約(約束)したでしょう。」
「愚鈍な王との契約も…順守した貴方です。」
意識しかない筈のレリアの目を覗くかのように、ゆっくりと此方に近づきながら告げる。
「私との契約を果たせないのですか?」
ぼうっとシルドの目や口に黒炎が宿る。
まるで心の内に呼応するかの様な火の荒ぶりから、出来ない筈はないという圧をレリアは感じた。
「それとも...私から死にたいと思える程に、離れたかったのですか。」
目の前の暗がりから、シルドの強大な冥炎の力が吹き上がるのを感じる。
全身を絡めとられたかのように動けないまま、レリアはシルドの憤怒から逃れる事は出来ずにいた。
教えて下さいではない。
答えろと言わんばかりの剣幕に押されてながら、レリアはシルドによって、記憶の波から無理矢理現実の世界へと引っ張り上げられたのだった。
シルド視点で記憶の話が進みましたが、勿論彼女の視点でも書きます。




