彼女が知らない話①
彼の秘密の一部が明かされます。
見てみたいなという方はどうぞ。
少し霧が晴れて、三日月の柔らかな光が、北東の一室を照らす。
部屋の中の住人は、今日の勉強会の復習をしながら、見事に机で眠りこけていた。
すっかり夜になった空間に、少しずつ冷えた外気が入り込む。
「…ん。」
少し身じろぐも、眠気が勝るのか、起きる気配はない。
すると、寝台の方にあった燭台の炎が、ふわりと靡き、音を立てずに静かに燃え上がる。
次第に炎は大きくなり、蝋燭から離れ、眠る彼女の近くまで降り立った。
「・・・・・。」
黒炎はやがて人の形をとり、暫く身体のあちらこちらにあった残り火が、段々と消えていく。
男は、横の髪に、最後まで残っていた炎を、手で軽く払いのけた。
そして、眼下で聞こえる寝息に、溜息をつく。
「・・・・やれやれ。風邪をひきますよ。」
言い終えると、寝台にあった、温かそうな毛布を持ってくる。
そして、眠る彼女の背に毛布を掛けた瞬間だった。
「うっ、あ。…。」
彼女の安らかな寝息に、苦しさが混じるのが聞こえた。
顔には眉間に皺が刻まれ、目から一筋涙が零れるのも、男は見逃さなかった。
「…●●●。」
何かを呟きながら、彼女の額に手を翳す。
手は白くぼんやりとしながら輝き、段々と光が失われていくにつれて、彼女の顔に安らぎが戻ってきた。
流れ出ていた涙を、そっと指先で掬い上げると、炎と共に悲しみを吹き飛ばすかのように霧散させた。
男の顔にも安堵が広がり、深い眠りへと誘われた彼女を毛布ごと抱きかかえ、寝台へとそっと下す。
彼女の夜空の宙の様な髪を、ひと房、手で持ち上げ、口づけを施す。
「…貴方を苦しめる全てを、この炎で焼き尽くせたらいいのですが。」
全て言い終えないうちに、男は再び黒炎の塊となり、寝台の横の燭台へと戻る。
静寂の中に、彼女の吐息の響きが空間を優しく揺らす。
「…良い夢を。」
そう言い残し、寝台の横で、男は眠りについた。




