5-④
読みにきてくれた方、ありがとうございます!
ーーー出自審査手続きの書類を提出し、エルスとシルドは外に出た。
申請には1週間ほどかかりますと神官に言われて、とりあえず時間が出来てしまったため、せっかくならと観光する事になる。
隣の建物にウォーレムス帝国所有の博物館がある事を知り、そこへ行く事にした。
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「…広いですね。」
博物館と聞きどんな所かと思っていたら、かなり広い作りになっている空間に、歴史を感じさせるものや美術品が置かれている他、庭園や子どもの遊び場と思しき場所も設置されていた。
「どうやら、前よりも大きくなったようです。」
増設された施設の方を見ながらシルドが言う。
2人は人々の流れに乗りながら、入り口をくぐる。
すると廊下の両脇には彫像が並び、荘厳な雰囲気を醸し出していた。
一人や家族連れで見回る中、男女で訪れている方が多い。
(そう言えば、博物館に入る前になんか書いてあったな…。)
入り口近くに横断幕があり、期間限定で永遠の女神とその恋人だった書記官にまつわるものが展示されているというのを、レリアは思い出した。
(…女神様…2人共、仲良く暮らしているのかな。)
天に行った彼らの事をふと思い出す。
世紀のラブロマンスが叶った彼らに肖ろうと、恋人達は初々しく手を繋いだり、肩を寄せあったりして幸せそうに期間限定の展示場所に並んでいた。
(よく考えれば、私たち…)
隣のシルドを見上げ、逢引きのような状況だと急に自覚し、レリアの顔が真っ赤になる。
火照る頬をシルドに見られない様に、慌てて近くの一室に入ると画廊の様に沢山の絵画が飾られている場所に出た。
果物の写実画や肖像画、風景画…。
レリアにとって、どれも目を惹かれる美しいものばかりだった。
ふと、ひとつの絵に視線が止まる。
絵のタイトルは「幾千夜」
星の軌跡が湖に反射している様な、美しい油彩だった。
前に彼の瞳を見た時、十字に切れた白い瞳孔が星の様だと思っていたが、そんな感じの印象を受けたレリアは、未だ直視できないシルドの顔のかわりに後ろで手を組みながら、その絵を暫く眺めながら堪能していた。
(古城を出て色々見て来たけど…2人旅楽しいなあ。)
ずっと、このまま穏やかな日々が続けばいいのにと、どうしても思ってしまう。
ーー優しく色々教えてくれる、その横顔をずっと見ていたい。
ーー悪戯もするけれど、自分に構う特別感が好き。
ーー自分を見ないで、何処か遠くをみながら哀しむ彼の支えになりたい。
記憶を取り戻す旅に出たのに、永遠に続けばいいと自分勝手な願いが頭を過る。
戻りゆく記憶に立ちすくむ気持ちだけではない、レリアの恋心が足枷のように沈んでいった。
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レリアの少し後ろ斜めに立つシルドは、彼女の行きたいようにさせていた。
好奇心が強いレリアにとって、ここは満たされる場所なのだろう。
ーーー「博物館」…そのものを彼女は知らない。
それもそのはず、博物館は200年前に出来始めた施設だからだ。
どおりで珍しそうにうろうろと…視線が忙しないわけだと男は思っていた。
シルドは飾られている絵ではなく、目を輝かせたり興味深そうに色々と作品を眺めている彼女の隣に立ち、横顔を眺めていた。
(「幾千夜」…。)
ちらりと彼女が見入っている絵を見る。
長く立ち止まるレリアを見ながら、彼女がこの絵を一目見て気に入ったのは明らかだ。
だがシルドの目には、その絵から美しさではなく、ただひたすら幾度となく待ち続けた日々の象徴に思えた。
霧の深く、昼でも夜の様な薄暗さと寒々しさに、呼吸が重くなる毎日。
彼女の目が開かない苦痛の日々。
陽の明かりで眩くなるシンハライトの瞳が、今なお、自分をずっとみていない。
目覚めてからも、こんなに隣にいるのにと。
また、届かないところにまで行ってしまうのではないか。
シルドの中では、永遠の不安と孤独が付いて回る。
私を 意識してほしい。
貴方を愛する 私を みて。
(……あの女神の、執着の様だ。)
滅ぼしたはずの、あの女の高笑いが聞こえてくるようだった。
(だが、あともうすぐ…。)
待ちきれないと笑みを浮かべる。
この場所に態々(わざわざ)来たのには理由がある。
そうでなければ、此処には訪れない。
昔の思い出の中でも
生き生きと輝き続ける今も
永久に美しくある彼女そのものを手にするのは自分だと、男は信じて疑わない。
その傲慢さが、まさしく美の女神と同じである事に、シルドは気付いていなかった。
(まずは、その絵から貴方の瞳を奪うとしましょう。)
彼女の見つめている先にある絵を睨み、彼女の宝玉のような瞳に自分を映してもらいたい、意識を向けさせたいと、考え始めるのだった。
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ーーーレリアは暫く絵を眺めていると、シルドから手を急に繋がれる。
「?!」
「ふふ。」
絡めとるように長い指が、エルスの手を捕らえて離さない。
彼を見上げると、くすりと笑っているだけで離してくれる様子はない。
「シルドさん?!」
レリアは咄嗟に引き抜こうとするもびくともしない。
すると、自分の口に長い彼の指がそっと添えられた。
「…お静かに。」
「~~~~!!」
彼への気持ちを自覚してしまった手前、シルドの顔を直視出来ずに再びそっぽを向いてしまう。
「次に行きましょう。」
「えっ、ちょっ!」
そんな彼女の様子に機嫌を良くしたのか、今度は彼のエスコートによってレリアは腕を引かれて次の絵画へと進んでいく。
指は解かれることなく、互いの体温や触れる感触に意識がいってしまい彼女は一切集中出来なくなってしまった。
レリアは手を繋いだまま、恥ずかしさのあまり暫く絵画ではなく床を見る事になる。
緊張から何も作品の数々が視界に入って来ず、赤面しながら歩き回る羽目になったのだった。
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次ぐらいで、展開が大きく変わってきます。




