5-③
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申請課に行くと、中は沢山の人がいた。
働いているのは皆神官なのか、全員白っぽい服を着ている。
「ここですね。」
シルドが指さした方向に目を向けると、「申告受付」とあり様々な書類が置かれている。
そこから人々が書類を取って、机で何やら書いていた。
一度、2人は空いている椅子と机を見付けて腰かける。
「前にも話したように、様々な国で仕事をしたいのでしたら、身分の保証をしなくてはいけません。」
「そこで、貴方の身分を証明できる書類を作りましょう。」
「はい!」
こういったことは、さっぱりなので、シルドの説明を素直にレリアは聞く。
「簡単に言えば、保証人や保護者を立てて、自分は安全ですと申請するのが一番手っ取り早いですね。」
もし何かあれば、彼らも同じように責任を負う事になりますがと言う。
「え、なら私が何かやらかしたら…。」
ごくりと、喉の音が鳴る。
「…そうですね。そうなれば貴方と私は一蓮托生です。」
にこりと、意味深に微笑まれた。
要するに、仲良く檻の中…という事になるのだろう。
「なら、全力で気を付けます。」
常識も色々抜け落ちている自分が誓うのも何だが、犯罪だけは犯さないようにと心に決める。
とりあえず納得した様な彼女の様子を見て、シルドは椅子から立ち上がった。
「紙を持ってくるので、待っていて下さいね。」
「はい、お願いします!」
受付に行き、シルドは係の者と話し始めた。
暫くすると、何やら紙を持って来て机の上に置く。
レリアはさっそく記入しようと、ペンを手に取った。
「ここに名前をお願いします。」
「はい、ここですね。」
届け出の名前の所にサインを終え、シルドに渡そうとしたが、紙の上部に見える文字に「あれ?」と手が止まる。
「…あの、シルドさん。」
「何でしょう。」
「これ...婚姻届とあるんですが。」
そう、紙の申請書の名は、「婚姻関係届け出」とあり夫婦関係を証明する書類だった。
「おや、難しい字も随分と読めるのですね。」
上達なさいましたと褒めてくれる。
その目は、悪戯気に細まってレリアを見つめていた。
「…もう!」
思わず紙を持つ手に力が入ってしまったが、自分の怒る様子にくすくすと、シルドは笑う。
(こんなに機嫌のいいシルドさんは久しぶりだ…。)
自分を揶揄ってくる彼に、照れるのではなく、何故かほっと安心していた。
「ふふっ、すみません。」
笑っていたシルドは、ふいに真剣な表情になり、レリアのペンを持つ手を掴む。
「…レリアもサインをする前に、「今度は」しっかり書類を隅々まで読む事を、お勧めしますよ。」
分かりましたねと、念を押される。
まるで、何度もその手口に引っかかったかのような物言いだった。
「はい…。」
今、身を持ってしりましたと、レリアも反省する。
確かに、これから古城とは違う場所で働くとなると、契約書にサインする事もあるだろう。
全部に目を通してからにしないとと、今後気を付けようと胸に留めた。
「これは、記念に持ち帰りますか?」
シルドがレリアの持つ紙を指さして言った。
「え?持ち帰っていいんですか?」
申請に出さない書類を、持ち帰っていいのかと尋ねる。
「何枚もは流石に認められていませんが…ここのは特別製で、神官長の印が押されています。」
「縁起物として、土産に持ち帰る方もいるのでどうぞ。」
シルドが指を指す所には、鳥と剣が交差する様な印があった。
「それとも…私もこちらにサインしましょうか?」
長い指がすっと滑らかに紙の上を移動し、「夫」の欄を指す。
「~~~~!!!!」
真っ赤になって何も言えないレリアを見て、シルドは「ふふふ、揶揄い過ぎました。」と悪びれた様子なく存分に彼女の姿を堪能した。
そして、差し上げますと言い、シルドは今度こそ本当の書類を取りに行ったのだった。
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ーーーシルドが再び書類を取りに行っている間…
レリアは端に皺の寄った紙を、ちらりと見る。
かさりと開いた書類には、婚姻関係届け出と書いてあり、「レリア」の自分の丸い文字が書いてあった。
そこに、シルドの…彼の名前はない。
自分の名だけ書かれた、空欄が目立つ紙を、レリアはじっと見つめる。
(...そうなれたら、嬉しいだなんて。)
椅子に座って、赤くなる顔を紙で覆い隠す。
夫の欄に、シルドが指を指した瞬間、胸の高鳴りが止まらなかった。
エルスは自分の気持ちに、ずっと蓋をし続けていたが、認めざるを得ないのだろう。
目覚めてから彼と共に過ごしているが、思い当たる節は沢山あった。
悪戯をされても、あまり強く怒れないこのも。
さっきみたいに、自分に触れるのを許せるのも。
彼の悲しい表情に、寄り添いたくなるのも。
ーーー自分を見ていない様な、誰かを懐かしむその相手に嫉妬したりするのも。
(あぁ…いつからだったんだろう。)
我ながら、なんて鈍いんだと心の内で呟く。
レリアもついに自覚しました!




