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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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63/68

5ー②

読みにきてくれた方、ありがとうございます!



ーーー神聖公国 「イエロス・トルポ」


生暖かい風が、頭に被る外套を揺らして通り抜けていった。

曇り空の中、神官の服を着た者が多く行き交い、町並みには沢山の神殿が等間隔に並んでいる。

だが、祭られている神が違うのか、煉瓦造りや石造り、木造等…その建物の様式は様々だ。


ここではシルドに似た外套を着る「祝福」を持つ者も多くいるのか、偶にシルドを見てはぎょっとしたように後ずさりしたり、平伏のような礼を突然とる人がいた。

シルド曰く、自分の力は強い方な為、「見える」類の「祝福」を持つ者にとっては脅威に見えるらしいとの事だった。


(そう言えば、黒主って…そういう力が強い人の事なのかな。)



実際は「神」そのものであるのだが、そうとも知らず、レリアは勝手に納得していた。



「ここで申請が出来ます。」

シルドに入りましょうと言って促されたのは、白を基調とした大理石の城の様に大きな神殿だった。

天井は高く、奥の方まで廊下が続いている。

そして、床には艶のある光沢が床を反射し、色々な模様が彫られていた。

中には、剣と鳩の模様が描かれているものがあるのに、レリアは気付いた。


(これ…。)


見た瞬間、レリアは2日前の夜の出来事を思い出す。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーー真夜中に近い時刻、着替えを終えたエルスは、シルドの部屋で先ほど見聞きした光景を伝えた。


「…シルドさん、これ、私の記憶なんでしょうか。」

温かい紅茶を飲みながら、ぽつりと彼に言う。

カップを持つ彼女の手は、若干震えていた。


(…モリアスに似ていた様な声だったけど…。)

剣を差し出してきた、あの時の声に覚えがあると思ったが、何処か遠い出来事の様に見えて、自分の記憶とは思えなかったのだ。


ここにきて、記憶を取り戻すという事に、強い不安感をレリアは感じていた。

自分が自分ではなくなってしまう様な、そんな感覚に襲われる。



「…レリア、不安に思っているのですか。」

「…。」

無言になってしまうが、それが余計に彼女の不安な気持ちを表していた。


「…記憶を取り戻すのを、願いにしていたはずなのに…。ごめんなさい。」

レリアは、ここまで付いて来て貰っているシルドへ、申し訳なく思って頭を下げる。



「謝る事はありません。」

カップを机に置き、シルドは震える彼女の両手を包み込んだ。

先程濡れていたからか、いつも冷たく感じる彼の体温が、ほのかに温かいとレリアは感じた。



「生きている限り、どう選択していくのか、決めていくのも。その意思が記憶を取り戻して変化したとしても…それは貴方だ。」


「ですから…レリア、記憶があっても、なくても、貴方は貴方です。」


シルドの手に力が優しくこもった。

大丈夫だと、彼の表情が物語っているのが分かる。



「ありがとございます。」

元気づける彼へ、小さな声でレリアは礼をする。

だが、心の何処かで、棘が刺さったような異物感が拭えなかったのだった。


(レムリア…。)


神名と言っていたが、自分と似た様な神の名前は、古城で読んだ本の記憶にはなかった。

(自分じゃないとするなら、一体誰の記憶なの…。)


シルドには言わなかったが、「レリア」と似ている名前に、「ただの偶然」だと、気持ちを無理やり落ち着かせる。

そして、まだ冷える身体に紅茶を流し込んだのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーー結局、シルドとあの後話し合ってここまで来た。


記憶を取り戻したいと古城を出発しておいて、今さら怖くなったなんて、あまりに虫が良すぎる。

レリアは踏みしめている床を見つめながら「がんばれ、自分!」と、己を鼓舞してシルドに続いて進み始める。

だが、そう決意してすぐ、シルドが突然止まった事で、彼の背中に激突する。


「うぶっ。」

「あぁ、すみませんレリア。」

「いえ…大丈夫なんですが、急にどうしたんですか?」

ぶつけた鼻をさすりながら尋ねると、シルドはさっと黒い外套を目深に被った。

そして何故か、レリアの旅用の外套のフードも2重に被せ始める。

「????」

突然の彼の奇行に、目を白黒させる。


「ここから先は、高位の神官たちが多数います。」

「貴方は珍しい祝福がありますから、場合によっては話しかけられるかもしれないので。」


長時間話で拘束されるのは嫌ですからと、レリアの全て灰色に染まった髪を隠す。



ーーそう、レリアの紺色だった髪の毛は、全て頭は白、真ん中から毛先は灰色に染まっていた。


レリアの嫌な予感は的中し、髪色が変わり始めた次の日には、結局灰色の様な髪に全て変わっていたのだった。図らずも、シルドとお揃いである。

神殿の泊まっていた場所で、その事に気付いたレリアが悲鳴を上げると、隣にいたシルドがすっ飛んでくる事態になった。だが、変化した彼女の髪色を見て、似合いますと何故か嬉しそうに触り、挙句編み込みをしたりと、終始ご機嫌だった。一方のレリアは彼にされるがまま、突然の老化現象に唯茫然としていたのだった…。



「…シルドさんがそう言うなら…。」


分かりましたと、レリアはフードをもう一度被りなおすと、シルドと共に再び歩き始める。




廊下の奥にある看板には「申請課」とあり、2人の目指す行き先が記されていた。



終章に繋がる物語が始まりました。

残りも最後ですね。

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