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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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4-⑦

更新お待たせしました!

読みに来てくれた方、ありがとうございます。



ーーー昼食を取った後、シルドとレリアの2人は、再び「声」を聞きに色々な場所を散策していた。


もう一度あの城にも寄ったのだが、傷ついていたのか上手く見れた記憶は、残念ながら1つもないという結果に終わってしまう。

そこで、他に手掛かりを探すために、アグロースの小さな商店が並ぶ場所に立ち寄っていた。


素朴な煉瓦造りの家々を通り抜けると、円形になったタイル広場に玩具屋や服屋、装飾店等、店舗が並んでいる。その中、ふと酒屋の前にあった赤い瓶が目に止まった。



「そう言えば…。」

「どうしましたか?」

何か気になる事でもと、シルドはレリアの方を見た。


「あの赤い瓶…確か記憶でみたのと似てる…。」


そう言いながら、箱の上に置いてあった瓶を手に取る。

艶のある光沢の瓶は珍しい赤色で、中の液体の泡が透き通るように見える。

作られた年号が刻印されたラベルには、他にも絵があり、王冠の絵と金色の雫が描かれていた。



「…これは、アグロースの金の雫と呼ばれている酒ですよ。」

古くからあるお酒で、美味しいですとシルドは言う。

だが、瓶を見る彼の表情は、なぜか複雑そうだった。

酒に何か苦い思い出でも抱えているのかと思っていると、酒屋の主人なのだろうか「いらっしゃいませ。」と、店の中から挨拶してくれた。


「おぉ、知っているとは嬉しいね。お嬢さん、これはアグロースの名産品だよ。」

試飲してみるかい?と声を掛けられる。

「ちょっとだけなら…。」

お酒はそこまで好きではないが、勧められた手前、断るのもとレリアは了承する。

「はい、待っててな。…ちなみに、連れの方は「これ」の他の飲み方を知ってるかい?」

なぜかシルドの方に寄って「知らない訳ないだろう?」と脇を小突いている。


「…えぇ、まぁ。」

少し苦笑いをしながら、主人へと答えていた。

「なら、お前さんが入れるかい?」

「…でしたら。」

何やら主人とシルドが話し始めたが、会話についていけずにこてんと、レリアは首を傾げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



少し準備するから待っていてくれと、レリアは店先の椅子に座っていた。

山の方を見ながら、ふとある事に気付く。



(そういえば、白い木はこの辺りにないな…。)


あと残す手掛かりもそのぐらいかと、記憶の光景を思い浮かべる。

もし、白い木が生えていたのであれば、やはり故郷である可能性が高いのだが、見つかってないとなると、違うのかなと考えていた時だった。


「おや、観光かい?」

隣の果物屋の老婆が、レリアに話しかけてきた。

「あ、どうもこんにちは。」

ぺこりと挨拶すると、客がいなくて暇なのか、レリアの方にやってきた。


「お前さん、何か山の方が気になってたのかい?」

彼女の視線の先が、壁の向こうを向いていたのに気付いていた老婆は、よいしょと、自身の店舗にある箱へと腰かけながら尋ねてくる。

「いえ…実はこの辺に白い木がないかと、探していまして。」

そう言うと「うーん」と考えこみ、あれの事かとお婆さんは口を開いた。


「あぁ…白い神樹の事かい?」

「…しんじゅ?レリアの木ではなく?」

「レリアの木…?そう呼ばれているのかい?」

「あれ?違うんですか?」


「?」

「???」


何故かお婆さんも自分も首を傾げてしまった。

(シルドさんは、私に名前を名付けた時、確か白い木はレリアの木って言ってたけど。)

てっきり幹や枝の感じが似ているから、アグロースと島の白い木は同じものだと思っていたが違う種類だったのかもしれないと、レリアは考えた。


「他の名前が?」

「うーん。違うともなんとも言えないけど…。そもそも名前がなかったのさ。」

「名前がない?」

お婆さんの話しに、耳を立てて聞く。


「あれは、とても珍しい木だったんだ。」

「なにせ、神樹は世界に1本しかない木だからさ。」

「せ、世界に一本…?!」

珍しいどころの騒ぎではない。


やっぱり島にあったのとは、違う種類の木だったのかと結論づけた。


「ちなみに、ここにも生えていたんですか?」


「あぁ、前はあったけれど…。移植されたんだよ。…何処に持ってかれたか...。」

それ以上の事は分からないと、レリアに伝えた。

「そうだったんですね…。すみません、教えて頂きありがとうございます。」



(…ここに白い木があったんだ。)


記憶でみた光景の場所は、やはりここなのかと考えが浮かぶ。



稲穂に揺れる黄金の波が、青々とした草原に目を閉じると蘇る。


モリアスと過ごした城の事。

小さな黒髪の男の子に出会った事。


ーーー自分を知る人はいないけれど、故郷だと嬉しい。


ーーーでも、なぜか寂しいと、胸の内に哀しみが何故か巣食う。


相反する気持ちが、レリアの心を縛った。



ここでの手掛かりは、このぐらいかと思いつつ、名残惜しさに後ろ髪をひかれる思いで、煉瓦の街並みを眺めていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「お待たせしました。」


「…!うわぁ。」

酒屋の主人とシルドが戻ってくる。

トレーの上には、2つのグラスが並んでいた。

1つはそのままのお酒だったが、もう1つには色とりどりの果物が入っており、とても美味しそうだった。


ことりと、果実入りの物を自分の前に置かれる。

「シルドさんは、果物は入っていないんですか?」

「私はそのままが好みですので。」

シルドが座りながら教えてくれる。

透き通る琥珀の液体の中には、ベリーと思われる赤い果実や、オレンジや黄色の切った果物が泡を纏いながら輝いていた。


「美味しそうですね!でも…どうして?」

グラスの方をじっと見ながら、レリアは尋ねる。

「この地方では、異性にこの酒を渡す時、相手の好きな果物を入れる習わしがあるんだ。」

主人がシルドの方にもグラスを置いた。


ーーー「願いを込めて」


「貴方の願いを、私が叶えてあげる。」

そんな意味があるんですと、シルドが伝えてくれた。

「願い…?」

「ええ。」

ふふっと笑うと、シルドはグラスを長い指で持ち上げ、陽の方にかざした。


「ではごゆっくり。」

にやりと意味深な笑みを浮かべながら、主人は去っていった。

それを見て、レリアはなんとなく彼が自分たちの事をどう見ているか悟った。


「…シルドさん、多分主人…。」

「別にいいではありませんか。」

お陰でタダで飲めますと言った。


シルドはグラスに入る光を見ながら、目を細めて微笑んだ。

そして一頻ひとしきり眺め終えると、グラスをまた机に置いた。


「…貴方の願いを私が叶えてあげる…。折角ですから、今の貴方の願いを聞かせて下さい。」

レリアをじっと見つめ、シルドは何ですかと尋ねる。その瞳の奥には、少し探る様な様子があり、レリアはそんなに聞きたいです?と思いつつ、自分の願いを考えた。



(願い…やっぱり、記憶を取り戻したいかな。)

レリアはグラスを持ちながら思いを巡らせる。



ーーーでも、取り戻せば…今みたいに シルドさんとは一緒にいられない。


その考えを打ち消すかの様に、持ち手に力が入る。


(……まだ訪れてもいない別れを怖がるなんて…。)

記憶がない自分に、根気よく付き合ってくれているシルドに申し訳ないと思いつつ、心のどこかで一緒にいられる安心感を…居心地の良さに甘えている己を叱責した。


「…やっぱり、記憶を取り戻したいです。」

「そうですか。」

月花祭の時も、今回の時も初めに思いついた願いを、レリアは口にする。

…本当の自分の願いに、またしても目を背けたのだった。



「シルドさんは?」

「…願いはなんですか?」

「…内緒です。」

口に指をあてて、ふわりと笑う。

またも教えてくれない彼に、ずるいと思いつつ、その恰好が様になっていたのでレリアは悔しそうに黙った。


「なら、シルドさん、お酒になんか嫌な思い出でもあるんですか?」

「…どうしてそうお思いに?」

「えーーーなんとなく?」

特にこれといった理由はなかったのだが、シルドの表情からそうなのかなとレリアは感じ取っていた。


「…以外にも貴方は鋭いですね。」

シルドは目を伏せながら、ぽつりと言う。

「以外は余計ですって。」

やっぱり何かあったのかと彼の目を覗き込む。


「…。」

「…苦い思い出とも言えますが。」

無言が続いたが、鼻で溜息をつくと、シルドは少し辛そうに話した。

グラスの液体を見るシルドの顔には、愁いの色が見えたまま、2人の間に沈黙が落ちる。

レリアは、これ以上彼は話さないというのを察した。


シルドの心の内側に、自分は踏み込めないというもどかしさを感じるも、レリアはそれよりも彼の辛いと思う記憶を和らげたいと思った。



「…何があったかは分かりませんが、シルドさん。」

レリアはグラスを持ち上げ、シルドの方へと近づけた。



ーーー「これからは、楽しい思い出(記憶)にしましょう!」

陽だまりの中、レリアは彼へと笑いかける。



(どうか 彼が 悲しみませんように。)

月花祭で本当に心に願った願いを、心の内に無意識に響かせた。



シルドの中では、一瞬時が止まったかのように、彼女に釘付けになる。



「…えぇ。そうですね。」

「今日、貴方と一緒に飲むことが出来て嬉しいです。」


彼女の言葉を、ゆっくりと受け取ったシルドは、憑き物が落ちた様に同じような笑顔を宿した。




カチンと、グラスのぶつかる高い音を響かせて「乾杯!」と2人は飲み交わしたのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


もうそろそろで、次の国へと行きます。

その前に、彼女の記憶に踏み込んでいく予定ですので、お楽しみに。

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