4ー②
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----月花祭の次の日
2人は朝早くに出発し、馬車で夕方には隣国に入っていた。
「シルドさーーーん!すごいですねーーー!!」
白と緑のワンピースを着たレリアが、シルドへ大きく手を振っていた。
「確かに、実に壮観ですねぇ。」
陽の光をたっぷりと吸い込んだ、黄金色の稲が風に吹かれて波打ち、豊かな収穫の海を思わせる。
レリアは稲穂畑の小道に立って、シルドの方へ声をあげながら楽し気にはしゃいでいた。
2人はそのまま道を下っていくと、小さな集落がいくつか点在しているのを見た。
山際に古い城の様な建物があり、同じような煉瓦造りの家々が建ち並ぶ。
「あれがアグロース町!」
町の中心と思しき場所に、赤い屋根の時計塔が見える。馬車から降りて、悪路を歩き疲れていた矢先(シルドさんは別)、今日の目的地がようやく見えてきた。
「ええ、ここがパトゥリーダ公国で、最も広大な土地を所有する町です。この国の主な収入源は農耕によるもので、アグロース町の田畑は一番広いですね。」
レリアは周りを見渡し、道半ばで目を閉じて耳を澄ませる。
(うーん。何も聞こえない。)
この辺りでは特に「声」は聞こえず、小鳥の囀りと、風に揺られて稲の擦る音が聞こえるだけだった。
「ここで何か見つかるといいんですが…。」
「永遠の女神が言ったことに、間違いはないと思いますから、何かしらこの公国で手掛かりが見つかるはずです。」
(確かに、町の方まで行けば何か聞こえるかもしれないし、もしかしたら、私を知っている人がいるかも)
「…そうですよね!」
地道に探していこうと、レリアも、シルドの言葉に期待をのせながら、再び歩き始めた。
「取り合えず、今日泊まる所へ行きましょう。」
「はい!」
先程の疲れは何処へやら、レリアは元気を取り戻した様に、坂を小走りで下っていき、後からシルドはゆっくりと追いかけていった。
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ーーー町の東にある、煉瓦造りの建物内
神様と思しき像がいくつか並び、色とりどりの綺麗な花が植えられた中庭を通り抜ける。
すると、白い煉瓦の建物に、いくつか扉がついてる建物に来た。
「レリア、今日泊まる部屋です。」
そう言うと、シルドは鍵をレリアに渡し、扉の前まで案内された。
「神殿って泊まれるんですね。驚きました。」
なんだか新鮮な気持ちですと、隣に立つシルドを見上げる。
「ええ、祝福を持つ者なら、誰でも利用出来ます。」
寄付も必要ですがと、シルドは言っていた。
(…いくら渡したんだろう。)
レリアは、神殿に入る前に、彼が重そうな袋をどさっと神官に渡していたのを見ていた。
受け取った神官の顔の表情たるや…。
どのくらい渡したのかは、聞かない方が良さそうだと、胸の中にしまいこむ。
シルドと別れて部屋に入ると、こじんまりとした空間には、白やクリーム色の漆喰の壁に花瓶の絵が飾られ、温かみのある作りになっていた。窓は大きく、外の様子がよく見えていた。
「ああー…この景色、落ち着くなぁ。」
荷物を置き、窓の外を見ながら、ふーっとレリアは息をつく。
(あの港町も、素敵だったけど、田園風景って癒されるし、静かで寛げる。)
のんびり窓の縁に寄りかかり、眺めも最高と、山の方にある古い城を見ていた時だった。
「...ん?」
何か覚えがあると、じっと光景を見ながら考える。
すると、レリアの目の前に違う景色が浮かび上がった。
ーー青々とした草原に
ーーーまだ小さな白い木
ーーーー黒髪の赤い目をした男の子
ーーー一瞬だけ見えた あの綺麗な城
(あれ、あの城...確か、夢...じゃない、記憶を思い出した時に、出てきた城と似てる...!)
はっと、飛んでいた意識が戻ってきたレリアは、もう一度城をよく見てみる。
もう「古城」と称する外観をしているが、崩れている所を除けば、まさに思い出した城とそっくりだった。
早速シルドさんに言わないとと、窓に寄りかかっていた身体を起こす。
そして、慌てて隣の彼の部屋の扉を叩きに行った。
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「おや、レリアにも聞こえましたか。」
「いえ、聞こえた訳ではないんですが...え、シルドさんは何か聞こえたんですか?」
部屋に入って直ぐに出てくる事になってしまったが、嫌な顔一つせず、シルドは対応する。
どうやらこうなる事を見越していたのか、まだ外套を羽織っていた。
「ええ。聞こえましたよ。騒音です。」
「そ、騒音...。」
そんなに煩く何か聞こえますかと、首を傾げたが、実際に古城が近づくにつれ、レリアはシルドの言う、声が一杯聞こえて聞きにくいというのをはじめて体感する事になる。
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神殿を出て城の方に歩きながら、レリアがシルドに城に見覚えがある事を伝えていると、どんどん「声」が大きく聞こえてきた。
「…もう…着される…うよ。」
「…今年は…だった…」
「あっち…そ…まだよ…」
会話が幾重にも重なりあったような、まさに「騒音」。
城が語る記憶の「声」の波に、レリアの頭ががんがんと鳴る。
「シルドさん…いつもこんな感じに聞こえるんですか?」
余りの音に、耳を塞ぎたくなるぐらいだった。
「私は自分である程度、分別というのでしょうか…調整出来るので、今はそこまでではないです。」
しれっとしたような何ともない彼の姿を見て、私も出来たらいいのにと、レリアは羨ましそうに見上げた。
そのぐらい、城から騒がしいぐらいに、沢山の「声」が聞こえていた。
(ここに住んでたのかな。いやまさか...。)
聞こえている「声」が全て自分に関係しているのなら、レリアは住んでいるかと思ったが、この古さ加減からして、100年以上は経っているため、それは無いかなと考える。
「管理人に聞いたのですが、ここは暫く人が立ち入っていないそうですよ。」
(やっぱり…。)
シルドの言葉を聞き、住んでいたという線を、レリアは頭の中でさっさと消す。
壁や何かが崩れた様な石の欠片から。四方八方聞こえてくる「声」に、もう一度感覚を研ぎ澄ます。
「ちが…だった…モリ…様」
「シ…様」
ーーー「ようや…できた!…あけ…みたら?」
(?!)
混ざり合う音の中に、なぜか自分の「声」があるのに、レリアは気付いた。
「ねえ、シルドさん!」
今の聞こえましたかと、レリアは驚きに満ちた表情で隣にいる彼に訴える。
「ええ、貴方の声ではないですか?」
「やっぱりそうですよね!」
あの女神様、本当に手掛かりを教えてくれたんですね!
期待通りの結果に、レリアは喜びながら自分の「声」を懸命に追い始める。
そして、逸る心のまま、シルドよりも先に進み始めた。
そして彼はというと、なぜか彼女とは違う方へ顔を向けていた。
ーーーあの女神は、随分と意地悪な事をなさる。
自分の「声」を見付けて笑顔を見せている彼女には悪いが、よりによって、あの記憶かと、薄暗い城の中で暫く立ち尽くし、シルドは天井を見上げる。
もう色が大分薄くなっているが、そこには階段の上に置かれた盃と思しき絵に、灰色の色の液が零れている様な模様が描かれていた。階段の周りに何か人物がいたようだが、その顔の部分は、えぐり取られたように、ごっそりなくなっている。
「シルドさん!行きますよ!」
なかなか来ない彼へと、レリアは声を掛ける。
「…はい。すぐに。」
シルドは返事を返すと、天井の壁画を最後に一瞥し、レリアの背を追いかけていった。
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評価やブクマありがとうございます!
今回の記憶は、レリアの秘密に関する事に繋がる重要なものになっていきます。




