記憶の底に燻る 4-①
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彼と彼女の過去が出てきます。
ーーー月花祭の夜中
もう隣の彼女が寝静まっていたころ。
男…シルドは手に何かを持ち、目を瞑っている。
部屋は、淡く海の中にいる様に輝き、記憶の濃い気配が充満していた。
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青々とした草原が広がる地で、男女が少しばかり言い争う声がする。
だが本人たちは怒っているというよりも、言い合っているという方が正しかった。
「だから、貴方の地に長くはいられないの!」
「私はどちらにいても平気ですが?」
「そりゃ、シグルードの力が強いからよ!私よりもずうっっと!」
きー!と羨ましいと言いたげに、灰色の髪の女性が自分を見る。
「元人間ってのもあるけど、神格も完全に生界よりだし。死者の国で、生寄りの神を讃える人はいないと思うから。信仰不足で、私は倒れちゃうと思う。」
だから行けないよと、俯きながら彼女は言った。
「はぁ。生者の国では、冥府を崇めてるのに。おかしくない?」
「日頃の行いでは?」
「…私の素行が悪いとでも?」
むっとした表情で自分を見上げる。
「なら、神格に私のエネルギーを渡しましょうか?そうすれば、冥府に行けますよ。」
「んー少しなら...大丈夫かな?本来なら、生と死は正反対だけど...やってみる?」
提案に考えたあと、それならと心が動いたようだ。
「試しにしてみますか?」
「分かった!じゃあ、少しだけにして!」
力を手に宿し、神格の一部を、掌にのせて彼女に差し出した。
「ええ、勿論です...このぐらいでどうですか?」
「いやいやいや、ちょっと待って...全然少しじゃないんですけど。ちょ、もしかして、貴方の神格また大きくなってるの?」
自分の手の中にある神格を見て、驚きの声を上げていた。
「まあ、私を崇める国は多いもので。」
「流れるような自慢。」
「事実ですから。」
「…。」
言い返せない彼女は、黙る事を選んだようだった。
「私を第一信仰に掲げる、ウォーレムス帝国は、売られた喧嘩は遠慮なく買いますし、周りの弱小国家を甘い餌で次々と傘下にしているかの2択ですから。」
「きゅっ究極すぎる2択...。」
こわっと言いながら腕をさすっている。
「それに、死の恐怖が信仰を集めやすいのもあるのでしょう。皆、死後は安らかにと思う事や、望む場所に転生をと考えている様です。」
「まぁ、確かにそうだよね…。フィリア王国でも、貴方の神官多いから。」
納得だと頷いている。
「貴方の王国は...相変わらず小さいままですねぇ。それに攻めてきた国を傘下にしないなんて、勿体ない。」
「そりゃ、私、基本はバリア張るぐらいしか出来ないから...。追い返す事は出来ても、攻める事はなかなか難しいから。土地を広げるなんて、国はしないわよ。広げなくても、資源豊富だし。」
私も信仰を広げようと思ってないからと、ぶつぶつ言い訳のように呟く。
彼女はただ、相手も、自分も傷を負うのが嫌なのだろう。
「話はさておき、このぐらいならどうでしょう。」
「まだ多い多い!私の神格、貴方の権能に変わっちゃう!」
差し出した神格に、後ずさりし始めた。
まだ駄目だと言うらしい。
「ふふ...それもいいのでは?」
「いやよ!」
ふんと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
「それにしても...レリア、貴方そんなに神格が小さくなったのですね。」
「嫌味かな?」
「私の信仰の国々が強いばかりに...すみません。」
「すみませんって顔じゃないよ。愉悦の顔だよ、それ。」
自分を見つめる彼女の顔が、呆れたように目を細めていた。
「とりあえず、試してみましょう。私の権能になったなら、眷属で共に冥府にいられますよ。」
「私は!ここが!すきなの!眷属になったら、今度はこっちに全然これなくなっちゃうじゃない!」
ちょっと遊びに行くのに、そんなに力はいらないわよ!と無理やり入れ込もうとしてくる自分から逃げる。
「待って下さい。」
「いーやーよー!むりむりむり!」
互いに神格を手に持って、鬼ごとがはじまる。
木の周りをぐるぐると、年甲斐なく追いかけあう。
少し大きくなった、白い木の背後にある一つの墓石が、そっとその様子を見守っていた。
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手に持っていた淡い自身の神格を、男は身体に戻し、部屋は再び暗くなった。
「楽しみですね。レリア。」
「次の行き先が、貴方の故郷とは。」
そう言うと、ベランダの開いていたカーテンを閉め、明日の準備をするために鞄に手をかけたのだった。
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彼の言った通り、レリアの故郷に向かいます。
4章は彼女が自分の事に、少しずつ気付いていく回です。




