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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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次の日の朝...とは言い難い時間


部屋の一室…レリアがいる北の棟の寝室では、毛布の塊が動いていた。


「ふぁあああ。」


大きな欠伸をあげながら、レリアはごそごそと、寝台から起き上がった。

「…うわ、こんな時間だ。」

時計を見て、慌てて支度を始める。

朝目覚めるには、少し遅めになってしまったようだ。




「今日はどうしようか…。」


寝台の横にあるクローゼットを覗きながら、レリアは、がさりと服をあさる。

ここには女性ものの服ばかりのため、部屋の元の持ち主は女性なのだろうと、勝手に思っている。

ドレスに使用人の様な服、ワンピースの様な服、それから、自分が起きた時に着ていた白いドレスも、ここに入れてある。

しかも、体型的には自分と似ているのか、ほとんど手直しが必要なく着れるのが、ありがたい。

「どれどれ…、んー、これにしようか。」

そう思って、鏡の前に服を持ってくる。

今日も掃除をする予定のため、汚れても大丈夫そうな灰色のブラウスと黒いパンツスタイルの服装にした。



ブラウスにある紐を縛って、服の着替えを終えると、大きな鏡の前で、服の乱れがないかを確認する。


そして、化粧台の方に移動して、動きやすいよう、光に当たって少し明るくなった、蒼みのある紺色の髪を、白いリボンで一つに結く。


「…よし!」

準備出来たと化粧台の椅子から立ち上がると、お腹が空いているのを自覚する。


(食糧庫は…まだ色々あったから、何にしようかな。)

そういえばと、レリアは毎日起こしに来ていたシルドが、今日は来なかった事を思い出す。


(今日から蝋燭があるからかな?)

そう考え、寝台の横の黒い炎の蝋燭を、燭台ごと持っていく。

ちなみにこの炎、不思議な事に温かいものの、蝋を溶かすことがない。蝋燭を変えるのが面倒だなと思っていたが、交換の必要がなさそうなため、有難いなと心の中で呟く。


シルド曰く、現世の炎でないため、この世にあるものは燃やせないとの事。実際には、蝋燭に火がくっついている状態なんだそう。


(原理は全然分からないけど…。燭台は手入れした方がいいかな?今度聞いてみよう。)


さて、気合十分と、扉を開けて外へと出たその時だった。




「え」




ご飯を作ろうと部屋を出たら、ご飯が置いてあった。

お腹が空きすぎて、願望が幻覚になったのかと目を擦るも、幻ではなく現実だった。



カートに載せられ、扉の前に朝食がなぜか準備してある。

野菜のスープに小さめのパン数種、ベーコン、目玉焼き、フルーツのデザートまで。

しかも、出来立ての様で温かく、自分が作るよりも遥かに美味しそうだ。


周りを見渡すが、誰もいない。

よく見ると、皿の近くにカードが置いてあった。


まだ単語をいくつか覚えたぐらいだが、よく読んでみると…。



「霊 朝食 作る 食べる ...シルド」


までは理解出来た。

片言になっている文を、頭の中で懸命に組み立てる。


幽霊 が 朝食 作る 食べる 下さい...

幽霊が朝食作ったので 食べて下さい

がおそらく正しい文だろう。




自分の訳が正しければ、この美味しそうなご飯は、幽霊が作ったという事だ。


(掃除に、洗濯、料理等、色々とやってきたけど、この朝食ぐらい美味しそうにはならない…)

それに城が綺麗なのも、掃除をする専門の幽霊がいるため、自分なんかが掃除するより遥かに綺麗。


(私…雑用係の意味、ある...?いや、こんな完璧にされてたら、仕事なくない?)




自身の存在意義ががたがた崩れ去る音がする。

自分に問いかけ、自分で落ち込んでいると、ぺたりと音がする。


見渡してみると、廊下の隅の一部がぼやけていた。

もう一度目を凝らしてよく見てみるも、やはりその一部分だけが歪んで見える。



柱の近くに人型っぽい、ぼんやりとした何かがいるのが分かった。

おそらく、そこに待機している霊がいるのだろう。


(あー。ついに、城の中でも見えるようになってきたんだ…。)


喜んでいいのか、悲しむべきか、微妙な気持ちになりなりながら、シルドから渡された、少し重めの蝋燭を持つ手を前に出し、なけなしの勇気を出して接触をはかる。


「…。あの~すみません、聞こえていますか?」


頭にあたる上の方が、上下に動く。

やはり、話せる訳ではないようだ。

「うーん。どうしよう。」


すると何かが近くを横切った。

「わっ!」

驚いて声を出すも、飛んできたのが紙の束なのに気が付いた。

そして、どこからともなく、宙に浮いた万年筆が、紙の上をさらさらと横切っていく。


幽霊が書き終わると、自分の前に紙がふんわりと降りてきた。

何行か書き連ねている手紙を見てみる。

(文字だ…!けど…あんまり読めない…。)

話す事は出来ないけれど、書いて意思疎通が図れる事に、レリアは安堵した。

だが、まだ簡単な文字か読めるぐらいで、このような長い文の理解にまでは至っていない。



「ごめんなさい。まだちょっと分からなくて…。」

申し訳なくて、シルドさんが帰ってきたら、猛特訓で読み書きの練習をしようと心に誓った。


「……。」

「…。」

互いに無音になってしまい、気まずい静寂が流れる。


(この霊…全然動かない。どうすればいい????)

幽霊に対する恐怖よりも、対応の仕方が分からず、レリアはおろおろと焦り始めた。


「…とりあえず、朝食いただきますね。」

レリアはそう言うと、カートごと部屋に入れた。

途端、幽霊はすうと気配を消しながらいなくなり、ぼんやりしていた景色が明瞭に戻る。



どうやら、ご飯を持って行ってほしかったらしい。

「…あ、今度お礼しないと。」


幽霊に対して向き合ったのが、はじめてだったため、気持ちの余裕がなかったが、次回から礼儀は守った方がいいだろうと考えつつ、レリアはバタンと扉を閉めた。



朝食の乗ったトレーを机に置く。

(これ、幽霊が作ったんだよね...。食べて大丈夫かな。)

だが、美味しい匂いにお腹が耐えきれずに、ぐぅと鳴る。腹は随分と正直な様だ。


(ちょっとだけ、味見してみよう。)

誘惑に抗えず、レリアはついに手を伸ばした。




そして、閉まった扉の部屋の向こうでは、

「~~~~~!!!」と周りには聞こえない心の喜びを、顔で思いっきりしながら、

美味な朝食を心行くまで楽しんでいた。





ご飯を食べ終えると、すっかり胃袋を掴まれたのか、レリアは幽霊への恐怖より、美味しい食事を作ってくれた感謝と賛辞に変わっていった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






シルドが仕事から帰ってきたのを見計らい、レリアはメインホールの所でシルドを呼び止める。

勿論、読み書きを教えてもらうためだ。


「ここしばらく私の仕事が長引いていたため、時間が取れずにいましたが、記憶喪失とはいえ、やはり使えないと不便でしょう。今日は幸い時間がありますから、せっかくなのでしましょう。」

「ありがとうございます!」


シルドが外套を脱いでいる間、今日、幽霊が見えた事をレリアは思い出す。


「そういえば...。」

「どうかしましたか?」

外套を脱ぎ終えたシルドが、レリアの方に目線を下げる。


「あのですね...。霊が、見える様になりまして。」

「昨日の今日で、見えるようになりましたか。」


いつもこっちが驚かされる側なので、多少驚くかなと、シルドの顔を見るも、表情筋は微笑みを携えて変わらないままだった。予想通りとでも思っているのか。


「…まあ、ぼんやりという感じですが。」

シルドの驚く顔が見てみたかったなと、残念がりながら、レリアは幽霊と対話を試みたものの、上手くいかずにとりあえず手紙をもらった事と、解読をシルドにお願いする事にした。


「彼らもあなたと交流をしたいと、待ち望んでいましたから。」

手紙を受け取るシルドは、心なしか先ほどよりにこやかだ。

そんなに私に幽霊が見えるのが嬉しい???と疑問に思いつつ、手紙の内容がなんなのか気になり、頭の隅に追いやられた。


「そうなんですか?」


「ええ、この紙には…


私が見えるのですか?怖がらないで下さいね。精一杯務めさせて頂きます。

朝食は私共が作りました。この島で採れた野菜も使っております。是非、温かいうちにお召し上がりください。

お話ししている言葉は理解出来るので、何なりとお申し付け下さい。


とありますから。」



(す、凄い...。なんて幽霊だ。)

元メイドさんか何かの人だったのかな。

尚の事、自分は雑用係と称しているが、このままでいいのか悩んでしまう。


「なんだかみなさん、専門的な気配を感じるので、私が邪魔していないか心配です。」

「掃除は助かっていると、彼らから聞いていますから、それは続けられて良いのでは?」


(多分だけど、それ、私、幽霊さん達にフォローされてる?)


もしかして、温かく見守られてる???と思いながら、なら掃除は絶対に頑張ろうと前向きに意気込む。


「でも、前みたいな事もあるかもしれないので、掃除して欲しい所を教えて欲しいです。」

「前...なるほど...。そうですね…亡霊も掃除を嫌がる場所がありますので、そういった場所も、お願いしても大丈夫ですか?」


「霊が嫌がる場所?」

「掃除して欲しくない霊がいる場所はさておき、この前のに似た場所の様な、手付かずの場所がそれなりにありまして。」


「...ぁあ〜そう言う事ですか...。」


剣が刺さった椅子があった大部屋を、思い出す。

確かに、あそこは幽霊がそのままにしてほしいからだったが、あそこに似た様な部屋...。


(幽霊が幽霊出そうな場所を掃除するの、嫌なんだ...。同族嫌悪か何か?)

絶対、前みたいないわくつきの部屋は、勘弁してほしいと思いつつ、仕方ないかと心の中で割り切る。



「流石に毎日は大変だと思いますから、たまにお願いすると思います。」

「…分かりました。」

雑用の中で、掃除以外の道が今の所ないため、頷く他なかった。



「そうそう、貴方が見た部屋の近くにいる亡霊は、ジゼルという名のメイドです。

確か、寝台の横の机にベルがありますので、長く鳴らせば来てくれると思います。」

シルドは服の装飾を粗方外し終えると、最後、机に手袋を置き、レリアの方を振り返りながら伝える。


文字の復習がてら、私がいない間に、時間があればジゼルと手紙で文字の練習をする事をお勧めしますと、当然の様に宿題も付け加えられた。






(あの幽霊さんとか・・・・・ん?私、部屋の近くの霊って言ったっけ?)





そんな疑問が頭を過る。




「レリア、では蔵書のある部屋に行きましょう。」

「あ、はい!」

準備が出来たシルドに声を掛けられ、レリアは燭台を持って慌てて後を追う。






レリアの小さな疑問は、もうすっかり、頭の中から消え去っていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





読んでくれている方、ありがとうございます!

ちょいちょい、この世界の謎が明かされてきますが、先行きはまだまだ遠いですね。

頑張ってまた話数をためてますので、出来たらちょっとずつ出していきます。


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