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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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49/61

3-15


----星明かりが薄らと見える夜。


レリアとシルドは、広場で音楽鑑賞をした後、出店巡りをしていた。

土産屋や美味しい屋台が沢山あり、目移りしながらあちらこちらを見て回る。


そして、この焼き菓子は美味しいと、シルドに紹介された「ガナラータ」と呼ばれるこの地方の伝統菓子を買った。中にとろりとした、濃厚なジャムが入った焼き菓子を、レリアは摘みながら歩く。



「シルドさんのおすすめ、とても美味しいです!」

なんといっても、中にあるベリーのジャムが、まわりのしっとりとした生地と相性が抜群だった。

口の中に甘い余韻が残り、また食べたくなって1つ摘む。


「紹介した甲斐がありました。」

シルドも笑顔で、美味しそうに食べている彼女に返事をした。


(そういえば、シルドさんも甘いもの好きだったはず。)

レリアは思い出して、開けられた可愛らしい紙箱を、彼の方へと向ける。


「シルドさんもどうですか?」

「…おや、よろしいのですか?」

首を少し傾げて、隣にいるレリアの方を向く。


「勿論です!一緒に食べましょう。」



「…なら、遠慮なくいただきましょう。」

そう言うと、シルドは箱ではなく、レリアの菓子を持つ方の腕を掴んだ。


「へ?」


なんとも間抜けな声がレリアから出ていたが、気にせず彼女の手に摘まれた手の菓子を、シルドが口先で喰む。

彼の唇がレリアの指に当たる寸前、我に返ったのか、食べられそうになる指を、レリアは慌てて離した。

一口で口に含み、優雅に食べ終える。

そして「美味しかったです」と、先ほどの自分の行いは何ともないという仕草で、レリアに感想を伝えた。



「…シルドさん。」

レリアは周囲の視線にいたたまれず、シルドから顔を背ける。

その耳と頬は真っ赤に染まっていた。



「一緒にと仰られたのに。」

貴方が許可しましたと、言わんばかりだった。



「そう言う意味じゃないです...。」


なんで私も学習しないんだろうと、「ふふふ。」と笑う彼を見て、レリアは心の中で涙を流した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



出店のお菓子を、レリアが食べ終えた頃だった。


満月の月はまだ雲に隠れていたが、あたりが暗くなって街に灯りが灯り始める。

すると、青い花びらを入れた籠を持つ、白い服を着た神官たちが通りや広場に出てきた。

祭りに参加している子ども達や大人が、彼らの周りに集まり、花びらを受け取っていた。


「神官さん達が出てきましたね。シルドさん、いよいよはじまるんですか?」

「はい。エイレーネの花びらを彼らが配っていますから、貰いに行きましょうか。」

近くに誰か神官がいないか探すと、直ぐに見つかった。


「私、貰ってきますね。」


籠を持つ神官の元へ、レリアは駆け寄った。

子どもの神官から、どうぞと、手のひらに溢れんばかりにのせられたものを、こぼさない様に持ち帰る。


「シルドさんも。」

「ありがとうございます。では。」

そう言って、レリアの手から花びらをとる。

ようやく手から零れない量に収まった。


「じゃあ、流しに行きましょう!」

周りの人々が、湖の方に坂道を下って行くのを見て、黒霧港の方にレリアも行こうとする。


「レリア。良かったら、眺めの良い場所があるのです。」

「眺めの?」

「この湖は、川と海が繋がる場所です。流れに沿って、花弁が海へと流れていきますから。

上から見ると綺麗な蒼い筋となって、光るのが見えると思いますよ。ですから少し移動して、川の桟橋からまきにいきませんか?」


「いいですよ!」

見に行きたいと、レリアも賛成する。


「では、ついて来て下さい。」


港へ行く人の流れと逆流する様に、レリアは素直にシルドの後に続いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「静かな所ですね。」

川の桟橋にやってきた。


丁度その時、雲に隠れていた月が姿を現し、月明かりに照らされ、手に持っていた花びらが、薄っすらと蒼い光を帯びた。



「…わあ、すごいですね!」

思わず感嘆の声が出たが、想像よりも遥かに素晴らしい眺めだった。



上流から流れてきた花びらと、港の方の湖にある花びらが、幻想的な蒼い道を作り、流れに沿ってその姿を変える。人々が港から花びらを沢山まいているのか、暗い湖は、星空を宿した様に光り輝き続けていた。


「…そう言えば、花びらは何故流す様になったんですか?」

ふと、レリアは流そうとする前に聞いておこうと、シルドに尋ねてみた。


「…強いて言えば、願いの為、でしょうかね。」

綺麗に光る花びらを見ながら、シルドは答えた。


「このエイレーネの花は、守護神が好きだった花。そして彼女は、革命の際に亡くなった人々を弔うため、花を川へ流しました。彼らの叶わなかった願いが、叶う様にと。」

はらりと、一枚だけ、シルドの手から落ちた花びらが、川へと流れていく。



「今では、将来の夢や欲しい物を願って、流しているそうです。」

川の流れを見つめる彼の表情は見えなかったが、「今」の事を話すシルドは、まるで他人事の様だとレリアは感じた。


願う事に疲れた様な、そんな声だった。



「…シルドさんは?」

「…はい?」



「シルドさんは、今まで何を願ったんですか?」


質問対して、シルドの肩が少し揺れた。

その様子に、レリアは彼の顔を覗き込む。



「...前は再会を。」



寂しげな彼の横顔を見て、レリアは息を呑んだ。




誰との再会を願ったんですか、と聞きたくなる心を、レリアは必死に抑える。


なんで彼にそんな事を聞いて、どうしようと言うのか。

自分のままならない気持ちに、酷く動揺していた。




「でも、前の願いはもう叶っていますから。」

もういいんです、とシルドは言い、彼の掌にあった花びらは全て、川の流れに運ばれていく。



だが、それを見つめる彼の横顔には、愁いが残っていた。




「今、叶えたい願いは…内緒ですよ。」

願いは口に出しては、叶わないと言うでしょうと、シルドは彼女に向き合う。

先程の哀し気な表情は、もう微塵も見えなかった。


まるで、レリアには見せたくないという様に。



「貴方もお願いをして、流すといいですよ。」


シルドに言われ、自分の手の中にある花びらを見ながら、願い事について考える。



ーーー記憶を取り戻せる様に? 

(記憶を取り戻したら、今の彼との関係はどうなるんだろう。)


ーーーシルドさんも、みんなの願いが叶います様に?

(…シルドさんが会いたい人が知りたい。)


その考えが頭を過った時、私ってば、なんて欲深いんだと内心で笑う。


(シルドさん、今の願いの時に何を考えていたんだろう。)

(前の願いは叶ったって言ったのに、なんであんなに…)


…悲しそうだったのだろう。

胸が締め付けられるような、彼のあの哀し気な横顔を、レリアは思い出す。



「…決まりました。」



レリアは一言言うと、桟橋にしゃがみ込み、花びらを全て川の流れに預けていく。

目を閉じて、心の内に願い事を紡ぐ。




ーーー「 守護神様 どうか 彼が 悲しみませんように。 」


花弁に想いをのせて、ゆっくりと、最後の花びらが水面に浮かんでいった。






その様子を、2人は静かな桟橋から暫く眺めていた。


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