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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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46/55

3-13

彼の正体が確定するので、まだ話を読んだ事がない方はネタバレに気を付けて下さい。



------永遠の女神を見送った後



2人は教会から出て、街へと歩んでいた。

先に出たレリアは、鬱蒼うっそうと草花が生い茂る足元を、踏みしめながら進む。


そして、ふと立ち止まると、教会の後ろを振り向いた。




「....。」

「レリア。」


シルドはそれ以上何も言わず、彼女にそっと近づいて隣に立つ。


「...もうちょっとだけ。見ててもいいですか?」


1つの物語が終わった様な、余韻を感じながら、レリアは足を止めていた。


光を持つ虫が葉を行き来し、夜風でふわりと飛び交う。

星の様に瞬く光虫が頭や肩に止まっているのを気に留めず、静かに教会の方を見つめる。



(結局、なんで美の女神様は私に権能を使ってきたのか、分からないまま。)

石版を両手で持ちながら、レリアは今夜の出来事を振り返っていた。



(永遠の女神様も、石版にいた幽霊の人も、幸せそうだった。手助けになれたのは嬉しい。けど....。)


あんな幸せそうな2人が、なおのこと現世で結ばれてほしかったとも思う。


わだかまりが残る胸の内を、独り抱えていた。

何処かで、これで良かったのか、と言う囁きが聞こえる。



「レリア。」

シルドが彼女の名を呼び、肩にそっと手を置く。


「美の女神の権能が生きていると知り、私は今を生きる人々と、貴方を傷つけさせないために、直ぐにでも2神の消滅を選ぼうとしました。」


「それが、永遠の女神にとっては、残酷な結末だったとしてもです。」


レリアの視線の先にある教会を、シルドも見ながら言う。

その眼には、決意の宿る眼差しが込められていた。



「…ですが、貴方は今夜、そうではない道を選び取りました。」

「貴方は、美の女神を阻み、彼ら2人の願いを救った。とても素敵な物語の結末では?」


彼女の顔にある愁いを払うかのように、夜に澄んだような声が、レリアの心を優しく撫でる。




「…ありがとうございます。」


レリアは2人の言葉から感じた、幸せそうな気持ちを思い出す。

少し心が晴れたのか、彼女の頬に赤みが戻ってきた。


「シルドさんって、慰め上手ですね。」

「お褒めに預かり光栄です。」



2人は互いの顔を見合うと、少し笑い合い、教会へと背を向けて歩み始めた。



「次の目的地は、女神が言っていたパトゥリーダにしましょう。」

「私もそこに行ってみたいです!」

「明日の月花祭に参加した後、向かいましょうか。」

「はい!」

レリアは笑顔でシルドに答えた。

どうやら、先ほどの悩みはすっかり消えて、月花祭や次の国への期待に、胸が膨らんでいる様子だった。



「その、パトゥリーダまでは遠いんですか?」

「いえ、隣国にある地方です。きっと今の時期は、丁度収穫を迎えている頃ですから、眺めは素晴らしいでしょうね。」



「では、街に行きましょうか。」

「はい!あ、そうだった…。」

ふと、レリアは思い出したのか、抱えていたモノを見る。


「あと、すみません。シルドさん。」

「これ...宿に帰る前に、怒られるのを覚悟で、博物館に行きますか?」


レリアは石版を持ちながら、どうしようと困った顔をしていた。



「大丈夫ですよ。朝一でも。」

こともなげに、シルドが伝える。


「無断で持ってきたのに?」

「ええ。」

「多分、喜ぶと思いますから。」



「…博物館の人、流石に寛容を通り越してませんか?」

シルドの自信のある言葉の響きに、レリアは首を傾げた。





ーーー結局この後、「黒霧港歴史博物館」に寄る事になったのだが、館長と職員に何故か土下座をされて喜ばれる事を、レリアはまだ知らない。





------ー------------




---レリアと宿「イペロコス」へ戻る道中


男...シルドもまた、今夜の事を振り返りながら、思いを巡らせていた。






(...前の貴方は、助けようと全てに手を差し伸べていましたね。てっきり、命を諦めないかと思いましたが。記憶を失って変わったのでしょうか。)





----いや、変わったわけではないですね。


星を見上げ、1000年変わらぬ、明るい一等星を一瞥した。



(...あの日から、貴方は学んだのですか。)



(力を無くしても、記憶もなくとも、誰かを助けたい 守りたいという...貴方の根幹である魂は覚えている。)


---今回は、自分の手で救える方法を編み出して。



「ふふふ。」



きっとこれからも、哀れな声を見捨てられないのでしょうね。





その優しさが、貴方の命を、魂を傷つけるなら




貴方が傷を負う前に 


------私が消し去ります。



(…傲慢さでは、あの女と私は、似たようなものですね。)

胸に沸いた言葉に、シルドはくつくつと笑う。


(...永遠の女神は、色々と気づいていた様ですが。少しは利口でしたか。)

力は弱っていたとはいえ、流石、人ならざるモノだった訳ですねと、胸中で呟く。



---私に助けてなんて言った瞬間、美の女神諸共、滅せられると。


(だから、無意識に「彼女」の気配を感じて、助けを求めたのでしょうね。)

---1000年もの間、美の女神は別として、永遠の女神は私から逃げていたのでしょうね。




神格の納められていた、茶色の大理石で出来た箱をそっと撫でる。星明かりに照らされた蓋には、剣の紋章が描かれていた。





(これで、あの女もいなくなった事ですし、心置きなく祭りを彼女と共に楽しめそうですね。)


明日への期待から「ふふふ」と独特な笑い方をする。









---レリア



いや、守護神レムリア



貴方の全ての神名を 早く 早く 思い出して下さいね。





「すみませーん!シルドさん、道ってこっちでしたっけ...?」



石畳の分かれ道から、彼女の呼び声が聞こえたため、考えていた事を隅に置く。



「今行きます。」





「冥炎の神」シグルードは、口元に笑みを浮かべ…



そして、彼女の背を、ゆったりとした足取りで、追いかけていった。







次の回は月花祭をメインに話が進みます。



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