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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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45/55

運命の赤い糸は

見えない方が幸せ




ーーー黒の使徒 マルウェル支部



「悪霊の目撃情報、チェック済みと。」

「子どもの霊の情報、これは…解決済み。」


ここで働く受付嬢マリーは、今日もいつもと変わらない1日を送っているはずだった。


茶色のミディアムヘアをハーフアップにし、こげ茶の目の色をしている彼女は、「黒の使徒」の一員でもあり、冥炎の神の祝福を持っている。ちなみに、能力は幽霊といった、人には見えないものが見えるのは勿論だが、それとは別に、彼女には「糸」が見えていた。



この糸は、知らない人同士にはついていない。


親愛、恋愛、家族愛…そんな人同士の絆を「糸」が見せてくれるのだ。

大抵はオレンジや黄色、ピンクや赤等だが、色が濃いのは夫婦や恋人によく見られていた。薬指から伸びる「糸」の色は、相手への気持ちや感情で変わってくる。


そしてこの「糸」を、彼女は勝手に「愛の糸」と名付けている。


ちなみに、嫉妬や憎しみは紫色や青色をしているため、マイナスイメージは寒色が多い。友人だと思っていた女性から、紫色の憎しみの色の糸が伸びていた時、悲しいかな、マリーは付き合いを辞めた。


糸のせいで、見たくないものが見えてしまう時もあるが、幽霊の未練になっている人を繋いでいたりするため、成仏には役立つのだ。

特に、初恋の人に告白できずにいる、未練タラタラの幽霊とか。


黒霧港で働いている彼氏がいるが、自分とを結ぶ可愛らしい桃色の糸が繋がっているのを、マリーは一等気に入っていた。



「よし、今夜は行けそう!」


書類に判子やサインをしながら、あと少しの書類の山を見た。

この調子なら、今日は早く上がって、彼氏と飲みに行けると気分が良くなっていた時...


「彼ら」が入ってきたのだ。



(あれ、今日は特に、来訪者の予定はなかった筈...。)




「ご用件は何でしょう。」

マリーはいつものように、入ってきた2人組へと声を掛けた。



「…黒主(こくしゅ)が来たと、お伝えください。」




「…?!!!」

背の高い男性の言葉に、言葉を失って驚きながら立ち上がる。

黒の使徒として、「黒主」と聞けば誰もが分かるからだ。


(く、くくく、黒の?!)



思わず、動揺から能力が発動してしまう。

彼を取り巻く凄まじい、冥炎の力のオーラが、彼の異常性を物語っている。



そして、男性の隣にいるであろう「人」の存在に、マリーは固まった。





極太の赤黒い糸で絡まり、見えなくなっている人を、マリーは生まれて初めて見たからだ。






「?!」



もはや、糸に連行されているとしか思えない絡まり方をしている。ただの動く毛糸の塊にしか見えない。


暫くマリーは視界に入る情報量に、金縛りにあっていた。



「いいですか?」



「はははは、はいーーー!!」



その声に慌てて、マリーは支部長を呼びに行った。


------------



「何?!黒主様?!主様が??」

支部は一瞬でバタバタと大騒ぎになった。

無理もない。支部始まっての大事件だ。



「大きい部屋って2階?」

「裏から片付けに回れ!」


「支部長以外に誰呼べばいいです?」

「今いる奴全員に決まってるだろう!!」


「お茶は、菓子は?」

「支部長の食べかけと飲みかけしか、残ってないです!」

「買ってこい!」



マリーもオロオロとしながら、受付嬢として何をすればいいのか、支部長に指示を仰ぐ。



「お連れの方もいらっしゃるのですが、どうすればいいですか?」



「主様自ら...誰かを?」

支部長がぼそっと、あり得ないと言いたげに呟いた。


そして、本当かどうか、ドアの隙間から何人か覗こうとするが、努力虚しく上手く見えなかったらしい。

「なあ、マリー、どうだったんだ?お前の目からなら、何か見えるだろう。」



「それが...。」

先程見てしまった光景を、支部長に伝える。すると聞いていた全員の顔が青褪めた。



「もしかして...。」


「支部長、何か知ってるんですか?」

マリーが、訳を知っていそうな支部長に尋ねる。

「前、本部から報告が来ていてな...。本当かもしれん。」



「まだ、お前たちには訳は話せないんだが...。」

難しい顔をしながら、支部長は言葉を続けた。




「気をつけろよ、マリー。」

先輩に肩を掴まれ、忠告を受ける。


「見とれたりしてないよな。まして、話しかけたり。」

「し、してないです!」

首を横にブンブン勢いよく振った。

あの毛玉に、どう見惚れると?と思ったが、同じ様に糸が見える先輩や支部長の顔を見る限り、冗談で言っている訳ではないのが分かる。




「いいか、主様が 連れの方と話していい と言うまでは、絶対、こっちから話しかけるなよ。」



「もし、粗相をしてみろ。」





「...呪われるぞ。」




思わず、喉が緊張で ゴクリとなってしまった。




------------




支部長が主様と話している間、マリーは例の毛玉と残る羽目になっていた。





「ひいいいいい!」


「私は見てません。私は見てません。私は何も見ていないです!!!」



マリーは、自分が何を口走っているのかすら、極度の緊張状態でよく分かっていなかった。



とりあえず、呪われないために、必死に見ないようにする他なかった。



暫くすると、毛玉は周辺をウロウロしはじめた。

どうしてあんななのに、倒れないのか。

激重な感情を気にする事なく、動き回っている。



こっちに来ないでくれと、ひたすらこの状態を生み出した神に祈っていた。






「おかえりなさい!」

そんな声をかけながら、毛玉がズルズルと彼へと駆け寄っていた。



(はあ...。)

助かったと、緊張状態がようやく解かれて、深々と心の中でため息をつく。


彼らの話を見守っている時だった。



マリーは見た。




毛玉になっている人物から、彼へと伸びている細い糸が、淡い桃色をしているのに。





------------


----その日の夜




マリーは彼氏と一緒に、港の新鮮な魚介が食べられる酒場に来ていた。



「はぁ、今日はまじで大変な目にあった。」

お酒を飲みながら、マリーは彼氏のジムに愚痴る。

ちなみにジムは、海の神の祝福を持つ船で働く人だ。


「どうしたんだ、マリー?」

「実はね…。」


「もしかして、その2人ってさ、1人はその…主様であってる?」

「そうそう!…って、なんで知ってるの?」

マリーは驚きながジムを見た。


「いや、この前さ、仕事で会ったんだよ。あの島から、黒霧港にまで送っていったんだ。」

「連れの…多分女の人なんだけどさ、めちゃめちゃ濃かったんだよ。主の痕がべったりってどこじゃない。なんかもう、纏わりついている感じでさ。」

新人の奴らが、大変な目に遭ってたと、ぐいっと酒を飲む。


「私もその人見た!赤黒い糸で、全身ぐるぐる巻きで、身体のどこも見えなったの!」

「お前の力って、確か繋ぐ糸の色で相手がどう思ってるか分かるんだよな。なら赤黒い色って何だろうな。」

「私にも、分からないけど...。」

とてつもなく、重い片想いって事なのか?そんな事を言いながら、酒を煽っていた。



そして、ふと薄い桃色の糸を思い出す。


「あ、でも彼女の方からも...。」


その時だった。


「…!これ以上言うな!」

ジムが急にマリーの口を塞いできた。


「何よもう!急に!」

モガモガと手の中で話すが、彼の目が窮状を訴えていたため、声のトーンを落とした。


「どうしたのよ。」



「…見られてる。」


彼の視線の先を追うと、窓の外から、此方を覗く黒い影が見えた。

目も口も見えない、猫の様な生き物が座って此方をじっと「みている」

そして、黒い炎を上げて、ふわりと空へ消えていった。


恐らく、主人の元へと戻ったのだろう。



「…。」

「…。」




((今夜、呪われる。))





互いの死期を感じ取り、2人は机に頭を突っ伏した。



そして、見えてしまう不幸に、互いのグラスをこつんと当てて慰め合った。




言いふらしてなければ今回は見逃しましょうと、報告を受けた彼が「ふふっ」と笑いながら言っています。


ちなみに、彼は自分の糸は見えてないです。

見なくても分かっているからです。

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