3-⑨
永遠の女神の手がかりが、手に入ります。
3章も残り僅かになりました。
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通りを暫く歩き進んでいくと、大きな黒い扉のある建物の前に就いた。
「ここです。」
「随分と大きな建物ですね...。」
レリアは屋根についた、カラスと思しき風見鶏を見上げながら言う。建物の外壁をよくみると、レリーフがあちこちにあり、蝋燭と炎が彫られていた。
「ここは、冥炎の神の祝福を持つ者だけが就ける、通称「黒の使徒」の支部です。」
「黒の使徒…?」
馴染みのない言葉に、レリアは首を傾げた。
「私の仕事仲間が集まる所...でしょうか。一応、使徒に関する多くの職が、国家公務員の仕事です。昨日の「声」を聴いていないか、確認をした情報源でもあります。」
「…という事は墓守り仲間ですか?」
(墓守りって、有志じゃなくて、ちゃんとした職業だったんだ…。)
レリアは内心、違う所に関心していた。
「そうとっていただいて、かまいません。」
言い終えると、扉の中へと入って受付へと進む。
中へ入ると、茶色や黒の色味の壁や床で、全体的に暗い感じだったが、この支部も祭りに参加しているのか、青や白のドライフラワーのリースが、いくつか飾らせていた。
「ご用件は何でしょう。」
黒い服を着た女性が、此方を見ながら訪ねてきた。
「…黒主が来たと、お伝えください。」
「…?!!!」
シルドの言葉に、物凄い勢いで驚いていた。
椅子から飛び上がり、そのまま固まる受付嬢を見て、レリアも何事かと驚く。
「いいですか?」
「はははは、はいーーー!!」
シルドがもう一度訪ねると、金縛りが解けたのか、慌てて奥の部屋へと駆け込んでいった。
「お、お待たせしました、主様!!」
何人かの使徒と、支部の長と思しき人が、一列になって礼をしてきた。
「あ、主…??」
彼らの緊張感漂う様子を見て、その後シルドを見る。
シルドは、特に動じてはいなかったため、慣れているのかなとレリアは思った。
(もしかしてこの「黒の使徒」の中で、位が高い人なのかな、シルドさんって。)
ーー他から見たら、とてものんきな事を考えていた。
「いえ、今回、本当は寄る予定ではなかったのですが、緊急の案件がありまして。」
「貴方方に、協力をお願いしたいのです。」
シルドの言葉を聞き、支部長だけが顔を上げ、彼に近づいた。
「そういう事でしたら、是非!こちらへどうぞ。」
広そうな奥の部屋へと、シルドは促された。
「レリア、貴方は祝福を持つとはいえ、ここから先は入れないので、しばらくお待ちください。」
「分かりました。」
素直にレリアは同意し、カチコチに固まる受付嬢と共に、この場所で残る事になった。
「それから…。」
ばさりと音がし、一瞬レリアの視界が暗くなった。
「え、なんでこれを?」
シルドの外套を掛けられ、頭も被せられる。
「別に今は寒くないのですが…?」
何故という疑問ばかりが、レリアの頭を占めた。
「いいから、被って下さいね。いい子で待っているのですよ…では。」
自分の肩にふんわりと黒火を置くと、素早く使徒と一緒に奥の部屋へ移動してしまった。
「あの、ちょっ!」
ばたんと、扉を閉められる。
「理由ぐらい、言ってくださいよ…。」
ふよふよ顔の横で飛んでいる、護衛の炎が、慰めるかのように頬を撫でていた。
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ーーー賑やかに聞こえてくる祭りの賑やかさとは裏腹に、室内では暗い雰囲気が漂っていた。
「本当なのですか?美の女神の祝福が、残っていると?この国にですか?」
「しかも、貴方様のお連れに危害を…?」
1人の男性とシルドが話していた。
「生きているとは、言い難いですがね。まさか、1000年経ってその事実が出てくるとは、私も思っていませんでしたから。」
次々と昨晩放った、シルドの使い魔である黒い鳥が、冥炎の神の使徒の支部へ集まりはじめる。
部屋に沢山のありとあらゆる物を持ち込んでは、床に置き始めた。
ネックレス
古銭
宝石の塊
壺
絵画
貴重な物が多く積まれていく。
「まだあの女を覚えている記憶が、こんなにあったとは。しかも、どれも値打ちがありそうなものばかり。」
シルドはそう言うと、ある程度山になったモノ向けて、黒い火球を放つ。
やがて頂上から流れる様に、黒い炎が燃え広がっていった。
ーーー「…さま。」
背筋を撫でるような、悍ましい「声」に、ぎろりと赤色の瞳が苛立ち気に睨む。
「いい加減、消えてほしいと思っていた所でしたから。宣言通り…」
ごうと、黒い炎が一層勢いを増す。
「お前の記憶も、思いも、全て灰にしてやりますから。」
燃え残しがない様、憎々し気に、黒い炎の塊を見つめている。
「宜しければ、主様、我々も手伝いましょう。」
見ていた上級の使徒達も、前へと出る。
「いえ、この女は燃え残しがあってはなりませんから。」
「場所を提供して頂き、感謝しています。」
シルドは使徒らを制し、見守るように促す。
「しかし...あの存在は、厄介極まりないですね。」
「狡猾さは、やはりお前の専売特許でしたか。」
燃え盛る山を見ながら、骨が折れますねと言う。
「これらを、あの女の痕跡を消した後、全て持ち主に、丁寧に返して下さい。」
「かしこまりました。」
支部の長が礼をし、部下へと指示を出す。
ふと、シルドは炎の中にある、一際大きい白と金で出来た陶磁器が目に入った。
「確か…あの白い壺は、博物館の物ですから、もしかしたら騒ぎになっているかもしれません。先に説明をお願いしてきても?」
「分かりました。手配いたします。」
「貴方たちも、手伝いなさい。」
まだ自身の影に戻らず、棚の上に止まる鳥に声を掛けた。
了解したと言わない代わりに、首を縦に振ると主人の影の中に、するりと音もなく戻っていった。
「記憶も記録の一種ですから、永遠の女神ムネマ・グラフィの権能と相性が良く、記憶から自身の権能を自由に取り出して、見つかりそうになれば隠れてを繰り返していたのでしょう。」
「誘惑を使える依り代となる記憶が、これで随分と減りました。あの女の力を、大分削げたでしょう。」
「…ですが、大元を断つには、やはりその永遠ごと、葬り去らなくては。」
ーーーー永遠の女神様は、助けてあげられるんでしょうか。
段々と小さくなる黒い火を見ながら、シルドは彼女とのやりとりを思い出す。
そして、ふと、レリアが言ったあの言葉が、頭の中に居座った。
「…。」
険しい顔をし、暫く沈黙を続ける主に、支部長が心配そうに見た。
「憂えずとも、今夜中に解決できますから。」
「では、朗報を、信徒一同、お待ちしております。」
シルドの言葉に安堵したのか、そう言うと深々と礼をした。
黒い火が徐々に消え、何の声も聞こえなくなった品の1つを手に取る。
「…おや、懐かしい。」
銀の細工と蒼い宝石が施された、アンクレットを摘み、シルドは眼前で眺めていた。
「持ち主は…この方でしたか。」
記憶を読み、持ち主へと返さねばと、名残惜し気に元の山へと戻す。
すると、窓の壁から、太い蛇の様な黒いモノが入ってきた。
シルドの元へと近づき、やがて腕へと巻きつく。
黒々しい口が開き、見ている使徒たちには聞こえない言葉で、何かを囁く。
「…早かったですね。見つけましたか。」
「そうですか、もう…。」
目を伏せ、シルドは、もうある女神が手遅れだったことを知る。
「…はぁ。」
溜息をつくと、彼女の待つ扉の先を見た。
「…貴方は、永遠も燃やせば、悲しむでしょうね。」
あの時の様にと呟いた。
そして、少し悩む素振りを見せ、仕方ないと頭を振る。
「彼女が嫌だと縋りつくなら、やはり…縛っておかなくては、いけなくなりますかね。」
自身の腰にある鎖をそっと撫でた。
まるで、レリアに使ったことがあるかのような手振りだった。
「例え、貴方を悲しませることになろうと…。」
「貴方の命には かえられませんから。」
完全に沈黙したモノを背に、シルドは再び彼女の元へと戻っていった。
燃やせ 燃やせみたいな歌、ありましたよね。
書いてる時、ずっと頭から離れなくなって、困りました。




