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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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3ー⑧

いつも書きながら、最後が不穏になるんです。



抱きしめ合う2人を(若干1名は、逃げようともがいていたが)人々が生暖かい目線で見守りながら、広場を通り過ぎていく。


腕が緩みシルドの罰から逃れた瞬間、レリアは彼の腕を引っ掴むと、広場の脇道へと入って行った。


「はぁ、ここなら、落ち着いて話せそうです。」

レリアは息を整え、彼に向き合った。

「無意識に声を聞いていた様ですが…。」

何か聞こえたのですかと、シルドが尋ねてくる。


ようやく、衆目に晒されていた場所から、逃れる事が出来たレリアは、静かな通りで、彼に先ほど聞いた「声」について話しはじめた。



ーーーーーーーーーー



「…あの時の声とは別に…それも、助けを求めていたと。」

「はい。そうです。」

レリアは、突如聞こえたもう1つの声の方が、気になっていた。

とても小さな声だったが、確かに意志を持って自分に向けられていたと、レリアは感じていた。



「人の記憶の声って、特定の相手に助けを求められるんですか?」

「いや、無理ですね。強い思いだとしても、それは神の領域になるかと。」

首を横に振られた。



(という事は…。あの助けを呼んだのは、神様??)

か細く、消え入りそうな声だが、必死に自分へと語りかけるような、そんな声が耳から離れない。



「つかぬ事をお聞きしますが、美の女神様って、誘惑の他に何か力があるんですか?」

レリアの質問に、シルドは確かと思い返しながら答えた。


「美しさを保つ力です。あくまで、多少の保存や傷がつきにくいといったものです。」

シルドはその程度の力です、と言いたげだった。



「本来の美しさとは、努力あってこそですから。」



(…なるほど、一理ある。美貌を保つのは、それなりの苦労があるのかな。)

シルドのシミ1つない綺麗な顔を見ながら、説得力があるとレリアは思った。



だが、レリアはそれを聞き、美の女神の違和感に気付いた。



「亡くなった神様の意識や祝福が残るというのは、本来ありえないって、さっき言ってましたよね?」

「ええ、そうです。」

それが、どうかしましたかと、レリアに尋ねる。




「あの…私、2つの「声」が聞こえた時、混じった様に聞こえたんです。もしかして、美の女神の意識が消えてないのって、もう1人の…多分神様だと思うんですけど、それが原因だったりしませんか?」

彼女の言葉に、シルドは目を開く。




「なぜ、もう一つの声が神だと思ったのですか?」

「その…私に…必死に、言ってきた様な気がして。」

あくまで、感覚なんですがと、少し自信無さげにレリアは言った。


するとシルドは、ゆっくりと目を閉じて暫く黙考する。



「…成程。神の眷属化をしているのであれば、他の神の権能を使って、消滅から逃げおおせている可能性があります。」


「眷属?」

「ええ、敗けた神の神格を砕かず、神名を使って契約を行う事です。」

「契約した神は、その負けた神の権能を使う事が出来るのです。」

「神様の世界も、弱肉強食なんですね...。」


(弱い神様は、契約のカモにされちゃうんじゃ...。)

憐憫の心が生まれてしまう。


「じゃあ、美の女神様は…眷属にした神様がいたって事ですか?」

「聞いたことはありませんが、万が一の為に、隠していた可能性がありますね。ですが、そうなると誰を眷属に...。」


シルドは、再び考え込んでいたが、何か思いついたように口を開いた。



「永遠...。そうでした、永遠...。」



「何か?」

ぶつぶつと何やら独り言を言う彼に、レリアは尋ねた。


「おそらくですが、永遠を取り込んだ可能性があります。」

「...?」

何を言っているのか、さっぱり分かりませんと言う顔で、レリアは彼の言葉の続きを待った。


「ぁあ、すみません。永遠という力を持った、女神がいたのを、思い出しまして。」

「女神様?」

(もしかして、永遠って永遠の命を司るとか、永遠の富とか??)

凄い女神様だったのかと、頭の中で描いていると、シルドが口を挟んできた。



「…想像している所悪いのですが、彼女の持つ権能は記録です。」


「記録?」

レリアはこてんと、首を傾げた。

「人は例え亡くなったとしても、功績によって永遠に名が残る。彼女は信者の功績を記録し、必要な時に信者や神官へ渡していました。それ故、永遠の女神と呼ばれていたのです。彼女が亡くなったというのも、聞いていませんから、生きている…つまり神格は残っている可能性が高いです。」


「なるほど…、あ!」

レリアも何か思いついたように、シルドを見る。



「じゃあ、美の女神様は、永遠の女神様の権能を使って…!」

「ええ、自身の意識や権能を記録させたのかもしれません。」

2人は顔を見合わせ、互いに答えが一致したのを喜ぶ。

だが、シルドが直ぐにふふふと、なぜか不気味に笑い始めたため、レリアは若干後ずさりする。



「…ナヴィアータは、随分と狡猾な様ですね。」

「ふふふ。」


「…なんで笑ってるんです?」

訝し気にレリアは尋ねた。


「貴方は知らないかもしれませんが、冥炎の神にとって、美の女神は忌むべき敵なのです。」

「再びあの女を葬れる機会に恵まれるとは。」

「な、なるほど…?」

(シルドさんが祝福を貰ってる神様だから、同じように良く思ってないのかな。)



「ちなみに、どうやって美の女神を倒すんですか?」

「おそらくではありますが、永遠の女神の神格に、美の女神が乗っ取っている様な状態だと考えられます。」




「ですので、永遠の女神の神格を、破壊する必要があります。」


「おそらく、それが出来るのは、冥炎の…強力な力を持つ私だけでしょうね。」



「えっ。」


(でも、それって…)

永遠の女神を、消滅させることになるというのに気付き、レリアは一気に顔が青ざめた。



ーーーー助けて


権能を奪われた「永遠」の女神様の声が、ふと頭をよぎった。


気分がよさそうな彼を見て、言い辛そうにレリアが口を開いた。


「あの…。」

「…どうしましたか?」



「永遠の女神様は、助けてあげられるんでしょうか。」

その言葉に、シルドは表情を暗くさせる。


「…それは、分かりません。」

まずは、永遠の女神を探さなくてはと言う。


「出来る事なら、助けてあげたいんです。」

懇願する様な瞳で、シルドの方を見上げる。


(あの声を聞いてしまった以上、無視は出来ない…。もし、見捨ててしまったら。)




ーーーきっと私は永遠に後悔する。




その言葉が頭に浮かんだ時、なぜか…とても、胸が締め付けられる様な気がした。




それにと、レリアは古城での出来事を思い出す。

「シルドさんに、前の悪霊の時の様に、罪悪感を背負わせたくないんです。」

「レリア…。」


彼女の言った言葉に、シルドも思う所があったのか、レリアの少し落ち込んだ顔を見て思案した。


「…お約束は出来ません。ですが…もちろん、努力しましょう。」



「…ありがとうございます。」

その言葉を聞き、レリアは胸を撫でおろす。


「なら、早速「声」の主を探しに行きましょう!」

「そうですね。通りに戻りましょうか。」

シルドが、表通りの方を見ながら伝える。


「まずは、永遠の女神に関する情報からですね。伝手があるので、そこに向かいます。」


「分かりました!…あれ?」

レリアも頷いて同意をする。

その時、シルドの背後の影が、揺らいだように見えた。


(今、シルドさんの後ろに、何かいたような…?)


視線をやるも、特に何も見付けられなかった。


「レリア?」

「あ、いえ、シルドさんの後ろが、動いた様な気がしたのですが…。」

気のせいでしたと、レリアは足を一歩踏み出した。


「こっちですよ、シルドさん!」


早く行こうという、彼女の背中を、シルドはゆっくりと追いかける。



彼女が明るい通りへと、向かった瞬間だった。






「 永遠を探せ 彼女よりも 先に 」




男は、裏路地に出る前に呟いた。


後ろに伸びていた影から、何かが飛び出していく。


そして、蛇のように石畳の奥へと消えていった。





やっぱり最後、彼は永遠ごと焼き尽くす予定です。

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