3ー⑦
読みに来てくれた方、ありがとうございます。
3章は神と女神について、この話の世界観になる話が出てきます。
ーーー祭り本番の前日の早朝
朝日まぶしい街道を、シルドとレリアの2人が、昨日の広場に向かって歩いていた。
「あれは、美の女神ナヴィアータ・ライフォスの声に、間違いありません。」
「なんで、そうだと分かったんですか?」
「…聞いたことがあるもので。」
(嫌そう…。記憶か何かで会ったことがあるのかな?)
彼の表情を見る限り、何かあるのかと疑ってしまう。
確かに美の女神に関しては、古城にいた時に読んだ事があり、美しい美貌と裏腹に、性格が残忍であるのが伺える文献ばかりだった。
美しいと言われた人間の女性の顔を、嫉妬から切り刻んだとか、贈り物が気に食わず、贈ってきた家に対して、手を組んでいた王に頼み、奴隷堕ちにさせた等…。
ホントなのかと疑い掛ける、酷いものだった。
(でも、1000年以上も前にいなくなった女神様だし…。ナヴィアータ・ライフォス…あれ?)
そして、レリアはある事に気が付いた。
「ライフォス??…もしかして神名ですか?全部の名前が知られているという事は…。」
「はい。彼女はすでに守護神によって、敗北した女神です。」
「神格も破壊されており、今では、祝福を持つ者もいません。」
「神格?」
「…神の根幹をなすものです。神格は天神から授けられます。天神はいわゆる、天国を司る神で、唯一神を増やせる事が出来、名前のない、倒すことの出来ない原初の神です。天神は己を自ら作ったという伝説がありますが、真偽の程は誰にも分かりません。」
そして、話していると、いつの間にか踊り子が昨晩踊っていた場所に着いた。
「神とはいえ、理から逃れる事は出来ないはずです…。神格を破壊されれば、本来神は消滅し、その神の力の全ては、天神に返される。何かしらに、意識や祝福が残るというのは、本来ありえないのです。」
シルドは少し考え込みながら、レリアに伝える。
「ですが、レリア、貴方も経験した通り、「声」は間違いなく、貴方に向けて発せられていました。」
彼女の方を見ながら、神妙な面持ちで自身の考えを述べていった。
「冥府の神の祝福を持つ者は、この国では一定数います。」
「貴方が寝た後、少し調べたのですが…その誰もが、昨日、声を聴いていないと言っておりました。あれだけ強い記憶の声に反応しないという事は、意図的に、貴方だけを呼んだという事です。」
「正確に言えば、あれは…記憶に宿った美の女神の権能、誘惑の力です。」
私は偶々貴方の近くにいたから、聞こえたのでしょうねとシルドは付け加えた。
「ゆうわく…。」
確かに、声を聞いただけではない、あの抗えない蠱惑的な魅力は、誘惑と称するとレリアもしっくりきた。
(でも、なんで私に誘惑するの?)
「誘惑を受けたという事は…私、気に入られたんですか?」
「…貴方を、最上階から堕とそうとする神です。少なくとも、気に入られてはいないと思いますが。」
何を言っているんですかという、シルドの目線が突き刺さった。
「はい…そうですよね。」
すみません、と素直にレリアは謝った。
広場の真ん中に立ち、シルドが目を閉じる。
「…シルドさん?」
「…やはり、聞こえませんね。」
どうやら、昨日聞いた「声」を聞こうとしていた様だ。
「私には、周りの「声」も大きく聞こえてしまいますね。」
「確かに、色んな音が聞こえますね…。」
周りの歩く雑踏
楽し気に会話する人々
走っている子どもの遊び声
店を準備する音
レリアは、昨日の広場で舞っていた踊り子を、頭の中に描く。
あの緋色の衣装、銀の髪、金の装飾。
一つ一つが鮮明になってきた。
片足で優雅に回る 彼女を。
手の先まで伸びる、しなやかさ。
こちらを一瞥し、何度も 何度も見たくなる 蒼海の宝玉の様な瞳。
ーーーーー美しさは 永遠
「…レリア?」
ーーーーーねえ
ーーーーーー助けて
皮膚を撫でるような声と、懇願するような声が混ざり合って聞こえてきた。
「レリア!」
「!!」
シルドの自分を呼びかける声に、驚いて目を見開く。
「…レリア?聞こえますか?」
シルドが、心配そうに自分の肩を掴んでいた。
目の前にいる彼と、レリアもようやく焦点があった。
無意識とはいえ、自分は声を探っていたというのに気付く。
「あぁ、良かった…。」
そしてそのまま、広場の真ん中で抱きしめられる。
彼の早い鼓動を、身体全体で感じる。
レリアは恥ずかしさよりも、背中に感じる手の震えが、自分の事を大丈夫かと、不安に思っているのが分かってしまった。
「昨日といい、今日と言い…。」
急にやめて下さいと、レリアの頭上から声がする。
「…ごめんなさい。」
レリアも、彼を安心させるために、腕を背中に回す。
温かな抱擁に、シルドの動揺も落ち着いてきた。
「はぁ。またあの女神に、誘惑されかけたかと思いましたよ。」
抱きしめているレリアの顔を見て、安堵の息を吐く。
「あのもうそろそろ…。」
レリアは、シルドの背に回していた手を下ろし、離れようとする。
だが、そうは問屋が卸さなかった。
「…罰ですよ。私を心配させた罰です。」
「え。」
暫くそのままの状態が続き、周りの人々が何事かと見てくる視線に、レリアは晒され続ける事になった。
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段々と、明らかになってきましたね。
この章では、ある神たちの秘密が明らかになります。
ちなみに、年末は大掃除しますか?
私は1年ぶりに換気扇を開けたら、とても後悔しました。




