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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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39/40

3ー⑦

読みに来てくれた方、ありがとうございます。

3章は神と女神について、この話の世界観になる話が出てきます。


ーーー祭り本番の前日の早朝



朝日まぶしい街道を、シルドとレリアの2人が、昨日の広場に向かって歩いていた。


「あれは、美の女神ナヴィアータ・ライフォスの声に、間違いありません。」

「なんで、そうだと分かったんですか?」


「…聞いたことがあるもので。」

(嫌そう…。記憶か何かで会ったことがあるのかな?)


彼の表情を見る限り、何かあるのかと疑ってしまう。

確かに美の女神に関しては、古城にいた時に読んだ事があり、美しい美貌と裏腹に、性格が残忍であるのが伺える文献ばかりだった。

美しいと言われた人間の女性の顔を、嫉妬から切り刻んだとか、贈り物が気に食わず、贈ってきた家に対して、手を組んでいた王に頼み、奴隷堕ちにさせた等…。


ホントなのかと疑い掛ける、酷いものだった。


(でも、1000年以上も前にいなくなった女神様だし…。ナヴィアータ・ライフォス…あれ?)

そして、レリアはある事に気が付いた。


「ライフォス??…もしかして神名ですか?全部の名前が知られているという事は…。」


「はい。彼女はすでに守護神によって、敗北した女神です。」

「神格も破壊されており、今では、祝福を持つ者もいません。」


「神格?」

「…神の根幹をなすものです。神格は天神てんしんから授けられます。天神はいわゆる、天国を司る神で、唯一神を増やせる事が出来、名前のない、倒すことの出来ない原初の神です。天神は己を自ら作ったという伝説がありますが、真偽の程は誰にも分かりません。」


そして、話していると、いつの間にか踊り子が昨晩踊っていた場所に着いた。



「神とはいえ、理から逃れる事は出来ないはずです…。神格を破壊されれば、本来神は消滅し、その神の力の全ては、天神に返される。何かしらに、意識や祝福が残るというのは、本来ありえないのです。」

シルドは少し考え込みながら、レリアに伝える。


「ですが、レリア、貴方も経験した通り、「声」は間違いなく、貴方に向けて発せられていました。」

彼女の方を見ながら、神妙な面持ちで自身の考えを述べていった。


「冥府の神の祝福を持つ者は、この国では一定数います。」

「貴方が寝た後、少し調べたのですが…その誰もが、昨日、声を聴いていないと言っておりました。あれだけ強い記憶の声に反応しないという事は、意図的に、貴方だけを呼んだという事です。」



「正確に言えば、あれは…記憶に宿った美の女神の権能、誘惑の力です。」

私は偶々貴方の近くにいたから、聞こえたのでしょうねとシルドは付け加えた。


「ゆうわく…。」

確かに、声を聞いただけではない、あの抗えない蠱惑的な魅力は、誘惑と称するとレリアもしっくりきた。


(でも、なんで私に誘惑するの?)

「誘惑を受けたという事は…私、気に入られたんですか?」



「…貴方を、最上階から堕とそうとする神です。少なくとも、気に入られてはいないと思いますが。」

何を言っているんですかという、シルドの目線が突き刺さった。


「はい…そうですよね。」

すみません、と素直にレリアは謝った。


広場の真ん中に立ち、シルドが目を閉じる。


「…シルドさん?」

「…やはり、聞こえませんね。」

どうやら、昨日聞いた「声」を聞こうとしていた様だ。


「私には、周りの「声」も大きく聞こえてしまいますね。」

「確かに、色んな音が聞こえますね…。」



周りの歩く雑踏

楽し気に会話する人々

走っている子どもの遊び声

店を準備する音


レリアは、昨日の広場で舞っていた踊り子を、頭の中に描く。


あの緋色の衣装、銀の髪、金の装飾。


一つ一つが鮮明になってきた。


片足で優雅に回る 彼女を。

手の先まで伸びる、しなやかさ。


こちらを一瞥し、何度も 何度も見たくなる 蒼海の宝玉の様な瞳。



    ーーーーー美しさは 永遠


「…レリア?」


    ーーーーーねえ

 

    ーーーーーー助けて


皮膚を撫でるような声と、懇願するような声が混ざり合って聞こえてきた。


「レリア!」


「!!」


シルドの自分を呼びかける声に、驚いて目を見開く。




「…レリア?聞こえますか?」

シルドが、心配そうに自分の肩を掴んでいた。

目の前にいる彼と、レリアもようやく焦点があった。


無意識とはいえ、自分は声を探っていたというのに気付く。


「あぁ、良かった…。」

そしてそのまま、広場の真ん中で抱きしめられる。


彼の早い鼓動を、身体全体で感じる。

レリアは恥ずかしさよりも、背中に感じる手の震えが、自分の事を大丈夫かと、不安に思っているのが分かってしまった。


「昨日といい、今日と言い…。」

急にやめて下さいと、レリアの頭上から声がする。


「…ごめんなさい。」

レリアも、彼を安心させるために、腕を背中に回す。

温かな抱擁に、シルドの動揺も落ち着いてきた。


「はぁ。またあの女神に、誘惑されかけたかと思いましたよ。」

抱きしめているレリアの顔を見て、安堵の息を吐く。


「あのもうそろそろ…。」

レリアは、シルドの背に回していた手を下ろし、離れようとする。

だが、そうは問屋が卸さなかった。



「…罰ですよ。私を心配させた罰です。」


「え。」


暫くそのままの状態が続き、周りの人々が何事かと見てくる視線に、レリアは晒され続ける事になった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー






段々と、明らかになってきましたね。

この章では、ある神たちの秘密が明らかになります。


ちなみに、年末は大掃除しますか?

私は1年ぶりに換気扇を開けたら、とても後悔しました。

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