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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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38/40

彼女が知らずともいい話③

とある女神の最後です

小話になります。


ネタバレを含んでいますので、

今まで読んだことがない人は、注意して下さいね!



------美の女神ナヴィアータ・ライフォス


彼女の最後は、吟遊詩人に歌われるほど、有名だった。




時は遡り1000年前

------雲一つない青空

生まれ変わった国「フィリア王国」の城前にある広場では、元国王と女神の断罪が行われていた。



処刑台の上にいる、金髪の男の元へ、外套を目深に被る人物が合流した。



「…彼女は?」

金髪の男が尋ねると、外套から声がする。


「だめだと言うので…。」

「言うので?」


「鎖で縛り付けてきました。」


言っている言葉は物騒だが、「にこり」と男には聞こえてきた。

「...いい趣味してるな、ほんと。」

呆れた様に返事を返した。



「貴方が誰かを殺める事に、抵抗していました。」

「...きちんと償うからって、後で言っておくか。」

「貴方が冥府に来たら、情状酌量を考えておきます。」

「そこは、考えるじゃなくて、してくれよ。」

「人生まだこれからでしょう?」


「...。」

ごもっともな回答に、暫し沈黙が落ちる。

すると、ざわざわと衆目の中が騒がしくなりはじめた。どうやら、裁かれる者が彼らからは見えたらしい。


「情けをかける必要など、どこにもありはしないのに。...それに、元国王は現世の命を持ってしても、罪を償いきれないでしょう。」

「右に同じく。もう冥界に行ったのか?」

「はい。罪の重さに苦しんでますよ。」

当然だなと、金髪の男は呟いた。


「唯の人間ごときが、私に触れるな!!」


男2人が話していると、けたたましい、女の声が聞こえてきた。何人かに身体中を鎖で縛り上げられ、引き摺られてここまできた様だ。


「まさか、彼女もこんな感じになってたりは、しないよな?」


「ふふふ。」

「おい、誤魔化すな。」


そんな事を言い合っているうちに、引っ立てられてきた女が、男2人の前に来た。


「陛下。連れてきました。」

「ああ。そのまま縛り付けておけ。」



「コイツは俺がやる。」

フィリア王国の初代国王が、背にあった大剣を取った。



「おい、年増女神。次はお前の番だ。」

「…!小僧!」


鎖で身体を押さえつけられ、強制的に女は座らせられる。


「前国王や他国と共謀し、罪なき人々を苦しめ、殺した所業を、命で持って償え。」

ここに集まった者達に聞こえるように、高らかに宣言する。


「権力も、愛も、名声も、神としての格も、風前の灯。見窄(みすぼ)らしい有様だな。美の女神。いや元か?」

皮肉を交え、女神に向けて言い放つ。



「首を切るのは、民にわかりやすく、お前の失墜を見せつけるためだ。俺じゃ神格は砕けないから...良かったな。お前の執着する神自ら、木っ端微塵にしてくれるそうだ。」


金髪の男の言葉を聞き、隣に立っていた者の正体に気づいたのか、女は絶望した目をする。



「...さま、なぜ...。」

「...。」

男は答えなかった。

女へ何も言わない事が、最大の罰であるかの様に。



「お前の末路は…消滅だ。」

「天神の元に、送り返してやる。」


金髪の男が言い終え、剣を構えようとした時だった。




「は、」

「?」


「は、はははははははははっ!!」

狂ったように女神は笑い出す。



「この私が、首を切って、神格を破壊された程度で、消滅すると?」


さも可笑しいと言わんばかりに、若き王を睨め付ける。



「よく聞くがいい、醜い人間どもめ。」

衆目の中、壮絶な笑みを浮かべながら、女神は轟く様な声を張り上げた。



「私の力は永遠。」

「我(美しさ)を敬う者がいる限り、私も永遠。」


「美こそ、人を、世を、動かすのだ。」




----「  我(美しさ)を忘れるな。  」




「…言いたいことはそれだけか。」

「さらばだ、堕ちた女神ナヴィアータ・ライフォス。」


頭上に剣の裁きが落ち、沈黙の後、人々の自由を謳う声が響き渡る。




首が落ち、神格が粉々に破壊される直前の言葉...それは絶世の句となり、女神が倒された1000年以上経った今でも、人々の間に忘れ去られる事はなかった。






ようやく、彼の持つ鎖の正しい使い方を書けました。

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