彼女が知らずともいい話③
とある女神の最後です
小話になります。
ネタバレを含んでいますので、
今まで読んだことがない人は、注意して下さいね!
------美の女神ナヴィアータ・ライフォス
彼女の最後は、吟遊詩人に歌われるほど、有名だった。
時は遡り1000年前
------雲一つない青空
生まれ変わった国「フィリア王国」の城前にある広場では、元国王と女神の断罪が行われていた。
処刑台の上にいる、金髪の男の元へ、外套を目深に被る人物が合流した。
「…彼女は?」
金髪の男が尋ねると、外套から声がする。
「だめだと言うので…。」
「言うので?」
「鎖で縛り付けてきました。」
言っている言葉は物騒だが、「にこり」と男には聞こえてきた。
「...いい趣味してるな、ほんと。」
呆れた様に返事を返した。
「貴方が誰かを殺める事に、抵抗していました。」
「...きちんと償うからって、後で言っておくか。」
「貴方が冥府に来たら、情状酌量を考えておきます。」
「そこは、考えるじゃなくて、してくれよ。」
「人生まだこれからでしょう?」
「...。」
ごもっともな回答に、暫し沈黙が落ちる。
すると、ざわざわと衆目の中が騒がしくなりはじめた。どうやら、裁かれる者が彼らからは見えたらしい。
「情けをかける必要など、どこにもありはしないのに。...それに、元国王は現世の命を持ってしても、罪を償いきれないでしょう。」
「右に同じく。もう冥界に行ったのか?」
「はい。罪の重さに苦しんでますよ。」
当然だなと、金髪の男は呟いた。
「唯の人間ごときが、私に触れるな!!」
男2人が話していると、けたたましい、女の声が聞こえてきた。何人かに身体中を鎖で縛り上げられ、引き摺られてここまできた様だ。
「まさか、彼女もこんな感じになってたりは、しないよな?」
「ふふふ。」
「おい、誤魔化すな。」
そんな事を言い合っているうちに、引っ立てられてきた女が、男2人の前に来た。
「陛下。連れてきました。」
「ああ。そのまま縛り付けておけ。」
「コイツは俺がやる。」
フィリア王国の初代国王が、背にあった大剣を取った。
「おい、年増女神。次はお前の番だ。」
「…!小僧!」
鎖で身体を押さえつけられ、強制的に女は座らせられる。
「前国王や他国と共謀し、罪なき人々を苦しめ、殺した所業を、命で持って償え。」
ここに集まった者達に聞こえるように、高らかに宣言する。
「権力も、愛も、名声も、神としての格も、風前の灯。見窄らしい有様だな。美の女神。いや元か?」
皮肉を交え、女神に向けて言い放つ。
「首を切るのは、民にわかりやすく、お前の失墜を見せつけるためだ。俺じゃ神格は砕けないから...良かったな。お前の執着する神自ら、木っ端微塵にしてくれるそうだ。」
金髪の男の言葉を聞き、隣に立っていた者の正体に気づいたのか、女は絶望した目をする。
「...さま、なぜ...。」
「...。」
男は答えなかった。
女へ何も言わない事が、最大の罰であるかの様に。
「お前の末路は…消滅だ。」
「天神の元に、送り返してやる。」
金髪の男が言い終え、剣を構えようとした時だった。
「は、」
「?」
「は、はははははははははっ!!」
狂ったように女神は笑い出す。
「この私が、首を切って、神格を破壊された程度で、消滅すると?」
さも可笑しいと言わんばかりに、若き王を睨め付ける。
「よく聞くがいい、醜い人間どもめ。」
衆目の中、壮絶な笑みを浮かべながら、女神は轟く様な声を張り上げた。
「私の力は永遠。」
「我(美しさ)を敬う者がいる限り、私も永遠。」
「美こそ、人を、世を、動かすのだ。」
----「 我(美しさ)を忘れるな。 」
「…言いたいことはそれだけか。」
「さらばだ、堕ちた女神ナヴィアータ・ライフォス。」
頭上に剣の裁きが落ち、沈黙の後、人々の自由を謳う声が響き渡る。
首が落ち、神格が粉々に破壊される直前の言葉...それは絶世の句となり、女神が倒された1000年以上経った今でも、人々の間に忘れ去られる事はなかった。
ようやく、彼の持つ鎖の正しい使い方を書けました。




