3-⑥
いつの間にか、もう1月が迫ってきましたね。
見に来てくれた方、ありがとうございます。
ベランダが2つの部屋と繋がっていたため、レリアは一度、シルドと話をするために、彼の部屋へ外から入る。
椅子に腰かけて、先ほどの光景をレリアは思い出していた。
(ほんとに、危ない所だった…。)
あのまま誘惑に乗って、シルドさんが気付かないままなら、私は柵を超えて転落していた事だろう。
運が良かったというべきだ。
「どうして、私がここに出ていると分かったんですか?」
「偶々だったのですが、強烈な声が外から聞こえたもので…。ベランダに出て確認をしようと、カーテンを開けた時に…。」
その場面を思い出したのか、シルドの表情が強張る。
「…穢らわしい、誘惑に満ちた声です。一瞬でしたが。」
吐き捨てるような言葉だった。
「…もう2度と、その「声」の誘惑に憑りつかれないで下さい。」
レリアの方を見て、念押しされる。
「が、がんばります...。」
「…。」
がんばります?と言いたげな目で、シルドはレリアを見る。
「私の祝福では、「守り」に関しては限界があるのです。」
「ですから、約束して下さい。「声」が聞こえても、触れようとする前に、必ず私を呼ぶと。」
シルドの両手が、彼女の手を包み込む。
懇願されるような瞳の奥に、まだ彼の怯えの色が見えた。
「分かりました…。」
彼にこれ以上の心配をかけないためにも、レリアは頷いた。
「約束です。」
彼女から得た言葉を聞き、シルドは彼女の手を名残惜しそうに離したのだった。
「というか…やっぱり、あれは誰かの記憶の「声」なんですね。」
「…ええ。そうです。」
劇を見ていた時に感じた違和感は、間違いではなかったのだ。
「シルドさん、「誰」の声か、知っていますよね?」
レリアは、確信を持ってシルドに尋ねる。
知っていなければ「穢らわしい」等という言葉は、出てこないと思ったからだ。
「....はい。知っています。」
「!じゃあ」
教えて下さいという前に、シルドの長い人差し指が、レリアの口元に当てられる。
「夕食は此方に運ばせますので、食べ終えたら寝て下さい。疲れがあれば、誘惑に乗せられてしまいますから。...いいですね。」
話は、明日の朝にしましょうと言われる。
だが、誰なのか気になり、レリアは聞きたいと言わんばかりに、シルドを見つめる。
「今夜は、私と同じ部屋で休んで下さい。」
「でも...。」
「 いいですね 」
「…はい。」
シルドの目に力が込められ、有無を言わさぬ圧を感じ、レリアは頷くしかなかった。
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「いやシルドさん…。流石に見られながらは、あの…眠れませんって。」
夕食後、さっさと寝る様に促されるレリアだったが、寝台の横で立つ彼…シルドの監視の目があるのは、緊張が勝って眠れない。
寝台に横になるも、やはり視線が気になって、ちっとも眠れる気がしない。
この状況を作ってしまった自分に、申し訳なさがあるものの、何もここまで心配せずとも…とレリアは思っていた。
「仕方ないですね…。」
シルドは、レリアの方に手を翳す。
「眠りへ誘うのは、得意なんですよ。」
「…火葬されるんですか?」
その手にある黒い炎はなんですか?眠りって、永眠ですか?と、シルドの右手から出る黒い炎に、レリアは怯える。
「違いますよ。私の力の1つです。」
呆れた様に、そんな事する訳ないでしょうと言われる。
「…目を閉じて下さい。」
レリアは素直に従い、瞼を閉じると、自然に頭の中がぼんやりと霞んできた。
数秒後にはあっさりと彼の手によって、夢の世界に入るのだった。
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暗くなった部屋に、静かな寝息が聞こえてくる。
シルドは寝台の横に立って、黒炎を纏う手を下ろした。
そして暫く、彼女の安らかな顔を眺める。
「申し訳ありません、レリア。声を荒げてしまって。」
名残惜しそうに、彼女の髪を撫でると、カーテンを開けてベランダに出る。
街の明るい喧騒とは裏腹に、シルドの表情は陰りを帯びていた。
「許してください…。」
「私は...きっと貴方の「大丈夫」を...心の底からは、信じられないのです。」
「...今度は、約束を守って下さいね。」
苦し気な表情を浮かべながら、月を見上げて、ぽつりと呟いた。
そして、「声」が聞こえてきた方の広場へ、怒りを携えた瞳で、鋭く視線をやる。
「美しさは「永遠」ではないはずなのに、ここまで祝福が残り続けるのは、やはりおかしい…。」
「それに、記憶に意思は宿らないはず。」
「...一度、調べた方がいいですね。」
そう言うと、自身の影から黒い鳥らしきモノを、一斉に解き放つ。鳥達は夜空に紛れて、渡り鳥の様に四方八方へ飛んでいった。
「今までは、私であったから良かったものの…。」
目が夜を宿した色から、徐々に緋色に変わる。
「彼女を、レリアを傷つけようとするなら、話は別です。」
「丁寧に、全て、一欠片も残さず見つけ出して...。」
「…灰にしてやる。」
地獄の底から湧き出た様な声で、揺るがない破滅を宣言する。
ベランダの柵を掴むシルドの手から、ぶわりと激昂に荒れる焔が吹き上がっていた。
シルド 激おこです。
言葉が最後は崩れておりました。
余談なんですが、私、夜中の2時とか3時とかに話を上げてる時があるんですが、この前マイページみたら、意外と起きてる方多いんだなぁ、という感想を持ちました。
もうそろそろで、1月1日ですね。皆さんは、年越しは起きてる派ですか?




